声は作れない。語りたくなる体験だけが残る。
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マーケティングトレンドインプット 今週のクイック解説3選
ノーランの新作映画のインフルエンサー試写ゼロ/ユーザーの声は、作るものから語ってもらうものへ

クリストファー・ノーランの新作映画『The Odyssey』(邦題は『オデュッセイア』)で配給のユニバーサルが面白い判断をした。インフルエンサー向けの試写会を行わない。ロンドンでのワールドプレミアのあとは昔からあるオーセンティックな批評家向けの試写だけで公開日を迎える。7月17日公開の今年最大級の超大作でこの選択。
近年のハリウッド大作は、公開前にファンサイトやインフルエンサーに先に見せて、SNSに前のめりの絶賛ミニレビューを並べさせるのが定石になっていた。公開のタイミングに合わせてポジティブな感想だけがわっと流れてくるあれ。
仕込まれた絶賛はもう見る側にバレている。普段映画を見ていないような人まで公開週に行列を作る盛り上がり方は映画好きから見れば違和感でしかなく、むしろマイナスに働くことがある。それなら映画を真に楽しむ層に、本物の批評で届いた方が結果的に強い。実際ノーランの前作『オッペンハイマー』はSNSの仕込みではなく、批評と口コミの積み重ねで観客を広げた映画だった。
マーケティング的仕掛けは透けて見える
この判断の背景にあるのは映画業界だけの話ではない。ここ数年で生活者の「マーケティングリテラシー」と呼ぶべき感覚は顕著に上昇している。企業が仕掛けたものは仕掛けたこと自体がすぐに見えてしまう。どこがどうとは言えなくてもなんとなくわかる。AIが生成した画像は、なんとなく分かる人も多いと思うがそんな感じ。
生活者は大量の情報にスマホを通じて接する中で、意識的にも無意識的にも無限に事例を見ている。タイアップ投稿も、ステルスに近い案件も、公開日に揃う絶賛もよく見る。だから気づこうとしなくても勝手に気づいてしまう。「ユーザーの声を企業が作りにいく」アプローチは根本から成立しにくくなっているのだ。
私はユーザーの声は、作るものではなく、語ってもらうものに変わったんだと考えている。企業ができるのは、生活者が自然と語りたくなるように体験を設計するところまで。発話そのものは生活者にやってもらう。そこに手を入れてはいけない。最近まとめたブランドナラティブのレポートでも書いたのだけど、いま強い事例は例外なく、発信素材を配るのではなく、体験そのものに語りたくなる構造を組み込んでいる。※弊社が集めた事例をもとにブランドナラティブに関するトレンド分析をしたプレスリリースを出しています。
現代的な流行は体験から発話が生まれる
昨年一世を風靡したラブブ。ポップマートのあのキャラクターは広告で流行ったわけではなく、開けるまで中身が分からないブラインドボックスという形式そのものが開封動画を生み、有名アーティストが自分のバッグに付けている姿の目撃から世界に広がった。仕込みではなく、体験と目撃によるもの。
ドバイチョコレートも同じ構造。火付け役のFIXは、広告を打つどころか、デリバリーアプリで1日数回、数分で売り切れる売り方をしていた。世界中に広がったのはあの断面を割る動画を買えた人が撮らずにいられなかったから。語りたくなる商品の構造があった。
どちらも、企業が用意したのはインフルエンサー向けの台本ではなく、語りが自然に生まれる体験の形。
ナラティブは共作になる
ブランドの物語も同じ方向に動いている。企業が一方的に語る物語は、どれだけ作り込んでも、いまの生活者には届き方が弱い。生活者が自分の体験として語り直し、その語りが積み重なって、ブランドの物語が形になっていく。企業の仕事は、物語を完成させることではなく、語り直せる余白と、語りたくなる理由を渡すことに変わっている。
『The Odyssey』の試写ゼロも、宣伝の放棄ではなく、この設計に基づく。最初の語りを、仕込まれたインフルエンサーではなく、批評家と映画好きに渡す。誰が最初に語るかまで含めてが、体験の設計。
運動系マッチングアプリ/あえて「アプリにいる時間を減らす」が信頼に変換される
アメリカで、運動好き同士をつなぐマッチングアプリが相次いで登場している。同じジムにいる人と会えるLeg Day、招待制のウェルネス系Ateam、フィットネスレースの参加者同士をつなぐSurf。NYTによれば、これは「新しいデート」だ。共通しているのは、どれも「スワイプ疲れ」への対抗を掲げていること。

スワイプ疲れの正体
マッチングアプリは人の良しあしを(主に)スワイプで判断するUXだ。盛れる写真と推敲した文章で「オンライン用のイイ感じの自分」を作り、好みっぽい人とマッチングし、合うかどうか分からない相手と何週間もメッセージを往復して、いざ会ったら違った。このエンドレスな消耗は世界的に「スワイプ疲れ」「マッチングアプリ疲れ」として認識されている。
しかも最近はプロフィールもメッセージの返答もAIで生成できてしまう。画面の向こうにいる相手の、どこからどこまでが本人なのか。作り込まれた自分同士の探り合いが、そもそも人間が書いているのかも分からなくなり、なおさら何も信じられなくなってる。
汗をかいた姿は加工できない
「運動デート」はこの問題への有効な解答になっている。汗をかいて息が切れているとき、その姿に人は嘘がつけない。隣で追い込んでいる姿は加工できないし、そもそも手を抜いていたらダサい。ヒィヒィ言ってて全然かわいくない状態も含めて、抜き身の自分同士で向き合うシチュエーションになる。何週間もメッセージを重ねて探り合うより、1回一緒に運動したほうが、相手について得られる情報は圧倒的に多いと言われれば納得だ。、
もうひとつ、最初から「運動が好き」「自分を磨いている」という共通点が確定している。スワイプ疲れの正体が、合うかどうか分からない人との消耗だとすれば、共通点を先に固定しておくのは、安心の外付けみたいなもの。会う前の不確実性をアプリの機能ではなく、出会い方のデザインで減らしている。しかも運動が好きだったり筋トレを日常しているなら、基本的には容姿もついてい来ることが多い。明示的ではなくても容姿がスクリーニングされていると言えるだろう。
滞在させないアプリ

この手のアプリはどれも、設計思想が「アプリにいる時間を減らす」方向を向いている。
普通、アプリビジネスは滞在時間とエンゲージメントを最大化する設計にする。長く居させて、広告を見せて、課金させる、あるいは有料プランに入る。ところが、例えばSurfは「アプリにいる時間を減らして、デートの時間を増やす」と自分で言っている。Ateamに至っては、1日11分でアプリが強制終了する。Likeボタンすらない。
これが成立するのは、運動という、必ずオフラインで起きることが中心にあるから。ジムもハイロックスもリアルの現場が主役で、アプリはそこに行くまでの入口でしかない。だから、早く閉じて現場で会え、となる。滞在時間で稼ぐアプリには絶対に言えないセリフで、滞在させないことが、むしろ信頼の証になる。アプリの良さを測る物差しが、中でどれだけ時間を過ごしたかではなく、外で何が起きたかになる。
入口ビジネスのうまみ
ビジネスとして見ても、これは痩せ我慢ではないと思う。出会いの入口としての機能をちゃんと果たせば、アプリは必ず使われるし、課金にもつながる。広告のために薄く長く滞在させる代わりに、デジタルで必要な手続きのど真ん中だけで触られるアプリになる。
人のスマホには平均して50以上のアプリが入っていると言われる。その全部が滞在時間を取り合っている中で、無理に居座らせる設計はどのみち限界がある。オフラインの体験への入口に振り切って、その入口の通行料で稼ぐ。マッチングアプリの疲れが極まったいま出てきた形としては、当然の進化なのかも。
デイキャップ/お酒は消えずに、時間帯が引っ越す
新しいお酒の飲み方、デイキャップ。

海外で「デイキャップ」という飲み方が広がっている。寝る前の一杯を意味するナイトキャップをもじった言葉で、お酒を夜から深夜にかけて飲むのではなく、夕方などの早い時間に飲むことを指す。仕事帰りにすぐ飲んで早めに帰る。午後に屋外でワインを飲む。夕食前だけ飲む。節度ある飲酒の一環として、早い時間に、軽い量を、意識的に飲む。
バカルディの2026年のトレンド調査では、飲酒可能な年齢のZ世代の34%が深夜よりも夕方の早い時間に飲むほうを好むと答えた。ドイツ、スペイン、カナダ、イギリスでも消費者の約3分の1がこの方向に向かうとされ、オランダのZ世代にいたっては半数近くがナイトキャップよりデイキャップ派だという。
減酒の流れの中の一文化
前提として、これは単発の流行ではない。世界的にアルコールを控える、あるいは代替する流れがあり、デイキャップはその中のひとつの文化だ。
あえて飲まない選択を楽しむソバーキュリアスという言葉が定着し、アメリカでは2025年に49%の人が飲酒量を減らそうとしていると報じられた。2023年から4割以上増えた計算になる。ノンアルコールビールの購入は直近1年で22%増え、ノンアル市場そのものが成長カテゴリになっている。Z世代は上の世代より1人あたりの飲酒量がはっきり少なく、そもそも飲んだことがない層も多い。
「酒離れ」は事実として進行中だ。ただ、デイキャップは酒をやめる話ではない。やめるのではなく時間帯を早める。
なぜ、やめるのではなく早めるのか
まず、夜を潰す飲み方が多くの人にとって「割に合わない」選択になっている。健康志向と睡眠への関心が上がった結果、深夜まで飲んで翌朝を犠牲にするコストパフォーマンスが悪化した。別にみんなお酒を嫌いになったわけではない。早い時間に軽く飲んで早く帰れば、社交も酒の楽しみも捨てずに、睡眠と翌日が守れるということ。飲酒量を我慢で減らすのではなく、時間をずらせば自然に減る。
さらに社交の変化もある。若い世代の集まりは、飲むことよりも何かをすることが主役になりつつある。ランニング、ゲーム、ワークアウト、ライブ。酒は体験を引き立てる脇役で、主役でなくなれば、深夜まで杯を重ねる必然性もなくなる。この号の運動系マッチングアプリの話とも地続きで、リアルの活動を中心に置くと、その周りの習慣が全部変化しうる。
酔うことが主目的でなくなるなら、楽しむためが大切になる。飲むなら、いちばん気分のいい時間帯に、いちばんおいしい一杯を。
業界側もこの変化に合わせて動く。小さいサイズのカクテル、度数を抑えた一杯、スプリッツ系。バーのメニューが、深夜に何杯も飲ませる前提から、早い時間に少なくおいしく、の方向へ。かわりにより凝ったカクテルも期待される。飲酒量が減る局面では、業界は1杯あたりの単価と体験の質で取り返すしかない。デイキャップは消費者側の生活防衛であると同時に、業界にとっては新しい時間帯と新しい価格帯の発明でもある。
前週のマーケティングジャーニー!
実は私、Podcastもやってます!元テレビ朝日アナウンサー、現令和トラベル役員の大木優紀さんと2人でマーケティングトレンドや旅について(ほぼ)毎週30分~40分のコンテンツをお届け。
最新回はワールドカップの最新ブランディング事例解説!リーバイスとハインツがFIFAに隠されたロゴをきっかけにどんなことをしたのか?の分析とともに、いま上手くいくブランディングアプローチとは何か?を考えています。
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ブランドナラティブレポート5-6月号刊行
トレンドを定点観測する中で、収集した1,000以上の事例をもとに、弊社manage4から「ブランドナラティブレポート」を定期的に出していきます。5-6月のテーマは「体験のメディア化」
4つの事例から、現代のUGCは投稿以来ではなく、体験設計からのオーガニックな発露が重要である、という解説をしております。
このニュースレターでも解説している事例が多いですが、レポートとしての分析はまた別方向で作っているのでよかったらご参考に!
源泉かけ流し!今週のマーケティング関連トピックス(今週は13個ご紹介!)
『シラート』インディペンデント映画として 異例の大ヒット! 公開15日目で興収1億円突破
シラート、インディペンデント映画としては異例の興収1億円突破らしい。
個人的には今年みた映画の中で一番「スキ」でした。
悪趣味な映画という批判も正当かと思うし、「予測不能」のコピーを見て、どんでん返しサスペンス、みたいなのを予想したとしたらそれは違うんです。
さすがに精神のコンディションが良い時に見たほうがいい。
シラートが提供するのは「映画体験」を通じて、人に「生きる(生き残る)こと」の無情を突き付けること。
お話や映像を解釈することで心を動かすというより、映画をある種の「装置」として活用しているタイプの映画。
広告費・クーポンなしでも急成長 しんぱち食堂、口コミを呼ぶ体験設計
びっくりなんだけど、しんぱち食堂ってBGMはJ-POPとかじゃなくて「虫の音」らしい。
歌詞があって、意味のある音楽を流すと、なんとなく味がぼやける。だから無視の音で静けさを演出することで、食事に集中できる設計にしてるんだって。
加えて店内に謎のポスターとか、「○○産の厳選素材使用」、みたいな能書きも書かない。そうやって「魚定食」の価値を高める店舗設計にしてるんだ。
K-POPシェア、東南アジアで後退 ローカルが人気上昇中
K-POPのシェアが東南アジアで後退。
タイ、インドネシア、マレーシアなどでローカルの楽曲の再生率が高まる。
K-POPがもともと強いが、洋楽も同時に落ちてるので「ローカルの楽曲」が“発見”されている。
音楽PFとデジタル化により、音楽リテラシーが世界的に向上しそう。
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- 海外現地調査レポート:ソウル|SUPER MATCHA/抹茶を「コーヒーの次」に置き換える韓国ブランド
- 人生の糧になる舞台レビュー
- 今週の1曲
- 最後に!
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