整いすぎは疑われる。雑な手触りこそが価値になる。

今週は15,255字。気づいたら今週はAIの時代に「人間の価値ってどこに残るんだっけ」という話が多いかも。整いすぎを嫌うデザイントレンド hyper goo、文脈で売れた左ききの道具店、創業者が集まるサンフランシスコの24時間カフェ。書籍レビューは『メタスキル』。今週の1曲は東京事変「私生活 新訳版」。15個のニュース。
南坊泰司 2026.06.30
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マーケティングトレンドインプット 今週のクイック解説3選

hyper goo/整いすぎが信用を失う時代における「雑な」デザイン

最近、やたらと完成度の高い広告を見ると、ふと、これはAIが作ったやつでは、と疑うようになってないですか?整然としたレイアウト、過不足のないコピー、隙のない配色。少し前ならそれは出来のよさの証だったのに、いまは逆に、人の手が入っていない冷たさとして引っかかる。どうせAIだよなって。
その違和感をちょうど裏返したような潮流に、ニューヨーク・タイムズが hyper goo(ハイパー・グー)という名前をつけていた。gooは、ぐにゃっとした粘液のようなものを指す言葉だ。空気を入れすぎた風船みたいにぷっくり膨らんだ文字、溶けて垂れた書体、毒々しい黄緑やピンク、わざと粗くしたピクセル画像、手描きの落書き。Z世代に向けたデザインが、いま競うように下手な方向へ、雑に見せる方向にあえてなっている。

清潔なデザインが知性の記号だったD2C時代

ミレニアル世代に支持されたブランドを思い出すと、Warby Parker、Everlane、Glossier、Casper、Allbirds。見た目はどれもよく似ていた。端正なサンセリフ体、白い余白をたっぷりと使ったり、淡い色、控えめに静かな宣言する広告。

その清潔さは、当時は洗練であり、知的さであり、信頼でもあった。何を選べばいいか分からないとき、この整った見た目を選んでおけば外さない安心の記号。きちんと整っていること自体が、専門家が手をかけた証拠であり、だから信用できると思える心の作用。

整いすぎが、最適化の証拠に変わった

ところが同じ清潔さが狙った効果を生み出せなくなっている。洗練されているというよりも、マーケティング的市場調査でつくられた「最適解」っぽい感じ。万人に好かれそうな雰囲気。そしてこの1-2年では「AIが生成したのかもしれない」感じ。
かつて端正なデザインは、相応の予算と技術がなければ出せなかった。だからこそ、きちんと作られている証拠になっていた。ところが、正解風のテンプレートが出回り、生成AIがいくらでも端正なビジュアルをゼロコストで吐き出すようにいまなってる。そうなると整っていることは品質の証明ではなくなり、むしろ人間の香りがしない量産型の気配になる。
そうなると「整ったデザイン」の意味は逆転してしまう。今度は、簡単には真似できない雑さや偏りのほうが、人の手が入った証拠になる。線のガタつきとか、内輪にしか通じないネットミーム、意味がすぐには取れない解釈が必要な表現。下手に見えることが、機械ではないことの証明になる。だからブランドはわざわざ手描きの文字を差し込み、あえて粗いピクセルを選ぶ。整える技術ではなく、整えない判断のほうに、人の手触りを宿そうとしている。

本物っぽさは、見つかった瞬間に薄まっていく

ただ、この逆転の賞味期限が長いわけではない。膨らんだ文字、ネオンカラー、クリーチャー的な感じ、初期ウェブ風の質感、わざとの低解像度。この組み合わせを貼ればZ世代向けに見える、というテンプレートが、急速に固まり乱発されはじめている。それこそ、今は「正解風」があれば模倣は簡単なのだから。

人間くささを示すはずだった記号がこうして定型化していく。皮肉なのは、定型化したその瞬間に示すはずだった人間くささそのものが削れていくわけで。なので hyper goo の寿命は、案外短いのかもしれない。同質化がすでに始まっている以上、いずれ、雑なのにどれも似ているという飽和に到達する。
そもそも、人間が作った証拠をわざわざ演出しないと信用されない時点で、話はもうだいぶ妙なことになっている。整いすぎを疑い、雑さに安心するなんて皮肉なハナシ。

「左ききの道具店」が世界に届いた文脈の設計

岐阜で夫婦が営む左ききの道具店という店がある。名前はHIDARI。越境ECとして海外にも売っているのだが、開設から4年弱、ほとんど反応がなかったらしい。流入は多い月でも800ほど。店主の言葉を借りれば、真っ暗闇に向かって「誰かいますかー」と声をかけ続けるような日々だったとのこと。

商品はちゃんとしてるし、サイトもきれいに作り込み、写真も整え、道具を主役にカッコよく見せていた。越境ECのコンサルタントに伴走してもらい、セッション数自体は5倍に伸びた。それでも売上は、国内向けの半分にも遠く届かないところで止まっていた。

そんなHIDARIの越境向けにおける伸びた転機は、ひとつのリール動画。店長が、店舗をちゃんと紹介しよう、私の顔も出そう、とスマホで撮っただけの店紹介を投稿。特別な編集も、狙った仕掛けもない。それが2日で140万回再生され、フォロワーは270から4,236に急上昇。コメントには、ついに「自分たちむけの店を見つけた」、という日本語ではないことばが続々。

面白いのは、売れた理由が商品そのものではないこと。扱っている商品は前から変わっていない。きれいに撮った商品写真を投稿していたタイミングでは伸びず、店長が顔を出して実店舗を見せた瞬間に流れが変わった。てことは商品というより「文脈」こそが成功の要因。

良いモノを知るだけなら、いまは世の中に溢れている。検索すれば優れた商品はいくらでも出てくるし、どれも一定以上の品質はある。そういう飽和した場所で人を惹きつけるのは、モノそのものより、その背後にある文脈のほうだ。

同じ属性に、文脈が乗ると価値が変わる

この店はが買えた(創った)文脈とは何か?
日本の高品質な左利き道具の専門店

岐阜で夫婦が営む、左利きの店長が選んだ左利き道具の専門店
という変化。
店主が顔を出し、左利きで苦労した子ども時代や、店を立ち上げた経緯を語る。商品の説明は変えていない。まとっている物語を一緒に語っていく。

そこには文脈がいくつも重なっている。地方の手仕事という手触り、個人の物語から生まれたという出自、夫婦で営むという関係性。そしてそれらは、日本のクラフトマンシップという大きな文脈とも共鳴する。属性としての左利きの道具は同じでも、どんな文脈に置かれるかで、魅力はまるで変わるってこと。

もうひとつ重要なのが「実在感」。
左利き専門でECではなく実店舗を構える店は、世界的にも珍しい。左利きは人口の1割ほどいるのに、専門店は国内に1、2軒、海外でも一国に1軒あればいいほうで、しかもECだけの店が多い。世界左利きの日を提唱した先駆者イギリスですら、実店舗は閉じてるらしい。
そんな中で、本当に店があり、人がいて、その人が商品を選んで並べている。あらゆるものがAIで生成されていく時代に、本当にそこにある、本当にそこにいる、と感じられることが、強い引力になった。

手仕事=良い、わけではない

地方の手仕事だから、夫婦の物語があるから、その道具が機能的に優れているわけではもちろんない。文脈は直接的に品質を保証するわけではないよね。それでも、人が惹かれ、選ぶのはこちらのほうだ、という売り方、見つかり方の話。文脈は、良し悪しの証明ではなく、選ばれる理由をつくる。
良いモノはもう前提で、その先で、それをどんな文脈に乗せて差し出すかが問われている。つくる仕事と、選ばれる文脈をデザインする仕事は、別種の作業として存在する。

料理が一生届かないデリバリーアプリ。ドーパミン絶ちでなく「空振り」

注文しても、料理が一生届かないデリバリーアプリFoodNeverComes。レストランを選び、メニューをカスタマイズし、住所を入れ、支払い方法まで選び、配達員が地図の上を動くのも追える。それなのに、実際は何も作られず、支払われず、届かない。不具合ではなく、それが仕様、それが目的のアプリ。
これ、韓国でいま広がっている「ドーパミンサイト」のひとつらしい。買い物のスリルだけを、一円も使わずに再現するためのサービス、というもの。
なんでこんなサービスが使われるのか?

快楽は実際、「届く前」にもう出ているらしい

仕掛けの肝は、ドーパミンの出どころ。ドーパミンは、報酬が手に入った瞬間よりも、手に入りそうだと期待している最中に多く出るもの。あなたが深夜にAmazonを急にポチポチしてる時、めっちゃ楽しいはずだ。それはモノによっては届いた時よりも。と考えると、注文ボタンを押すまでの流れ、スクロールして、選んで、配達を待つ、その時点で快楽のピークはだいたい過ぎているともいえる。フードデリバリーなら料理そのものは「おまけに近い」可能性がある。フードデリバリーもネットショッピングも、届いた時には「なんでこんなの頼んじゃったんだっけ…」と軽く後悔した経験が僕にもある。
このアプリの開発者も、配達アプリを開いては閉じる夜に思いついたと話している。注文したいという衝動を満たすだけで、実際に頼まなくても妙に満たされてしまった、と。空腹だからではなく、退屈や習慣で手が勝手にアプリを開く。その癖を一回だけ断つために作った、というわけだ。

刺激を断つのではなく、空振りさせる

ドーパミンとどう付き合うか、という話題はいまや日常の話題になりつつある。あるいは「ドパガキ(ドーパミン中毒の自分や誰かを冷笑するワード)」なんて言葉もネット流行語になりそうな勢いで広がっている。

このドーパミンに関する話題は全然ポジティブではない。基本的にみんなドーパミン中毒でショート動画を一生見ちゃう、なんてことがヤバいのは理解している。だからスクリーンタイムの制限、ドーパミン・デトックス、アナログ回帰。どれも共通するのは、刺激そのものを遠ざける方向だということ。アプリを消す、通知を切る、画面から離れる。

一方でドーパミンサイトは逆方向。衝動を抑え込むのではなく、無害な的を用意して空振りさせる。お金も減らず、カロリーも増えず、それでも頼んだ感覚だけは残る。断酒中のノンアルコールビールみたいなもんか。かゆいところには届く、完全な解決ではないが踏み台にはなる、と。我慢を禁止ではなく代替でしのぐ発想。

とはいえ結局これも開くアプリ。手放しで賢いとも言いきれない。よくできていると声もあるが、ただただ物悲しいという声も。確かに何も生み出してないので、ジョークサイトとしては面白いがビジネスとしては…である。
ややこしいのは、アプリを開く癖を、別のアプリを開くことで直そうとしているところだ。種が割れた瞬間に効き目は薄れるので、あんまり寿命は長くないかもね。ただ、ドーパミン対策自体は世界的な課題になってるのは確か。

***

お仕事紹介

ここでお仕事紹介。実は僕はコピーも書くことがあるのですが、福岡発の明太子D2C、mentie(メンタイ)のコピーを作っています。

ご依頼頂いて作ったコピー「1%の奇跡の明太子」が今回「それSnow Manにやらせて下さい」で紹介されました~

クライアントさん曰く、プロデューサーにこのワードが刺さって紹介のきっかけになったんだとか。うれし~!

実際、国内流通している明太子で、手作りなのは1%のみ。このファクトをそのまま使ったコピーです。ファクトがあれば、それを伝えるのが一番リーズナブル。

手仕事の明太子、めっちゃ美味しいですよ!

***

前週のマーケティングジャーニー!

実は私、Podcastもやってます!元テレビ朝日アナウンサー、現令和トラベル役員の大木優紀さんと2人でマーケティングトレンドや旅について(ほぼ)毎週30分~40分のコンテンツをお届け。

最新回は「で、お前ら誰やねん?」回。実はこのニュースレター、私を認知しているとか関係なく、spotify経由で発見してくれている人もいるのですが、そんな人たちに語り手2名の説明が全然なかったので、丁寧に説明してみたって回です。このニュースレターでも、僕のことをあまり知らずにSNSで見聞きして毎週見てくれてる人がいると思うのですが、そんな人にも自己紹介と自分の視点として伝わるんじゃないかと思います!
日々内容はブラッシュアップしているので、良かったらフォロー・高評価のほど、お願いします~!

***

源泉かけ流し!今週のマーケティング関連トピックス(今週は15個ご紹介!)

ウズベキスタンのユニに日本語の「て」の字?SNSでは疑問に思う声で話題に

日本人には「て」にしか見えないけれどウズベキスタンでは最強ブランド。7SABERのブランド展開、調べても調べても謎が深い。
ウズベキスタンを歩いていると、様々な人が来ている服や、エナジードリンクでも日本語の「て」にしか見えないマークをよく見かける。
実はこのマーク、ウズベキスタンで大流行して一大ブランドになっている「7SABER」というブランドのマークなのだ。前回の五輪ではウズベキスタン代表の公式ユニフォームにも採用されているぐらい、親しまれている国民的ブランド。
意味は「7つの剣」という意味。つまりこの「て」は数字の「7」の変形というわけ。
気になって調べてみて、実は謎が最後まで完全に解けなかったのですが…
実はこのマーク、アパレル発信ではないらしいのです。2019-2020年頃にこのマーク自体がスポーツ文脈の象徴として広がりました。当初は商用目的ではなく、誰もが使える形で広がっていったらしいんです。
つまり順序としては マークが広がる→最も結びつきが強いスポーツブランドができる→さらにライフスタイル領域に拡大する、というプロセスをたどっている。だから今回のワールドカップのユニフォームにもなってる。
実は価格帯としてはかなりウズベキスタンにしては高め。シューズやキッズなどあらゆるものがあります。
現地のショッピングモールなどを見ていると、この「て」ブランドが広がっていることが分かります。「て」を冠するものを探すと、スポーツブランドだけでなく、アイスクリーム屋さん、エナジードリンク、香水、そしてなんと冷蔵庫をはじめとした家電の「7tech」まで存在する。スポーツから始まり生活のあらゆる文脈を抑えているんですよね。
そもそも商業ブランドが北京2022オリンピックのユニフォームになっているのも不思議なのですが、これも無償提供であること、かつウズベキスタンを代表する国家的なブランドとして国民も含めたパーセプションが出来上がっていることの証明なんでしょう。不思議なのは、このスポーツリテール、飲料、7techなどが完全に同じ会社が運営しているわけではなさそうなこと。おそらくこのロゴと屋号をウズベキスタンの様々な企業にライセンスする、というカタチをとっているみたいです。
昨年ウズベキスタンに訪問した際、記念に買おうかと思いましたがどうしても日本人としては「て」に見えてしまい、格好良くは見えないんよな…

酷暑でほんだし離れの味の素 夏の需要減食い止める秘策とは

酷暑だと「ほんだし離れ」が起きるらしい。
なんで?と思ったが、要はほんだしは「火をかける料理」で基本的に使われるので、熱い時に体力・気力的に調理を行いたくなるから、とのこと。
気温が上がれば、手作りが減る。
なので
火を使わず・買い物せず・冷たい、などのレシピメニューを提供。

J-POPは「サビ」という明確な到達点を作り、期待から解放へ向かう構造で快感を作る。

これってカラオケ文化があることも関係あるのかな~
とか思っている。
クラブミュージック的に音楽を浴びるなら、印象的なリフやループの反復が気持ちいい。
歌うならサビに向けて高まっていき「盛り上がりどころ」が明確な方が気持ちいい。

re:sonance
@reSonancePortal
J-POPは「サビ」という明確な到達点を作り、期待から解放へ向かう構造で快感を作る。

一方、海外の一部ジャンルでは印象的なリフやループを反復することで、身体的な没入や予測の快感を作る。



日本人と海外人で脳が違う」ではなく、「音楽文化がどんな報酬設計を発達させたか」です。
電気の武者@ElectricBlili
ミセスがドパガキ向けと言われるが、J-POP全体がドパガキ向けと言える
明確なサビ、クライマックスの転調とドーパミン放出ポイントが用意されている
それに比べ洋楽は明確なサビが無く、最初ドーパミンをどう出せばよいか分からなかった
というか海外の人と日本人でドーパミン放出のトリガーが異なる
2026/06/23 00:24
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続きは、8438文字あります。
  • 海外現地調査レポート:サンフランシスコ Corgi cafe 24時間カフェが売っているのは、コーヒーではなかった
  • カフェを運営しているのは、保険会社
  • 明日から効く!人生の糧になる書籍レビュー
  • 今週の1曲
  • 最後に!

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