Suicaペンギン卒業に学ぶブランド資産活用の難しさ&世界初、スタバのスープ新商品の3つの戦略的狙いとは? 25年11月第3号
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マーケティングトレンドインプット 今週のクイック解説3選
Suicaペンギン卒業に学ぶブランド資産活用の難しさと、どんなコミュニケーションをとるべきだったのか?
Suicaペンギン卒業がネガティブに受け止められた理由
JR東日本が、Suicaのキャラクター「Suicaペンギン」を2026年度末で卒業させると発表。25年間親しまれたキャラクターの突然の交代に、ネガティブな反応が広がっている。この事象は、DBA(ディスティンクティブ・ブランド・アセット=独自ブランド資産)を変更する際のコミュニケーション設計の失敗例として、重要な事例でしょう。Suicaペンギンは、理想的なDBAだったDBAとは、見た瞬間にそのブランドを想起させる要素。ロゴや色だけでなく、キャラクター、音、パッケージなどがこれに該当する。Suicaペンギンは、DBAとして圧倒的に理想的な存在だった。可愛らしいペンギンが「スイスイ進む」イメージを体現し、使いやすいUXを「優しいテクノロジー」として表現。駅中のグッズ、銅像まで様々な場面でペンギンを見ればSuicaを想起する——25年間かけて構築された強力な資産だった。そもそもいつも使ってるSuicaのカードにはペンギンがいる。
ビジネスロジックは、理解できる
JR東日本は「Suica Renaissance」を掲げ、Suicaを移動用カードから生活のデバイスへ進化させようとしている。バーコード決済、高額決済、送金など、金融サービスへの進出を目指す戦略。同社のロジックはこう。「Suicaペンギンは移動と結びついた資産。金融サービスへ進化するSuicaには、新しいキャラクターが必要だ」。ビジネス判断としては理解できる。それに権利関係も複雑なので、より接点が拡大する次のタイミングに向けて、機動的に活用可能に変えていくことは、ブランド戦略としてもわかる。ただ、コミュニケーションの設計には改善の余地があったかもしれない。
強いDBAには、感情が乗っている
問題は、発表の仕方。JR東日本は、シンプルに「卒業します」と発表した。次のキャラクターは未定。ペンギンショップや銅像の扱いも未定。ITメディアの取材に対しても「ありがとうございました。今後のことは答えられません」との広報対応。決して間違っているわけではないものの、ブランド資産の価値をもう少しデザインできたと思う。強いDBAには、人々の感情が乗っている。ブランド資産の価値は、認識できる差別性だけでなく、そこに積み重なった思いにある。Suicaペンギンのグッズを愛用する人、駅で銅像を見るたびに安心する人——多面的にIPを活用してきたからこそ、愛されていた。その感情を無視し、企業側の都合だけで「変わります」と告げれば、人は冷めてしまうのは無理はない。
「100日後に死ぬワニ」の失敗
この構造は、「100日後に死ぬワニ」の炎上と酷似している。X(旧Twitter)で大きくバズったコンテンツが、ワニが死んだ瞬間にビジネス発表を行い、一気にファンが離れた。エモーショナルな作品だったにもかかわらず、コミュニケーションを誤ったことで、人が冷めるだけでなく、アンチ化も招いた。感情を活用するタイプのIP型のDBAはうまく運用できれば強力な一方で、扱いを誤れば反転するリスクがある。ドン・キホーテのドンペンに関するコミュニケーション設計も同様の難しさがあった。
ではどのようなコミュニケーションならよかったか?
1.Suicaペンギンへの感謝と物語を語る。2.Suica Renaissanceが生活者にとって何を意味するのか、ビジネススピークではなく日常の言葉で説明する。3,新キャラクターがどう決まるのか、ペンギンの遺産をどう引き継ぐのか——こうしたストーリーを丁寧に設計すれば、逆に盛り上がる可能性もあった。(もちろん反発は絶対にあるだろうが)話題の流れは一度定まると、払拭するのは困難だ。今からのコミュニケーションは、相当難しい。
DBA変更は、感情設計とセットで行うべき
この事例が示すのは、DBA変更におけるコミュニケーション設計の重要性だ。強いブランド資産を変える際、ビジネスロジックだけでは不十分。そこに乗っている感情を理解し、ストーリーを設計する。卒業の理由、感謝の表明、次への期待——すべてを丁寧に語る必要がある。企業都合で変更するのは自由。しかし、そのコミュニケーションは慎重に行う必要がある、感情も受け止めているDBAの変更は、感情設計とセットで行うべきなのだろう。
なぜスタバはスープを新商品として出したのか?新しい顧客接点をつくるキラー商品となるか
スターバックス日本が、初のスープ商品「トリュフスープチーノ」を発売。同時にモーニングセットを「Good Start Morning 」として刷新し、ドリンク+フードで40円引きにする施策も12月25日まで実施。単なる新商品の投入に見えて、実は3つの戦略的意図があると私は考えている。
スープを「ビバレッジ」として再定義
注目すべきは、商品名が「スープ」ではなく「スープチーノ」である点。カプチーノを連想させる新たなジャンルの命名は、スターバックスの意図を感じる。スープは一般的に「食べ物」。スープストックトーキョーのように、食事として提供されることが多い。しかしスターバックスは、スープを「飲み物」として訴求している。バリスタがミルクフォームを丁寧に作り、まるでカプチーノのように塩味のスープを提供する——この体験設計が重要。スターバックスの資産は2つある。「居心地のいいサードプレイス」と「バリスタが手で淹れる価値」。前者は知れ渡っているが、まだ知られ切っていない後者を強化するために、スープをビバレッジの中に位置づけた。コーヒーやお茶で培ったブランド資産を、しょっぱい飲み物な方向に横展開しているのである。
朝食の接点を、新たに創出
モーニングセットの刷新は、スープ投入とセットで設計されている。スターバックスは朝の時間帯、コーヒーを買いに来る客が押し寄せる。しかし「朝食を食べる場所」として認識はされていないだろう。あくまでコーヒーをのむところ。そこに、スープとパンのメニューが揃えば、スターバックスは朝食の選択肢になる。(近年スターバックスはフードに力を入れている)これは客単価向上だけでなく、想起されるカテゴリーのエントリーポイントが増えることを意味する。「朝ごはんをどこで食べるか?」という問いに対して、スターバックスが選択肢に入る。接点が増えれば、利用頻度も上がる。
好調市場だからこそ、実験する
実はトリュフスープチーノは、グローバルで日本が初めて投入した商品。スターバックスは世界的には苦戦中。北米では店舗が減り、中国では中国事業の6割の株式を現地の投資ファンドに売却。一方、日本市場は依然として好調だ。だからこそ、日本で新しいチャレンジが生まれている。
カテゴリーを再定義すれば、資産は横展開できる
既存カテゴリーの再定義によるブランド資産の活用が今回の仕掛け。スープは「食べ物」ではなく「飲み物」になる。バリスタは「コーヒーを淹れる人」ではなく「ビバレッジを作る専門家」になる。こうした再定義によって、スターバックスはコーヒー以外の領域に進出できる。既存ブランドは常に進化しなければならない。重要なのは、自社の資産を正確に把握すること。スターバックスにとっての資産は「バリスタ」と「サードプレイス」だった。この2つを活かせる領域なら、カテゴリーを超えて展開できるということ。
Z世代はなぜ紙巻きタバコを再評価しているのか カルチャーアイコンとしての復権
タバコが「カルチャーアイコン」として復権している
Instagramアカウント「cigfluencers」が、Z世代の間で人気を集めている。有名人やインフルエンサーが紙巻きタバコを吸う姿だけを投稿するニッチなアカウントだ。健康被害で世界の嫌われ者になったタバコが、Z世代によって再発見されている。その役割は、ロマンティックなカルチャーアイコンとして。
機能性では、物語性に勝てない
若年層に人気のアーティスト、デュア・リパはInstagramでタバコを誇示し、サブリナ・カーペンターはMVでタバコを吸う姿を見せる。VAPEや電子タバコが普及する中で、なぜ紙巻きタバコなのか。答えは、アナログの物語性。VAPEは機能的だ。何度でも吸えるし、フレーバーも豊富で、タールもない。しかしカッコよくはない。一方、紙巻きタバコは毎回火をつけなければならない手間がある。だがその手間こそが、アナログで、ノスタルジックで、どこか危険な香りを漂わせるセクシーさを生む。
Netflixが「規制の外」でクールを再生産する
この再発見を加速させているのが、Netflixに代表される動画配信サービス。公共空間でのタバコ規制は進む一方、ストリーミングサービスのオリジナル作品では、タバコが復活している。創作者にとって、タバコはクールさやハードボイルドを表現する有効な道具だ。規制の外で、タバコのカルチャー的価値が再生産されている。Z世代はタバコ規制「以降」の世代。イメージが悪化していく過程を見ておらず、刷り込みが効いていない可能性がある。さらに北米や欧州では、オーガニック製品とマインドフルネスがもてはやされる。そうしたヘルシー至上主義への反発——「アンチ・ウェルネス」として、タバコが機能している面もあるかもしれない。
規制されたものが、文化資本になる
タバコは依然として有害だ。しかし文化的アイコンとしては、明らかに復権している。この現象が示すのは、「禁止されたものが文化資本になる」メカニズム。規制が強まるほど、そのアイテムは希少性を持ち、カウンターカルチャーとしての価値を増す。Z世代にとってタバコは、健康リスクではなく、ヘルシー至上主義への抵抗のシンボルなのだろうか。機能性だけを訴求しても、物語性には勝てない。アナログな手間、ノスタルジー、危険な香り——こうした情緒的価値が、コモディティ化した機能を超える。
源泉かけ流し!今週のマーケティング関連トピックス(今週は9個ご紹介!)
シンプルなニューヨークのサンドイッチ屋の看板
結局、広告はシンプルが強い。
と教えてくれるニューヨーク、チェルシーの広告看板。
「ここにサンドイッチがある」
とどんな人でも、一秒で理解できる。
サイゼ、ガスト、バーミヤン……コロナ禍で姿を消した「深夜営業」が続々と復活し始めている理由
コロナ禍で取りやめにあった深夜営業がサイゼ、ガスト、バーミヤンなど復活し始めているとのこと。
大規模な居酒屋での二次会などの利用は減少しているが、一方でこうしたファミリーレストランのような「たまれる場所」が重要に。
「個人の夜」の場所としてのファミリーレストランの価値ですね。
JR山手線池袋駅の駅名標が「池袋(ビックカメラ前)」に
ビックカメラの改装開業に合わせて池袋が「池袋(ビックカメラ前)」に変更に。
いまJR神田駅はJR神田駅(アース製薬本社前)になっているが、同様のネーミングライツ。
ビックカメラと言えばCMソングでも池袋駅の名前を言っているぐらいなので親和性抜群だよね。
フリークエンシーは無限大。
飲食店の倒産が過去最多 1〜10月、牛肉・コメ高騰で焼肉店が苦戦
飲食店の倒産が過去最多になっている。
特に多いのが焼肉店の倒産。
牛肉の物価上昇、人件費の高騰、焼肉屋にとって重要なコメの高騰の3重苦。
焼肉店はコロナ禍に、換気扇が多くて安心という理由で増加したので、その揺り戻しが来ているだけ、という話もある。
なんにせよ、飲食店は苦しい時代。
シェイ・ミッチェルが3歳児向けスキンケアを発売
先日北米のセフォラでティーン向け化粧品が大ヒットしていたが、今度は「3歳児向けスキンケア」のフェイスマスクが登場。
化粧品のムーブメントがどんどん若年へ向かっているのは少し怖いような…
とはいえ子供は親を真似たいもの。
お母さんがシートマスクをつける姿と共鳴する商品。
登録者数280万人超え爆笑必至の人気チャンネルとコラボ! スーパーカップ×NOBROCK TVキャンペーン
「Youtubeチャンネル」とカップラーメンのコラボが誕生。
佐久間Pの人気チャンネルNOBROCKTVと、エースコックのスーパーカップがコラボ商品をリリース。
個人というよりチャンネルとのコラボって面白い。
リリースと合わせてチャンネルでももちろん広告動画が登場。広告施策とセットのコラボ。
セブンイレブン、ラーメンの店内調理マシン 2分で「熱々」提供
PBを強化するコンビニ。
その“魔の手”はラーメンにも進出。
セブンイレブンはラーメンの店内調理マシンを本格導入。冷凍めんの入った容器をマシンにセットすると、たった2分で熱々のラーメンが完成。
電子レンジで温めるタイプのチルド麺も売っているし、カップラーメンも強い中で存在感示せるか。
南アジアの若者の反乱:傾向、原因、そして影響
南アジアにおけるZ世代の「分散型革命」は、なぜ失敗するのか?
2022年スリランカ、
2024年バングラデシュ、
2025年ネパール。
南アジアで連続するZ世代の政治抗議は、ある共通パターンがある。
既得権益vs.若年層という構図
この地域の年齢中央値は28歳。世界で最も若い。
一方、政治は伝統的な支配層が牛耳る硬直した構造だ。国の浮沈を握るのは若者なのに、政治は彼らを向いていない。汚職だらけ。
経済的貧困と政治腐敗が長年放置され、不満が爆発。Z世代の怒りは抗議行動へ。
ソーシャルメディアが生んだ「指導者なき抗議活動」
3カ国すべてで活動の中心はZ世代。そして明確な指導者が不在。ソーシャルメディアで動員され、一気に爆発する。
だが、この分散型構造には致命的な欠陥が。
指導者不在ゆえに、ビジョンが不透明で不満だけが加速。改革の具体策も、国の方向性も示せない。結果、現政権にダメージを与えても、抜本的な変化には繋がっていない。
組織なき運動の限界
分散型のムーブメントは破壊力は強いが、持続的な変化を生む設計力を欠く。SNS時代の構造的ジレンマがあるのかもしれない。
南アジアの政情不安は続く。このパターンは、他の地域でも繰り返される可能性はありそう。
ファーウェイ、独自OSで生みの苦しみ スマホ販売失速
中国大手Huaweiのスマホが苦戦中。
Huaweiのスマホは性能は素晴らしく革新的ではあるものの、AndroidでもiOSでもない独自OSで提供しており、使えないアプリがある。
さすがにこれでは、中国はともかく世界では苦しいか。
3画面スマホとか、めちゃくちゃ面白いプロダクトなんですけどね、、
海外現地調査レポート:アジアを席巻する匿名クリエイティブ集団のアパレルブランド ADERERROR(アーダーエラー)
立ち上げは2014年末。わずか10年ほどで韓国ファッションを代表するブランドに成長したADERERROR。何度も現地店舗に訪れている私がその特異性を解説します。
実はこのファッションブランド、運営しているのは「匿名集団」なんです。ハイブランドで近年、クリエイティブディレクターの就任や移籍が大きなニュースとなるように、強いファッションブランドは「個人」と結びつきが強くなっています。アダーエラーはその逆へ突き進んでいて、特定のデザイナーやクリエイティブディレクターを全面に出さないスタイル。創業メンバーは素性を誰も明かしていない。アパレルだけでなく、建築家やデザイナーなど異業種から集まっていることだけが明かされています。
コアコンセプトは“But near missed things(見過ごされがちなもの)”で、ちょっとした違和感を取り入れたデザインが特徴。
例えばTシャツの背中に、本来はネックの後ろにありそうなブランドタグが縫い付けられていたり、この縫い付けられ方もジグザグのステッチだったり、アシンメトリだったり、と一癖ある工夫がされているんですよね。
そしてアダーエラーと言えば店舗デザイン。ADER Spaceと称して、ホンデ、ソンス、シンサなど韓国の中でもトレンドエリアに大規模店舗を出店。下記はソンスで撮ってきた写真ですが、大きな空間の半分以上をアートが占めているという驚きの設計。さらにカフェやギャラリーが併設しているなど、店舗の役割を単なる販売の場所ではなく、体験の場所として更新している。
ソンスの店舗は常に入場制限がかかり、長蛇の列。ランドマークとして機能しており、ブランドの人気と勢いを支えています。今年は日本の表参道、中国では上海に同様の「space」店舗を出しており、アジア全域に体験拠点を拡大中。店舗に訪れてみると分かりますが、店舗の体験性が高く、そもそも体験が中核に置かれている中で、プロダクトが置かれている(つまり主役ではないような扱い)であり、逆説的にその体験価値を感じると、プロダクトが魅力的に感じられ、おもわず買ってしまうという仕掛け。韓国ブランドとしては価格帯はかなり高めに設定されており、この体験あってこそ正当化される価格だと感じます。
アダーエラーの基調となるカラーは青。店舗もサイバーな空間にこの碧が特徴的にあしらわれています。
下記の写真はなんと試着室。試着室の中に大きなモニターがあり、そこでしか見られないオリジナルな映像が流れているという超絶こだわりの空間設計。どこも一切手を抜いていないデザイン性は韓国先端ブランドならでは。
近年ではZARAやPUMA、CONVERSEなどブランドコラボも広く手掛けているアダーエラー。「聖地」となる店舗体験を軸に、ファッションブランドとしてとどまらず、実験的なアクションを次々顧客の予想を上回る速度で仕掛けることで、ブランドの価値を特定の著名人やクリエイティブディレクターに依存させず、体験とブランド≒集団そのものに集約させていく。「顔が見えない」のに魅力的な、そんな特異なブランドとして目が離せない存在です。
明日から効く!マーケティング/ブランディング関連書籍レビュー
カードゲームで本当に強くなる考え方 茂里憲之
元マジック:ザ・ギャザリング世界プロである茂里憲之氏が書いた「カードゲームの勝ち方」の本を紹介します。「いや、それ自分に関係あるか?」と感じるかもしれませんが、この本、普遍的な生き方、あるいはビジネスにも通ずる考えを丁寧に説明していてビジネスパーソンにもおススメなんです。
本書では様々な心理学、経済学のエッセンスが取り入れられています。勝者のゲーム/敗者のゲームの理論や、期待値の計算、行動経済学のプロスペクト理論、ゲーム理論と確立思考、認知心理学の例えばヒューリスティック(経験則)バイアスなど。面白いのは単にゲーム内での確率論だけでなく、それを操る人間に目線を向けているということ。遊戯王カードも、マジックも、例えば「強いデッキ」などの情報は世の中にあふれていますが、実際ゲームをプレイするのは人間。この人間としてのマインドセットやプレイイングをコントロールすることで勝率を高められる、というスタンスなのです。
これは例えば近年若いビジネスパーソンの中で流行するポーカーなどにも応用できますし、なんなら自分の意思決定の在り方にも活用できますよね。ビジネスは基本的には不確実性の高い意思決定を求められるものであり、そうした市場における戦略策定やリスク管理に本書の提言は役立ちます。資産運用などにも使えそうですよね(敗者のゲームはまさに資産運用本の名著ですし)。
本書はかなり抽象的な理論を取り扱っています。行動経済学に関する本は多くありますが、そうした本格的な本を読んでいる人には少し物足りないかもしれません。一般教養としての経済・統計知識をトレーディングカードゲーム文脈に置き換えた内容だからです。ただゲームで例えているがゆえに非常に分かりやすく頭に入ってくる内容となっており、様々な理論の入り口本として活用することもできそうな名著だと思います。
偏愛!なんでもインプットコラム
ミスチルとミセス、歌詞の感情分析から考える90年代と令和の歌を通したメッセージの変化とは?
Mr.Children(1990年代)と http://Mrs.GREEN APPLE(現在)。100曲以上のこの2組の曲の歌詞を、感情ネットワークで可視化した分析が面白い。
左がミスチルで、右がミセス。この2つの図を並べると、「不安と希望の間で揺れる90年代」と「希望と喜びが直結する(しかしその中に困難が覆い隠される)令和」というコントラストが見て取れます。(ちなみにミスチルは現役バリバリですが、本分析の対象はあくまで90-04年の曲だということに留意)
ミスチル:希望と不安がセットになった「二人の物語」
ミスチルの構造は、「希望」「恋愛」「不安」の3つがほぼ同じサイズで中心にあり、互いに濃い線で結びついている。ここで重要なのは、希望が単独で存在するのではなく、不安や恋愛(の葛藤)とペアで語られる点。
めちゃくちゃ分かりやすいのはMr.children最大のヒット曲「名もなき詩」のCメロかもしれません。
絶望、失望 (Down)
何をくすぶってんだ
愛、自由、希望、夢 (勇気)
足元をごらんよきっと転がってるさ
90年代における希望というものは、葛藤と合わせて抱え続けるものであり、そしてその物語には主に恋愛を絡めた「誰か」が存在している。そんなモチーフのイメージを感じます。
ミセス:自己肯定からひろがる「わたしらしい生き方」
一方でミセスのネットワークでは「希望」が非常に大きいサイズで存在(=よく歌われている)するだけでなく、そこから喜びや友情、博愛へと太い線が伸びており、強くつながっています。また、愛が恋愛だけでなく、友愛や博愛といった多面的な広がりを見せているのも見逃せないポイント。
ここで強く言っておきたいのは、ミセスの歌詞が決して悲しみや困難を無視しているわけではないということ。決して能天気な世界観ではない、ということはファンの一人として強調したいところです。あくまで悲しみや不安が存在するが、そこを出発点として、喜びや博愛へと転換していく位置づけとしている。
そして重要なのは、ミセス的世界観において大切なことは「わたし」であること。ありのままの自分をさまざまな形で肯定する、その自分を起点に、1人の人や仲間を愛そう、という関係性の捉え方が違うことが分かるでしょうか。
「恋愛」の扱い方の変化
では現代においては「恋愛」についてはトーンダウンしてしまったのでしょうか。これはNoでしょう。依然として恋愛は重要なissueです。ただ、その存在感はやや弱まっている印象。
近年、若年層を中心に「恋愛離れ」が起きている。SNSとアルゴリズムによって、人それぞれの物語がクローズアップされるようになりマスが消失していく時代において、恋愛という「人類の共通語」の存在感が薄れ、それぞれの世界、自分らしさが重要になっている、という社会背景の影響を受けている印象があります。恋愛が後退した、というよりも「恋愛以外のさまざまな幸福」に目が向けられるようになった、と言えるかもしれません。
「音楽で救う」の意味の変化―個の確立へ
ミスチルは、希望が少ない社会の中で矛盾や葛藤を抱えたまま生きている人々に「悩みを持ったまま生き続けること」を肯定して寄り添うスタンスを感じます。一方でミセスはもう少し自己啓発的な要素が強い。常に他人との比較にさらされる現代の人々に対して、まず「わたし」を肯定し確立していく。その上で世界と付き合っていくという生き方を教えてくれるような実践的なアプローチです。
実は最近、official髭男dismの「らしさ」や「50%」にもミセスと似た感覚を覚えました。明確な言葉で「わたし」の生きづらさ、状況を肯定したまま「らしく」生きようとか、「ほどほどに」生きよう、といったメッセージをデリバリーする。より強く人生に明示的に寄り添う。だからこそ熱狂的なファンが生まれるのかもしれません。
今週の1曲
1day(R) ―FARMHOUSE feat Kee Rooz (Prod.RhymeTube)
アメリカンなラッパーはギラギラしているものですが、日本的HIPHOPにはそれとは異なる側面があるはず。それを若くして体験しているのがFARMHOUSEだと思っています。実際に彼は「お金を稼いで高級ブランドを買う、みたいな価値観だけでは先がない」「日本なりのカッコよさの見せ方がもっとあるはず」と語っていて、「でっかい話」ではなく日常の小さなあり方に対して美しく言及するスタイルを確立しつつある印象。
この曲は連作の1つで、タイトルの通り1dayのコンタクトレンズという非常に日常的なアイテムを軸に自分たちの生活や思いを掘り下げていくようなアプローチ。そんなリリックにRhymeTubeのトラックがとてもメロディアスでエモーショナルな空気を漂わせていてとっても聞いてて気持ち良い。トラックはエモーショナルなのに、音の乗り方はかなり細かくスピード感があるのも絶妙に好きなポイント
FARMHOUSEは「distance」という名曲もあるんですが、こちらも通学時間や通勤時間をモチーフに地方と都市の距離感を示した日常の感覚を曲に落とし込んだつくり。個人的にはポップは日常に落とし込み過ぎると曲のパワーが弱まる構造的な問題があると思っており、日常を繊細に歌えるのはHIPHOPの良さだと思っているんですよね。そんな日本らしいHIPHOPの体現者としてとても期待しています。
最後までお読みいただきありがとうございます。もし内容が良ければ登録ボタンより、次回のニュースレター配信をお待ちください。
最後に!
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