コンビニが実験インフラになる&「パンチくん」文脈を適切に親和したIKEAのPR施策とは 26年2月第4号
忙しいあなたのためのマーケティング情報サプリメント。週に一度、厳選されたトレンドと洞察をまとめていきます。これを読めば「主要なトレンドをキャッチできる」、そういった想いで届けてまいります。まずはご登録をお願いいたします。
マーケティングトレンドインプット 今週のクイック解説3選
コンビニの意味転換。小売から「実験インフラ」へ
ファミリーマートが2026年春から、メーカーの試作品をなんと「1円」で販売。消費者はオンラインで予約し、最寄りの店舗でコードを見せて受け取る。地域・店舗数・期間はメーカー側が自由に設定可能。「お得なサンプリング企画」のようだが、ファミマが売っているのは試作品ではない、とも言える。メーカーへの価値は「購買データへのアクセス権」にある。
1日2,300万人の購買ログという強力な資産
この施策の背景にあるのはファミマが発表した「メディアコマース戦略」。ファミマは「2026年度をメディアコマース元年と位置づける」と明言し、関連売上を現在の150億円から2030年度に400億円、つまり3倍近くに引き上げる意気込み。

ファミマの決済アプリ「ファミペイ」のID数は約3,000万。ここにNTTドコモとの合弁会社データ・ワンを通じたドラッグストアやスーパーのデータが加わり、合計5,500万ID。(重複はあるだろうが単純に考えれば)日本の成人人口のおよそ半数の規模感。2026年度以降はホームセンターとも連携する予定で、6,000万IDを超える見込み。
この5,500万IDがカバーする購買データは年間約10兆円分。国内の生活消費財市場37兆円の27%というとんでもない規模感。毎日2,300万人の購買ログが全国約2万5,000店舗から24時間更新され続けている。データ分析に重要なのは「データ量」である。よくデータを活用したいという企業の相談を私も受けるが、データ絶対量が少ないと分析し始めることすら難しい。その意味では、ファミマの持つデータ量は圧倒的である。
コンビニ・ドラッグ・スーパーを横断すると何が見えるか
データの量だけなら他にもプレイヤーはいる。ファミマが強調しているのはそのデータが横断できていること。
例えばファミマの説明を活用すると、コンビニ店頭でサイネージ広告を流した商品の購買率が60%上がった。ここまでは従来のリテールメディアでも測れるが…ファミマの横断データを使うと、同じ商品が周辺のドラッグストアで15%、スーパーで23%、購買率が上がっていたことまで追えるらしい。広告の波及効果を業態をまたいで計測できるのはかなり画期的。

その他にも、スーパーでベビー用品の購入が多い顧客は、コンビニスイーツの購入率が他の客より20%高いなんてデータも見える。単一チャネルのPOSデータでは見えないこうした行動パターンが、チャネルを横断すると立体的に把握可能。
つまり「1円試作品」もこうした横断前提の施策である。メーカーは1円で商品を配る代わりに、誰が・どこで・何と一緒に買っているかという文脈を分析できる。購入直後にアプリ経由でアンケートも出せる。例えば40代キャリア女性をターゲットに作った化粧品が実は20代に刺さっていたとわかれば、本格ローンチの前に商品戦略を修正できるわけだ。テストマーケティングのリードタイムが劇的に縮む未来が見える。
「小売」から「実験インフラ」への転換
ファミマ曰く「好立地の店舗網を生かし、商品を消費者に見せるのがコンビニの役割。インフラを生かしてコンテンツを届けるメディアに進化させる」と宣言している。
国内コンビニの店舗数は6万店弱。出店余地はもうほとんどない。既存の1万6,000店をどう使い倒すか。そうなると店舗をただの「売り場」とするだけでなく「メーカーにとっての実験場」として開放することで、メーカーの持つ巨大な広告費に食指を伸ばす、というアクション。ファミマが収益として得るのは商品の利益に加えて、広告宣伝費とデータ提供費。これは米ウォルマートが始めているアクションとも共通する。
オールナイトの本屋フェス。体験の場となった「KINOFES 2026」が示したもの

2026年1月31日、午後8時半、新宿の紀伊國屋書店が閉店。そしてそこから朝6時まで、9時間半ノンストップ、オールナイトのフェスが静かに行われていた。チケットは告知から4時間で完売。濃い「本好き」が集まる会になっている(行きたかった…!)
「KINOFES 2026」は、紀伊國屋書店新宿本店の1階から8階までを丸ごと使ったオールナイトイベント。トークショー、著名人と書棚をめぐるツアー、謎解きミステリー、キノベス!2026の発表式。出演者には松井玲奈・本谷有希子・上野千鶴子・鈴木涼美・オカモトショウなど、ジャンルもバラバラ、共通するのは本好きなこと。
Xの総インプレッションは約5,000万と強力に拡散し、参加者の8割以上が書籍を購入。客単価は通常営業のほぼ2倍。来場者の中心は20~30代と「本屋のイベント」としては想像以上に若い。2027年1月にも開催予定がすでに発表されている。
「深夜に本屋にいる」こと自体が体験になる

深夜×書店という組み合わせがそもそも面白い。閉店後の本屋に入るという行為自体が、ちょっとした非日常になっている。こうした「昼やっている施設」×夜体験は成功の方程式としては存在していて、水族館×夜、美術館×夜、アパレル店×夜など、様々な切り口が存在。中身のコンテンツ以前に、「深夜に本屋にいる」こと自体が体験価値と言えるだろう。
会場を描写したレポートを見ると面白い。参加していたスケザネ氏のnoteによると、深夜1時を過ぎると一度客足が途絶え、仮眠フロアでは本棚と本棚の間にマットを敷いて来場者がウトウトしている。通常の書棚では平日の昼間と変わらず本を選んでいる人がいて、スタッフ控え室では店員が机に突っ伏している。店長は入口の屋外で一晩中コートを着て物販をしていた。まだ1回目のイベントで洗練されていないから、という側面もあるかもしれないが、むしろオールナイトゆえのカオスが味わいになっていたとも言えるのではないだろうか。計算では出せない面白みがある。
時間帯をずらすと、場所の意味が変わる
新宿本店の店長は、書店の空間としての価値をフィジカルに体験してほしかったと語る。業績は好調だが業界全体では書店数の減少が指摘されている中で、リアル書店の盛り上がりを可視化する仕掛け。営業時間内はお客さんへの配慮からできないことがいろいろあるが、閉店後なら空間を自由に使って可能性が広がる。
あたりまえだが書店は本来、書籍を買うための小売。ただ、本を買うだけならECで十分。世界的にリアル書店の価値は体験化・本を通じたコミュニティ拠点化が進行中。キノフェスは「知的好奇心にまつわる体験の場」として書店を使い直す試みとなっている。
本と深夜は、もともと相性がいい?!
よく考えてみると、本というメディアの特性は「夜」と相性がいい。夜寝る前に本を読む人も多いと思うが、本はもともと「一人で没入する」モノ。だからこそ、静かな夜と親和する。賑わいだけでなく静かな読書をしている体験が「盛り下がっている」と判断されない弾力性があるし、同じ建物の中で矛盾なく共存できる。「3階ではトークが盛り上がっていて、5階では人が黙々と本を読んでいる」みたいな風景は、書店だからこそ成立するのかも。
JINSのデータサイエンス部が出した「広告効果測定」のあり方について。短期利益と長期成長の両輪をどう回すか
メガネ小売のJINSが公開した社内データサイエンス部のプレゼン資料が、広告効果測定の実務資料と非常に実践的。マス×デジタルや広告効果測定は、マーケティングにおいては永遠のテーマだと思うが、ココに対する先端的示唆として有用だったのでご紹介。テーマは「マクロからミクロへ」。MMMとアップリフトモデルの使い分けをシミュレーションデータ付きで解説している。
「見た目の効果」はなぜ嘘をつくか
広告効果が「25」であるデータに対し、直前期間との比較では「31.1」と過大評価され、前年同月比較では「13」と過小評価される実例を見ていると、比較対象の取り方ひとつで数字が倍以上ブレる広告効果測定の根本的な難しさが浮き彫りに。この問題に対する理論上の最適解はRCT(ランダム化比較試験)だが、テレビCMのようなマス広告では、視聴者を個人単位でランダム割り当てはできない。RCTは何度も行いたいがTV広告はあたりまえだが予算は高い→なのでMMMやアップリフトが検討されるわけである。

MMMは「どこに予算を置くか」、アップリフトは「誰に当てるか」
MMMは売上を「ベース売上」「マーケティング効果」「その他の要因」に分解する時系列分析。アドストック効果(広告の残存効果)や飽和効果(投下量を増やした場合の逓減)をモデルに組み込むことで、各チャネルの貢献度を定量化する。マクロな予算配分の意思決定に向いているが、一方でミクロな運用に向いていない。また自分の経験ではMMMが精緻にキマるのは相当難しい。挑戦したがうまくいかない、ということの方が多い印象がある。
一方、アップリフトモデルは「誰に施策を当てるべきか」から発想する分析手法。顧客を4つに分ける。施策で購買確率が上がる「説得可能層」、施策なしでも買う「無関心層」、何をしても買わない「離反層」、そして施策によってむしろ購買意欲が下がる「迷惑層」。従来のターゲティングは無関心層にもクーポンを配布し、迷惑層にも広告を当てている。アップリフトモデルは説得可能層だけを狙い撃つ、という発想のもとにある

クーポンを出さなくても買う人にクーポンを配るのは純粋に利益の毀損で、広告を嫌がる人に広告を当てるのはブランドの毀損。両方を同時に回避できるのがアップリフトモデルの思想。
こうした検討は近年は機械学習モデルで検討することが多い。機械学習による分析は予測精度こそ過去の分析システムよりも制度は高くなるが、構造がブラックボックスになりがちなのが問題で「なぜその予測になるのか」を説明できない。結果として、たまたま施策効果が大きそうに見えた顧客にクーポンを配ってしまい、実際には効果がなく損失を生むリスクがある。精度が高いモデルが最善とは限らない、という当たり前だが忘れられがちな話。
短期最適化だけでは足りない

MMMやアップリフトモデルによる施策最適化は直接的な利益貢献が見込める場合もあるが、その効果は一過性になりがちだでもある。持続的成長にはCX戦略やLTVの最大化といった長期視点が不可欠で、データサイエンスの役割は「短期利益と長期成長の両輪」を支えること。特に短期的な成功パターンを踏襲し続けると施策は直ぐに枯れる場合もある。
広告効果測定の手法論は抽象的になりがちだが、このスライドはシミュレーションで数字を見せ、モデルの限界まで正直に書いている。JINSの社内にこのレベルの知見があること自体が、なかなかの競争優位だと思うと同時に、答えのないマーケティング分析は現在進行形でのカイゼンをする必要がある現実がそこにある。
こうしたマーケティング分析、最適予算配分に関しての知見はありますので、もしお悩みでしたらお気軽になんぼーまで。
前週のマーケティングジャーニー!
実は私、Podcastもやってます!元テレビ朝日アナウンサー、現令和トラベル役員の大木優紀さんと2人でマーケティングトレンドや旅について(ほぼ)毎週30分~40分のコンテンツをお届け。
最新回では『イントロ』の死と、『アルバム』の復活についてトーク。久々の音楽トーク回です。音楽を語るとやたらと熱いと最近めちゃくちゃ言われます…「消齢化」によって年齢の垣根が減る中で音楽が二極化する話について語ってます~マーケティングにも通じる話ですよ~
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源泉かけ流し!今週のマーケティング関連トピックス(今週は9個ご紹介!)
フォートナム・アンド・メイソンが挑む「聴こえるチョコレート」ー味覚と音楽を融合させた多感覚ブランド体験
イギリスの老舗チョコレートブランド、フォートナム&メイソンが出したチョコレートバーはなんと「音楽付き」。
16種類の味に16種の対応する楽曲が用意。
そしてパッケージ内部には楽譜が隠されていて、食べ進めるとともに楽譜がだんだん見えてくるという仕様。
味わいを音にして体験にする試み。
ミズノがノンアルビール参入のなぜ サッポロと異色タッグで市場創造
意外過ぎるコラボ。
スポーツメーカー、ミズノ×サッポロビールのノンアル。
目指すのは「スポーツノンアル」というカテゴリ。
運動後のビールを楽しみにする人は多い。
ただ現実的にアルコールの作用は脱水や筋肉分解があるのでビールは勧められない。
「気持ちよさ」だけを抽出して提案する試み。
花粉症でも春満喫、沖縄や北海道など「避粉地」人気…「まるで別世界」観光やワーケーション
避暑地ならぬ「避粉地」。
年々激化する花粉症。飛び始めました。
スギやヒノキの花粉が飛んでない場所(例えば沖縄)への観光や、ワーケーションでの長期滞在が人気。
花粉は今や国民の4割が悩んでいる。
酷い場合、まともな生活も難しいので「本気の逃げとしての移動」が多くなるのも無理もない。
ファミマ社長が語るコンビニの進化「2026年度をメディアコマース元年と位置づけ」
ファミマのメディア戦略は、リテールメディアが店頭にあるだけでなく、決済のファミペイを持っている両輪で成立。
・ファミペイだけでID3,000万
・ドコモ由来データ
・スーパー・Dgsのデータ
しかも日常に即したデータでデータ量が多い。
これだけあれば、確かにウォルマート並のCRMができるか。
グミにする?私は茎わかめ。「海のピクルス」リニューアル新パッケージで登場
茎わかめを「海のピクルス」と表現するの面白いね。
味は若干洋風。
脂質や食物繊維推し。
ターゲットは受験生。
若い人でもカロリーや栄養素を気にする時代ならでは。
カバヤの新食感グミ3倍、セボンスター2倍 「自社推し」せずヒット
最近ようやく注目され始めたトレードマーケティング。
実際の売り場でどう売るかの追求。
カバヤのアプローチは面白いのは、自社商品だけではなく競合商品も含めたグミ売り場の売り場づくりを小売りに提案していること。
売り場全体の販売を最大化することで、結果的に自社商品の売り上げを伸ばす。
コンビニ各社が「完結おにぎり」を定番化 その背景と今後の展望は #エキスパートトピ
「完結おにぎり」がコンビニで定番化。
完結とは?
つまり1コで食事が完結するぐらいの、
・大きくて
・具材が豊富
なおにぎりのこと。
価格はだいたい300円overとおにぎりにしては高額だが、お弁当よりは安く、おにぎり1つよりも満足感がある。
カタチもどこでも食べやすい「合理的な選択」。
“じゃら付け”ブームで予約完売、新シリーズ「ぷちリカちゃん」にみる金看板だからこその柔軟性
ちっちゃいリカちゃん人形、「ぷりリカちゃん」がわずか数日で予約で完売の大人気。
発売から59年目の新シリーズ。
人気の理由はスマホケースやバッグに“じゃら付け”して楽しむ文化の広がり。
定番のリカちゃんがじゃら付けできる、しかもラブブと同じミステリーボックス方式。
納得の人気ですね~
サカナクライシス相模湾100年史にみる食卓の未来
海水温の温暖化による相模湾の変化。
日経のインフォグラフィックスがめちゃくちゃ面白い。
伝統的な魚が北に逃げ、熱帯性の魚が全体の半分程度を占めるほどに魚類が変化。
サカナの生存競争が激化し、サバの平均体重はピーク時の半分ほどに。となると、価格も大きく上昇してしまう負のスパイラル。
海外現地調査レポート:オスロ|Tim Wendelboe——世界一有名な「小さいコーヒー店」のビジネス設計
先日、オスロに行った際にTim Wendelboe(ティム・ウェンデルボー)に遂に行けた。
ティム・ウェンデルボーの名前は、コーヒーが結構好きな人なら知っている名前。2004年のWorld Barista Championship(世界バリスタ選手権)優勝者で、翌年にはカップテイスティングの世界大会でも優勝。スペシャルティコーヒーが流行し始めた走りの時に世界を制しており、コーヒーの世界では文字通り伝説的な人物。
とすれば、とんでもなく店舗は立派なのか…と思っていったのだが実際に着いて驚いた。小さい。本当に小さい。オスロのグリュネルロッカ地区という少し中心部から外れたところにあり、カウンターと数席しかないような店。東京で言えば、路地裏の自家焙煎店ぐらいの規模感しかない。
ただ、そこで飲んだコーヒーはちょっと別格。ライトローストのフィルターコーヒーで、苦味がほとんどなく、フルーツのような甘さと酸味が際立つ。注文ごとに一杯ずつ淹れてくれる。素晴らしいコーヒー店は世界にも数あるが、まさにトップクラスの味。(ちなみに夕暮れ時に訪れたので、客はわたし1人だった)
で、帰国してからコーヒー好きの友人と話していたら、その友人が「Tim Wendelboeの豆、サブスクで買ってるよ」と言う。日本から。あの小さい店の豆を。しかも定期便で届くと。
店は1軒しかないのにどういうこと?調べてみたら、なかなか面白いビジネスモデルなんです。
「ショールーム」と呼ぶ店舗

Tim Wendelboeは公式サイトで、自分の店を「coffee showroom」と呼んでいる。小売の場ではなく、味と抽出方法と産地を体験させて理解を作る場、という位置づけ。グリュネルロッカの店はユーザーの体験拠点、少し離れた別の場所に焙煎所とラボがある。焙煎所の上にはトレーニングセンターも併設されていて、一般客からプロまで教育を受けられるらしい。
あの小さい店は、売上を稼ぐ場所ではなく、彼の世界への入口なわけ。
じゃあどこで売上を作っているのか。実は世界中の家庭・オフィス・飲食店・コーヒーショップに豆を発送するのがメインの収益。単一拠点+国際D2Cで稼ぐモデル。多店舗展開で成長する一般的な飲食ビジネスとは正反対の様相。
国際配送の摩擦を潰す仕組み

とはいえ、海外からコーヒー豆を個人で買うのはハードルが高い。届くまでに鮮度が落ちるんじゃないか、関税がいくら取られるか分からない、届いても淹れ方が分からない。この3つの不安を、Tim Wendelboeは丁寧に対処している。
まず鮮度。注文が入ってから焙煎し、窒素充填して密封。推奨消費期間(焙煎後1〜5週間)と豆の休ませ期間(5〜10日)まで計算して発送。
次に関税。国際配送はDHL Express一択で、受け取り時に追加請求がない配送方法。海外通販で一番嫌な「届いたら予想外の関税を取られた」が起きないようになっている。ヨーロッパ圏外でも3〜4営業日で届くのはスゴすぎる。
最後に淹れ方。公式サイトにAeroPress・エスプレッソ・プアオーバーなど抽出法別のBrew Guideが整備されていて、ポッドキャストやYouTubeでも継続的にコンテンツをリリース。豆だけ売って終わりではなく、抽出の再現性まで担保しようとしている。いい豆買っても、あった抽出が出来なければ宝の持ち腐れだしね。
オスロという「コーヒー都市」の中での存在感

そもそもオスロは「超コーヒー都市」。
ノルウェーの一人当たりコーヒー消費量は年間8.6kgで、世界でもトップクラス。北欧には長くフィルターコーヒーの文化があり、アラビカ豆でクリアな味を好む消費者基盤がもともとあったらしい。1990年代後半から国内バリスタ競技が立ち上がり、2000年のWBC第1回大会はノルウェー人が優勝、2004年にTimが続いた。この競技実績がオスロのスペシャルティコーヒー文化を醸成したんだよね。
今のオスロには、Tim以外にもFuglenやSupreme Roastworksといった有力な店がある。フグレンは日本でも奥渋谷にあり、人気のコーヒー店。Timは教育と布教、Fuglenは店自体の体験重視、Supremeは抽出に強みを持つロースタリー。単純にスペシャリティコーヒーが盛んなだけでなく、複合的な面白みを内包しているのがオスロのコーヒー文化なんです。
Timの存在感が特殊なのは、このコーヒーエコシステムの複数のレイヤーに携わっていること。競技者としての名声、独立ロースター兼教育拠点の運営、2011年にはグリーンコーヒー取引会社を共同設立して調達の上流にも入り込み始めている。「自分の豆を仕入れる」だけでなく、オスロの周辺ロースターが品質の高い原料にアクセスできるようにするインフラ整備の側面。結果として都市全体の品質水準が底上げされる。
コペンハーゲン全体の食のレベルをnomaが高めていったような存在感をTimは示しているってこと。
明日から効く!マーケティング/ブランディング関連書籍レビュー
アート・オブ・スペンディングマネー 1度きりの人生で「お金」をどう使うべきか? モーガン・ハウセル
著者の前作『サイコロジー・オブ・マネー』は「お金の稼ぎ方・増やし方」を心理と行動の側面から書いた本であり、世界的なベストセラー。実用書としてかなりおススメなのだが、その続編であるこの本は「お金の使いかた」に着目している。タイトルの通り、お金を使うことは科学=万人に当てはまる公式、ではなくアート=個人の経験と価値観に依存するあり様だ、というのが本書の核。
何が書いてあるか
この本は家計の節約テクニックを語ったりはしない。予算の組み方や投資ポートフォリオの話もない。代わりに出てくるのは、支出がなぜ非合理に感じるのか、その「なぜ」を深掘りするアクション。
人の支出は一見不合理に見えても、その人の経験や偏りを鑑みれば説明可能になる。
支出は価値観の表出であって、家計術の前にまずその人特有の人間心理がある。支出はモノの魅力や機能だけでなく、他者の承認を求める感情に強く左右される。SNS時代においてはもはやそれがパフォーマンスになっていることは、Xを眺める諸氏は理解できるだろう。幸福を決めるのは収入の絶対額ではないのだ。
著者がたどり着く結論は、支出することの利益は「心の平穏」であって、物そのものより生き方の自由度(時間・関係・健康)に向けるべき、ということ。後悔しないために、可能性をドライブするために金銭を利用する。この本が良いのは説教臭さや倫理的な説得が相当少ないことだろう。ほとんどのベストセラーは「善く生きよ」と説く。この本もそうした傾向はなくはないが、基本的にはどうお金を利用するのか、をクレバーに考えている。お金との付き合い方を整理するには冷静で素晴らしいスタンス。
全体として、清貧礼賛でも散財推奨でもない。「自分に合う支出体系をいろいろ実験して見つけようぜ」が結論で、そういう心理と価値観を育てましょう、というアプローチ。
なぜ「使い方」の本がいま売れるのか
ここからは本書の外の話。
「稼ぎ方」や「増やし方」の本は昔からあるのに、「使い方」の本が注目される流れは比較的新しい。この背景はなんだろう。
ひとつはコロナ後の反動消費とその揺り戻し。パンデミック中に抑圧された消費欲が一気に解放される「リベンジ・スペンディング」が世界中で起きた。でもその反動消費が一巡したあと、多くの人が「結局あれは何だったのか」という虚しさを感じた。使ったのに満たされない。使い方を間違えたのではなく、そもそも何のために使うかを考えていなかった。
もうひとつはSNSによる常時比較世界。昔は他人の車と自分の車を比べるくらいだったのが、いまはInstagramで世界中のライフスタイルと比較される。最新・最上級の贅沢ワールドがいつでも手元にスマホに届く。しかもアルゴリズムが羨ましいと感じるコンテンツを優先的に見せてくる。無限比較篇である。
そしてFIREブーム。2010年代後半から広がったFIREだが、そう現実は甘くなく、実際にFIREを達成した人たちの一部が「自由になったのに幸福感がない」という状態に陥っている。お金の問題を解決しても人生の問題は解決しないというあたりまえと言えばあたりまえの話。
お金と幸福に関する関係性、価値観が変容する途上にあるからこそお金と私の関係を語る本が世界的ベストセラーになるのかもしれない。お金の本なのに数字がほとんど出てこない、という不思議な本だが、本書にあるように「スプレッドシートでは感情を扱えない」。自分の消費に関するバイアスをしって、うまくお金と付きあいたい時におススメ。
偏愛!なんでもインプットコラム
日本初、世界的に大バズりの市川市のニホンザル、パンチくん×IKEAのバイラルを乗りこなすPRテクニック

千葉県市川市動植物園にいる生後7ヶ月のニホンザル「パンチくん」が日本だけでなく、世界的に大バズりしている。パンチくん、実はとってもかわいそうで、実の母親に育児放棄され、子ザルなのに群れからも弾かれてしまった。そんな中、飼育員がIKEAのぬいぐるみを渡したところ、どこに行くにもそれを抱えて離さなくなった。そんなけなげな姿が日本でバズり、更にそれがTikTok経由で世界にも広がり、涙を流しながらパンチくんを見守る海外の方が大挙。動物園ももちろん長蛇の列に。

この話題のぬいぐるみがIKEAのオランウータンのぬいぐるみ(実は猿ではない)。日本円だと1499円。話題になった瞬間に日本・アメリカ・韓国で即完売。最近では日本では在庫は復活していそう。
この話、もちろんIKEAが関わってくるのだが、昨今様々な企業の公式が「ネット話題」との絡み方をミスして燃えていたりするので、理想的なバイラルへ乗っかり方として解説。
まず、初手がいいアクションになっている。

IKEAのソーシャル担当がやったことはシンプルで、オフィスにあった同じぬいぐるみを持って外に出て、芝生に置いて、スマホで撮って、投稿した。それだけ。結果、Facebookで11万いいね。もちろん自分だけでやってるし、わざわざ企画も上げてない。リアルタイムマーケティングではクオリティよりスピードが勝つ、という話の超わかりやすい証明です。
ストーリーに乗っかることの世間的「同意」をどう得るか
注目すべきはその次。IKEAは焦ってこのぬいぐるみを割引きしたり、キャンペーンを仕掛けたりはしなかった。
IKEA Japanはこの市川市動植物園に大量のぬいぐるみを寄贈したのだ。件のオランウータンだけでなく、様々なぬいぐるみを。パンチくん宛てだけでなく、動植物園全体に。実際、動物園でぬいぐるみを活用する事例は多くある。
市川市長はこのIKEAの行いを投稿。こうしてIKEAは公式に「パンチくんの物語の一部」になった。

ここが勝負の分かれ目なんです。
「パンチが使っているあのぬいぐるみ、買えます!」とバナー広告で見かけたら興ざめ。パンチくんを正式に広告に活用してもダメでしょう。それをやった瞬間、バイラルに「乗っかった」感が出て一気にダサくなる。近年、生活者はとてもネットリテラシーや広告リテラシーが上がっているので、そうしたアクションは「タダ乗り」と判定されてむしろマイナスの印象になる。直近でマクドナルドの絵本×ゆっくりコラボに疑問が出るのもそうした背景はありそう。

バイラルな出来事に自社ブランドが参加したいとき、いきなり売りに行くのではなく、まず何かを差し出すことで初めて物語に参加する資格を得る。
もともと「資格」を持つ場合はもちろんそのまま乗っかって問題ない。例えば2025年のM-1グランプリ、優勝したたくろうの漫才では京都産業大学やTOTOTAの名前が使われていた。この場合、既にブランドは巻き込まれている状態なので、シンプルにたくろうとコラボレーションすれば良い。既に京都産業大学やTOTOTAはコラボを実施しているが、ほとんどポジティブに受け入れられている。
他者の物語に参加するには対価がいる。IKEAにとってはぬいぐるみの寄贈がそれ。対価を払った後なら、売っても嫌味にならない。順番を間違えると同じ行為が「ネット話題の搾取」に見えてしまう。結果PRは反発に転換する。

IKEAはパンチくんの文脈をよく理解している。そもそもパンチくんの物語はスタートが悲しい。育児放棄なのだから。ぬいぐるみ自体が根本的な解決になっていない可能性も孕んでいる。IKEAは上記の投稿でもそれを理解した上での適切な距離感を理解していて素晴らしいですよね。
IKEAは物語に参加する資格だけを得て、あまり余計なことをしていない。結果的に世界ではこのぬいぐるみは、物語が付加された上で売れまくっている。IKEAのイメージも良い。非常にうまい乗り方のお手本と言っていいでしょう。
僕もこのことを調べていたらTikTokがパンチくんだらけになって胸が締め付けられるんですが、パンチくんが健やかに生きられるよう祈っています。
今週の1曲
Youtube生まれ、出自バラバラの韓国ガールズバンドがチャート1位を取る異色の道のり
QWER「고민중독(T.B.H)」

https://www.youtube.com/watch?v=phsDrsw-tzc
先日、QWERの1st World Tourの大阪公演に行ってきた。
QWERは韓国の4人組ガールズバンド。その成り立ちは相当変わっている。
韓国の人気YouTuberのキム・ゲランが企画したYouTube番組から生まれたグループで、結成過程がまるごとコンテンツとして公開されている。メンバー4人のうち2人はデビュー時点で楽器がほぼ素人。そして全員が「前世」があり、Twitchの人気配信者、コスプレイヤー、Tiktoker、そしてボーカルは元NMB唯一の外国人メンバーである。全員が「出役」としてのキャリアを持っていて、ほぼ20代後半。SNSフォロワー数を合計するとなんと1000万人。デビュー前からファンクラブが3万人も集まるという驚異的な成り立ちのガールズバンドである。
韓国の人気アイドルと言えば10代の頃から練習生を続け、あるいは厳しいオーディションを受けデビューする。そんな人々に並んで「第五世代アイドル」とも言われるQWER。この成り立ちを聞くとイロモノ感はスゴい。そもそも2人は素人であり、デビュー当初はいわゆる「当て振り(被せで音源を流して演奏しているように見せる)」批判も強かったのだが、実際に見た感想としては、しっかり演奏していたし、ちゃんとライブとして楽しめた。泥臭く頑張ってきたことが伝わる。
今回フィーチャーする「고민중독(T.B.H)」は、YouTube Musicの2024年韓国国内ストリーミング1位(約9,925万回)、Melon年間チャート10位。音源再生は累計1億回を超えている。YouTubeの「2024年韓国で最も再生された曲」でも1位。一過性の話題ではなく、ガチで韓国で聞かれている曲なのである。
(ちなみに日本から見るとK-POPアイドルって世界的に流行しているので、韓国の音楽チャートもK-POPだらけなのかと思うかもしれないが、意外とそんなことはない。韓国のチャートで全体TOP10に入る、あるいは入り続けるK-POPはかなり少ないのが実情である)
この曲を聴くと驚くのが、サウンドの質感が完全に日本の00年代青春ポップロック。チャットモンチーやSCANDALあたりの系譜にある。そもそもプロデューサーがインスピレーションを受けたのが「推しの子」であり、日本の文化もルーツの1つ。最新K-POPのようなHOUSEやHIPOHOP交じりでは全くなく、さっぱりした明るさと覚えやすいサビのど真ん中青春ポップロック。聞きやすく。明るく、気持ちが良い。それが強いボーカルで奏でられる。
メンバーの話もしておく。ボーカルのシヨンは元NMB48で、AKBグループの歌唱力ランキングで2位になった実力派。大阪のステージで聴いた生歌は、その経歴に恥じない圧だった。ドラムのチョダンは大学でドラムを専攻していて、もともとボクシングもやっていたらしく、叩き方がとにかくパワフル。ドラムとボーカルは相当なハイレベル。
残り2人のギターとベースがデビュー時にほぼ初心者だったわけだが、大阪で見た限り、もうしっかり弾いている。完璧かと言われればプロの演奏家と比べるものではないけれど、ライブとして成立する水準には確実に来ていた。結成からの成長過程をファンがリアルタイムで見てきたから、その上達自体がコンテンツになっている。ガールズバンドの魅力って「完成形を見せる」だけじゃなく、こうやって進化していく過程にもあるよな、と思いながらライブを見ていた。実は僕はスキャンダルがとても好きだったのだけれど、ガールズバンドの良さの1つはこのアイドルにも似た実力の進化にあると思っている。
韓国メディアはQWERを「第5世代の中心を掴んだ」例として、大手事務所に依存せず企画力で勝ったグループとして評価している。バンドなのにショート動画のチャレンジが4,000万ビュー回る。そもそも4人ともインフルエンサーなのでSNSの使い方がうますぎる。「バンドかアイドルか」の二択ではなく、プラットフォーム時代に音楽グループが自然に行き着く混ざり方を、最初から設計して走っている奇跡的な存在なのかも?
最後に!
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