引き算が生み出す濃度。減らした分だけ、濃くなる。

今週は18,142字。フジロックの最大のステージで、The xxは音も光も極限まで減らして、野外を3人の「密室」に変えていました。この「減らすと濃くなる」話が、上海の売場にもKFCのリブランドにも次々に出てくる号です。書籍のかわりに、今年一番怖かった映画のレビューを。今週の1曲はもちろんThe xx「I Dare You」。18個のニュース。
南坊泰司 2026.07.28
読者限定

忙しいあなたのためのマーケティング情報サプリメント。週に一度、厳選されたトレンドと洞察をまとめていきます。これを読めば「主要なトレンドをキャッチできる」、そういった想いで届けてまいります。まずはご登録をお願いいたします。

マーケティングトレンドインプット 今週のクイック解説3選

KFCとコカ・コーラのリブランド同時刷新 新しい記号を足さない2026年のブランドデザインシステム

6月、KFC(ケンタッキー)がグローバルのブランドデザインを刷新。手がけたのはクリエイティブエージェンシーのJKR。
3D化したロゴ、2つの専用書体、店舗内装、包装、アプリ、SNSの文体まで一気に変える360度のリブランドで、まず英国・アイルランド、続いてオーストラリアと米国、最終的には日本を含む150を超える国の3万4,000店以上へ展開される。

主役はカーネルおじさんではなく、バスケットになった

今回のリブランドがド真ん中に置いたのは、あのカーネル・サンダースではない。チキンが入っているあのバスケット。バスケットは世界共通の形に作り直され、ロゴの延長として扱われる。中に商品写真を入れてもいいし、作家のイラストでも、キャンペーンのメッセージでもいい。カーネルもちゃんといる。おじさんの表情は少し温かく描き直された。ただし中心はあくまでバスケット。

カーネルおじさんには情緒性がある。ただ、アプリのローディング画面、デジタルメニュー、SNS、地域ごとのキャンペーンと、ブランドの接点が増え続ける現代に、人物の顔がポータブルに使いやすいかといえば微妙である。だからこそ、カーネルと同じくらい昔からそこにあり続けたモノ、ケンタッキー独自の資産、バスケットを世界共通のデザイン資産の真ん中に据えた。

外側だけを世界共通にして、中身は自由にする

150カ国に3万4,000店。すべてを同じ見た目に揃えれば地域ごとの表現が弱くなる。自由にしすぎればブランドがばらける。
KFCの答えは、外側のバスケットだけを共通にして、中身を自由にすること。実際、新しいイラストレーションの体制にはブエノスアイレス、アムステルダム、厦門、リマ、ムンバイの作家が並んでいる。

絵柄はバラバラでも、バスケットに収まっていればKFCに見える。バスケットは包装ではなく、何を入れてもKFCに見せられるフレームになった。JKRはこの世界観をBucketverseと呼んでいる。

他の要素も同じ発想で作られている。
赤白の縞は背景の柄からメッセージを運べる文字の資産へ変わり、Kentucky Fried SerifとKentucky Fried Sansという専用書体が用意され、写真にはバスケット越しの視点で撮るbucket lensという基準が作られ、赤・白・黒の色には、11種のハーブ&スパイスにちなんだ拡張パレットが容易。
一つひとつの要素にこれまでのKFCの試算をひたすら活用し、かつ展開可能な状態でブランドデザインシステムの中での仕事が割り振り直されている。世界観を増やすために新しい記号を足すのではなく、昔から必然的にそこにあったモノをブランド全体の入口にした。大規模なデザインリニューアルはバックラッシュを起こすことが多いが、ここまで「ケンタッキーが持ってるもの」から発想するとそんなダメージも相当起きにくい。

コカ・コーラは同じ夏に、逆方向から同じことをした

そしてKFCの約1カ月後の7月、コカ・コーラもグローバルのビジュアルアイデンティティを刷新した。
ブランドアイデンティティを手がけたのはなんと同じJKR。
こちらは新しい要素がほぼない。スペンサー体のロゴ、ダイナミックリボン、コンツアーボトル、1969年由来の赤い正方形アーデンスクエアの再導入と、100年選手の資産を揃え直して増幅する方向で、掲げられた考え方は「コカ・コーラをもっとコカ・コーラにする」。
変更の中身も、缶ではロゴを縦に置く、マルチパックには缶の写真を入れると、派手な新要素ではなく既存資産の使い方を締める調整が並ぶ。そのうえで200を超える市場に対して、ガイドラインを一元化するブランドセンターと、Adobeと組んだAIのデザイン管理ツールまで用意した。欧州・中東・インドから始まり、2027年には北米まで反映する計画になっている。

方向は逆に感じる。
KFCは何でも入れられる器を作って自由度を増やし、コカ・コーラは市場ごとにばらけた表現を締め直す。
ただ、2026年を代表する2つのリブランドがやったことの芯は同じで、どちらも新しい記号を足していない。昔からずっとそこにあったモノを選び直し、システムの真ん中に昇格させている。マーケティングで言うブランドの独自資産、ディスティンクティブ・アセットの運用を、接点が増え続ける時代向けに設計し直す、という発想は変わらない。

接点がテレビと店頭くらいだった時代は、完成された1枚のキービジュアルを作ればよかった。いまはロゴが画面の中で動き、画面のサイズは毎年変わり、地域ごとにコラボやキャンペーンが走る。必要なのは新しい絵ではなく、どこで何を入れても同じブランドに見える構造のほうだ。記号を足すのではなく、必然的にそこにあったモノに役割を書き直して渡す。2026年現在らしいグローバルブランドのスタンス。

売れ残り廃棄禁止とサステナブル表記の規制強化 欧州発・アパレルの従来の作り方が変わる規制法案のいま

7月19日、EUで大企業による売れ残り衣類・靴の廃棄が原則禁止になった。
エコデザイン規則(ESPR)の適用開始によるもので、対象は衣類、靴、帽子、革小物。焼却や埋め立てだけでなく、売れ残りを廃棄物としてリサイクルに回すことも原則「破壊」として扱われるのがポイント。「リサイクルに回したからセーフ」は通らない。中堅企業にも2030年から広がる流れ。

その1カ月前の6月には、英国の広告規制機関ASAが、adidas、ユニクロ、カルバン・クラインの環境訴求広告をまとめて違反認定した。商品の一部に再生素材を使っている事実を、商品全体やコレクション全体がリサイクル製品であるかのように見せた、という理由。アパレルの従来の作り方があらゆる方向から絞りあげられている。

売れ残りの最後の出口が封鎖

EU側の推計では、欧州市場に投入される繊維製品の約4〜9%が、一度も使われないまま廃棄されているとのことこれはなかなか衝撃の数字。年間にして26.4万〜59.4万トン。作りすぎを前提にした産業構造そのものへの規制と言っていい。

設計は思ったより精密。ブランド価値を守りたい、値下げしたくない、という理由は例外として認められない。例外は偽造品や安全上の欠陥など10種類に限定。しかも大企業は廃棄した売れ残りの数量・理由・処理方法を毎年開示する義務がある。どのブランドがどれだけ作りすぎたかが透明になるわけだ。現時点でハンドバッグや時計、ジュエリーは廃棄禁止の直接対象ではなく、ウェアと靴がひとまず中心。シーズンごとに大量の型番を投入するタイプの事業である。

こうなると、在庫はどこへ行くのか。
廃棄という「出口」が閉じた以上、売れ残りは現物のまま残り倉庫代と管理費を発生させ続ける。ならば値引きするしかない…ただ、2025年の時点でラグジュアリー商品の最大約40%がすでに何らかの値引き価格で売られている。ここにさらに在庫を増やしていけば、値崩れがあたりまえになり、そうなると定価で買う人はどんどん減っていく負のスパイラルになる。
となると、一番合理的な対応は「そもそも作る量を減らすこと」になる。

再生素材75%でも「サステナブル」とは言えない

adidasがGoogle広告に出していたのは「Recycled Running Shoes」という表現だった。実際にはそういう商品群が存在するわけではなく、コレクション内の一部商品が、割合の異なる再生素材を含んでいた。ASAはこの書き方では靴全体が再生素材でできていると受け取られるとして同じ形での広告を禁じた。adidasが嘘をついたわけではなく、一部の事実を全体の訴求にしたことが問われた。英国では2025年から、消費者法違反に世界売上高の最大10%の制裁金を科せる制度も動き出していて、グリーンウォッシュは広告を取り下げれば終わりの軽いリスクではなくなった。

たくさん作り、大きく語り、静かに処分する、が終わる

従来のアパレルのビジネスモデルは、シーズンごとに大量の型番を投入して話題を作り、環境訴求はコレクション単位で大きく語り、売れ残りは目立たないように処分する(値崩れを防止する)。今回の2つの規制はこの仕組みそのものを揺るがすもの。ブランドは部材単位の証拠を求められ、処分は禁止。残された調整先は生産をいじること。

具体的な方向は見えている。
初回生産を減らして売れ行きを見てから追加する。色数とサイズ在庫の末端を削る。シーズンをまたいで売れる定番の比率を上げる。受注生産や予約販売を増やす。修理と再販売で同じ商品から複数回の売上を作る。
ただ、この規制が「強力なブランド」の是正になるか、と言えば果たしてどうだろうか。強いブランドは数量を減らしても価格を守れるが、ブランド力が弱いほど、売上を維持するために作り続けて値引きへの依存を深めることになる可能性もある。「少なく作って、長く・高く売る」ブランドの強さが増す可能性が高い。

離島専門の引っ越しで年商8億円 ニッチを極めてから横展開するアイランデクスのビジネス設計

福岡に離島専門の引っ越し会社がある。アイランデクス。2018年創業で代表の池田さんはフリーのデザイナーという異業種からの転身、引っ越し業の経験はなし。
それが今、離島への引っ越しを年間約800件、車両輸送まで含めた受注は年約8,000件、2025年の年商は約8億円になるらしい。今年3月にはICC FUKUOKAのソーシャルグッド・カタパルトで優勝もしていて、いま注目されている会社。今回はこれを、ニッチビジネスの立ち上げ方の事例として考えてみたい。

大手はリスクを価格に乗せ、専門会社はリスクを構造で解消する

離島への引っ越しを大手が敬遠するのには合理的な理由がある。
悪天候で船が欠航すれば到着日が読めない。港での積み替えが増えるほど破損リスクが上がる。件数が少ない離島引っ越しのためにこの複雑さを抱えるのは割に合わないから、一般の事業者が受ける場合は費用を価格にがっつり上乗せする。リスクを「コスト」として処理するわけだ。

アイランデクスの発想は、単純に価格を安くするというよりも「リスクそのもの」を仕組みで減らすことで、価格を下げた。
積み替えの多い船舶輸送に耐える厚さ10ミリの専用段ボール「島箱」を開発し、コンテナに隙間なく積める形にした。離島側に事業所を置き、全国60を超える港の港湾事業者と連携。積み替えの現場を目の届く範囲に収めた。事業所は対馬や奄美大島など8つの島にあり、全国400を超える有人離島の人口の約8割をカバーしている。破損と遅延というこの市場の価格を吊り上げていた2大要因を、道具と拠点で潰している。

ニッチ戦略というと「小さな市場でシェアを取る」と説明されるが、ただそれだけだとビジネスは大きくならない。「人がやらないことを解決する仕組み」を強固に作り、その上でこの仕組みを活用して横に広げることができるか。

引っ越しで築いた関係網を活用したクロスセル

アイランデクスは引っ越しの次に車両輸送に広げた。離島系のフェリー会社と組み、累計4万台以上を運搬。さらに次は空き家のリノベ、さらに自社でのシェアハウスやゲストハウスの運営、ワーケーションあっせん、離島の困りごと解決、などへ事業を横展開。

一見バラバラな多角化に見えるが、考えてみれば軸は明解。商品は「離島」から変わっていない。
引っ越しで築いた島ごとの信頼と航路、港の関係網で、これを活用すればクルマも運べる。島に引っ越す人は車も運びたいわけ。そして移住者が増えれば住む場所が要る。ならば空き家を活用する。移住者と関係ができたり、離島に拠点があるからトラブル解決事業もできる。全てつながっている。
クロスセルというと同じ顧客に別の商品を売ることだと思われがちだが、ここでやっているのは、同じ関係網に別の事業を乗せることに近い。順序も重要で、最初から「離島の何でも屋」を名乗ってもコストばかり掛っただろう。引っ越しという生活のセンターピンであり、そして巨大なイシューが存在した難しい問題を解決したからこそ、他へ広げやすい環境が出来たと言えるだろう。

参入障壁は技術ではなく、島ごとに積み重ねた関係と時間

では後発は真似できるか。島箱のような段ボールはおそらく作れる。ただ、8つの島の事業所と60超の港との連携、島ごとの信頼関係は、資本があっても一気には買えない。
島は一つひとつ事情が違い、関係は件数と年数でしか積み上がらないからだ。そもそも島とはかなり狭い世間をそれぞれ持つ世界。ニッチ市場の課題を先に解いてしまえば、市場の小ささ自体が防壁になる。後発から見れば、小さい市場のために時間のかかる関係構築をやる理由がない。先行者から見れば、小さいからこそ守り切れる。

離島の人口はほとんどが減っていく。この市場が拡大市場でないことは確か。だからこその多角化でもある。縮む市場で一点のシェアを守るのではなく、島との関係網を資産に、島に関わるお金の流れ全体へ商圏を広げていく。ニッチにこだわり続けた会社だけが、最後にニッチの外へ出られる。

***

前週のマーケティングジャーニー!

毎週更新のPodcast、元テレビ朝日アナウンサー、現令和トラベル役員の大木優紀さんと2人でマーケティングトレンドや旅について(ほぼ)毎週30分~40分のコンテンツをお届け。

最新回では最近見かける「ヘタウマなデザイン」が素敵に見えるハナシについて。カッコ良い、ミニマルな雰囲気が飽和したことへのカウンターとしてのノスタルジー。そしてAIに対抗する人間らしい「ダサさ」の設計。じゃあその先のデザインはどうなっていく?なんてことを考えています。

***

源泉かけ流し!今週のマーケティング関連トピックス(今週は18個ご紹介!)

大阪府の人、おまけ売りがち

毎年恒例になりつつある、メルカリのデータからの都道府県傾向。
北海道の人がサウナハットを買う、
大阪府の人がおまけを売る。
納得!もあれば、なんで?的なものも。
プラットフォームのデータ活用、全然原資もかからないし、いいPR&プロモーションになりますよね。

ビックリマン史上初の取り組み!生成AIで“世界に一つだけ”のビックリマングッズ群を販売!「ビックリマンAIグッズメーカー」を7月29日(水)より提供開始いたします。

ロッテ公式がビックリマンのAIグッズメーカーをリリース。
自身の顔写真をUPすると、ビックリマン的画像を生成し、更にグッズも注文可。
AI画像生成において、
「ビックリマン風を生成する」のは定番の使いかた。
どうせAIで模倣されるなら公式でちゃんとサービス化した方がよいよね。

「スイカジュース」ブーム到来、2.5倍の特大サイズ・回数券も登場

スイカジュースのブームがきてる。
いつも通りの(?)韓国発。そもそも韓国で人気爆発し、韓国旅行で試し、とりこになった人が多い。
スイカそのものの購入量は10年前から3割減。
でもスイカへの支出額は増加中。
果実じゃない「スイカ味」は歓迎されてる。

この記事は無料で続きを読めます

続きは、11444文字あります。
  • 海外現地調査レポート:上海のHARMAY ミニサイズと超フラット陳列が宝探しの楽しさと価格の分かりにくさを同時に作る
  • 偏愛!なんでもインプットコラム
  • 明日から効く!人生の糧になる?映画レビュー
  • 最後に!

すでに登録された方はこちら

読者限定
壊れた、奪われた、崩した。ざらつきが生み出す波紋。
読者限定
正しさは説かない。実感だけが動かす。
読者限定
声は作れない。語りたくなる体験だけが残る。
読者限定
整いすぎは疑われる。雑な手触りこそが価値になる。
読者限定
2026年W杯最高のPR、リーバイスの秀逸な文脈設計&孤独を売るインフ...
読者限定
買い物の主導権がAIになる?&ビオレママの本名を知ってる?
読者限定
点で売らない・線で居座るマーケティング戦略&未練で人は動くもの
読者限定
MLB復活の理由はルールを変えたこと&バズ売れは終わったのか