正しさは説かない。実感だけが動かす。
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マーケティングトレンドインプット 今週のクイック解説3選
Acne、Aesop、ユニクロ/ブランドはなぜ「紙」に戻ってくるのか
Acne Studiosが、世界の街角に小さな「ピンクの図書館」を作っていた。
ロンドンは電話ボックスに、パリはセーヌ川沿いのキオスク。東京は原宿のギャラリーが、壁も棚もピンクの読書室になった。置いてあるのは服ではなく、自社のカルチャー誌「Acne Paper」の最新号とアーカイブ、そして各都市の書店が選んだ本。東京の選書は恵比寿のアートブック書店がやっている。

きっかけはブランドの30周年。周年って普通、盛りがち。アーカイブ展、復刻、限定ロゴ、年表ムービーなどなど。Acneは30年分を500ページの雑誌一冊に収めた。これ自体は盛り盛りなのだが、それを置く器のほうは電話ボックスやキオスクまで圧縮してるのが面白い。
この雑誌がまた渋い。Acne Paperは2005年の創刊以来、一度も自分のブランドを特集したことがなかった季刊誌で、ずっと周りのアーティストや写真家を載せてきた。その雑誌が30年目にして初めて自分に向けた号のタイトルが「Autoportrait(自画像)」。これはさすがにカッコいいよねえ。20年間「他人」を編集し続けたからこそ、初めての「自画像」に意味が出る。もちろんピンクの図書館は目立つのでSNSではがっつり拡散されるのだが、ブランドの姿勢としてはあくまでクール。アクネらしさがでてる。。
売り場を図書館に変えてしまうAesop
本とブランドという組み合わせで、もうひとつ思い出すのがAesop。
スキンケアとフレグランスのAesopには毎年「図書館」になる期間がある。「Aesop Queer Library」という企画で、今年で6年目。期間中、対象店舗ではほぼ全部の商品を棚からどけて、クィア作家やその支援者の本に置き換える。来た人は1冊選んで、無料で持ち帰れる。何かを買う必要はない。累計で全世界で11.5万冊以上を配ってきたそうだ。
6月のプライド月間には、クィア関連の施策をやる企業は多い。ただ、その多くはロゴをレインボーにするぐらいの表明で、売り場そのものを商品ごと明け渡してしまう施策は相当強い(し売上リスクもある)。この施策のポイントは、姿勢の表明だけで終わっていないことだ。本を取りに来た人は、店に入る。あの香りがして、作り込まれた店舗を楽しみ、フレンドリーなスタッフと話す。そして本を無料で持ち帰る。スキンケアは使うもののレギュラーメンバーがもう決まっている人でも、本は何冊あってもいい。入店の理由として、本は商品より間口が広い。
ユニクロが雑誌を刷り続けている
もっと大きな規模でこれをやっているのがユニクロで、2019年から「LifeWear magazine」という雑誌を出し続けている。編集長は元POPEYEの木下孝浩。年2回、バイリンガルで作って、世界中の店舗で無料配布している。中身は自社商品のカタログではなく、服を起点にした暮らしと文化の読み物になっていて、雑誌として普通に読める。POPEYEを作っていた人間を編集長として迎えるという人事自体が、片手間のカタログではなく本気の雑誌を作るという宣言でもある。
ラグジュアリー寄りのAcne、ミドルのAesop、マスのユニクロ。価格帯も業態も違う3ブランドが、そろって紙の文字メディアに投資しているのは何故なのか。

消えない、流れない、安く見えない
一番大きいのは、紙が物理的に滞留することだと思う。
デジタルの接点は、どれだけバズっても数秒で流れていく。フィードのAcneは、スクロールされたら終わり。でも持ち帰られた本と雑誌は、家の本棚に残る。本や雑誌は特別な質感を持っている。本を配るというのは、顧客の家の中に小さなブランド接点を常設することに近い。
いまのマーケティングは計測とアルゴリズム最適化に寄り切っていて消費者の側もそれを知っている。そんな時代に、電話ボックスの図書館や500ページの雑誌のような、効果測定もスケールもしにくい施策をやること自体が、逆説的にブランドとしてのコミットメントの証明になる。手間とコストが可視化されているものは信用されやすいという、ある種これも心理的な仕組みがある。
そして本というモノの特殊さも。ステッカーやトートはただのノベルティ。商品サンプルなら販促。でも本は、ただで渡しても安く見えない。しかも捨てられずに大切にされる。あとから本棚を見れば「Aesopでもらったやつだ」と思い出す。そりゃロイヤリティも形成できる。
紙の雑誌は商業メディアとしてはずっと縮小が続いていて、休刊も相次いでいる。ブランド側は資本のことをあまり気にせず、編集の純度だけで作れる。皮肉なことに、いまいちばん自由に雑誌を作れるのは出版社ではなくブランドかもしれない。
JAL「リアリティショー旅」/放送されないリアリティショーを、旅として売る

Lがリアリティショーを売るらしい。
ジャルパックと博報堂が始めた「リアリティショー旅」という体験型ツアーで、参加者に事前に知らされるのは集合場所と集合時間だけ。行き先は熱海、1泊2日。初対面の6〜12人が、トークテーマカードで価値観を出し合い、9つのミッションで対決したり協力したりする。今年7月末から来年3月までの実証実験としてやるそうで、JALグループとしては初の「旅仲間を見つける」ことを目的にしたツアーになる。
もちろんJALが売っているのでこれは旅行だ。どこかで公開されるショーではない。それでも、リアリティ番組の仕掛けそのものは体験できる。初対面で、クローズドな環境で、何かしらのミッションをこなしていくあの感じ。行き先が熱海というのも地味に良い設計で、東京から新幹線で40分なら参加のハードルは低く、それでいて温泉地の1泊2日は日常から切り離される。
ショーを抜いても、仕掛けは機能する
リアリティショーの仕組みって実はよくできている。初対面の人間を閉じた環境に入れ、共通のミッションを与えると関係性が生まれて、勝手に進行していく。あれは番組の演出である以前に、人間関係を一気に展開させるよきできたシステムなのだ。
普通、初対面の人と価値観の話なんてしない。天気とか出身地とかの浅いレベルのつまんねー話を何往復もして、ようやく少しずつ深くなる。リアリティショーの仕掛けは、この往復をショートカットする。ミッションという口実があるから、いきなり協力したり競ったりできて、トークテーマカードという装置があるから初対面で価値観を開示しても不自然じゃない。
今回の企画が示しているのは、このシステムから「見せる」部分を抜いても成立するんじゃないか、という仮説。考えてみれば、恋愛リアリティ番組を見ながら「自分ならこの質問にこう答えるな」と考えていた人、いますよね。あれはもう半分参加しているわけで、それをガチで体験できるようにした商品と言える。
「関係を作る装置」は他でも使える
背景にある課題設定もまっとうで、リリースにはSNSのアルゴリズムで似た価値観の人に囲まれる時間が増える一方、初対面の人と語り合って仲間を見つける機会は限られている、と書いてある。つながりの不足は世界的に社会課題の扱いになりつつあって、その解決手段としてリアリティショーのフォーマットを持ってくるのはなるほどって感じ。
この仕掛けが使えるのは旅行だけじゃないと思う。初対面の人間関係を短時間で立ち上げたい場面は世の中に結構ある。新卒研修やチームビルディングは既にゲーム型の手法があるけれど、もっとリアリティショー的に設計できる余地があるし、マッチングサービスが1対1のデートの手前に「6人でミッション」を挟む形とかもあるかも?移住促進や関係人口づくりのような、地域と人の関係を作りたい自治体にも合いそう。
ASKETの環境コストレシート/道徳で説かずに、明細で見せる
買い物すると、レシートが2枚届くファッションブランドがある。1枚はふつうの、金額のレシート。もう1枚には金額が書いていない。じゃあ何が書いてあるのか。その服を作って届けるまでに使った水、エネルギー、CO2などなどが記載されている。
ストックホルムのASKET。注文ごとに「Impact Receipt(環境コストのレシート)」がメールで届く仕組みを2023年から続けている。Tシャツ1枚ぶんの水が何リットル、エネルギーが何kWh、排出が何kg、梱包と配送のぶんまで、品目ごとの明細に。Tシャツ1枚で水は約27,000リットル、CO2は5.8kg。数字だけだとピンとこないがレシートには「成人が30年かけて飲む水の量」といった換算の注釈までついてくる。

正しさは、実感につながらない
環境コストの話って、道徳的に説かれることが多い。地球のために。未来の。正しいんだけど、正しさは実感につながるかというと微妙だ。まあ耳を通り過ぎていくもの。
サステナブルを掲げるブランドの多くはここで態度の表明に向かう。オーガニック素材を使っています、排出を削減しています。どれも正しい。ただ、買う側からすると、それは商品タグの上のお題目であって自分の買い物との接点がない。ASKETがやったのは、それをUXで実現すること。レシートは説教はしない。事実を伝えるだけ。
でも人間、道徳で諭されるよりファクトとしての支出を見せられたほうが、なんかリアルな手触りになる。金額のレシートと同じフォーマットで環境コストが届くと、実際に手元にあるシャツに、水やCO2が材料と同じ「使ったら減るもの」として認識される。
ASKETのコンセプトは「Buy less」。ファッションブランドなのに、買うのを少なく、と宣言するかなりラディカルなスタンス。作っている服も流行を追わないタイムレスな定番だけで、買い替えの少ない服を売る会社だから、1回の買い物の環境原価をぜんぶ見せていい。むしろポジティブな情報供給とすら言える。

実感しにくいことを伝える技術
ASKETの施策から学べるのは実感しにくいことをどう伝えるか。
まず、単位を個人に落とす。「ファッション産業は世界の排出の何%」という地球単位の話は正しくても自分事にはならない。「あなたのこのシャツで水27,000リットル」なら主語が自分になる。
次に、既にあるフォーマットに乗せること。レシートという形式は誰でも読める。新しいリテラシーを要求せず、金額明細という見慣れた器に環境コストをかくから説明ゼロで伝わる。歩数計やヘルスケアアプリが健康を「今日の歩数」という数字に変換したのと同じだね。実感は新しい情報からではなく、見慣れた形式に乗った新しい中身から生まれる。
最後に評価しないこと。記録だけして良い悪いを言わない。説教された人は防御する反応になりやすい。明細を渡された人は自分で考える。行動変容の圧が強いほど逆説的に人は動かないって皮肉。
前週のマーケティングジャーニー!
実は私、Podcastもやってます!元テレビ朝日アナウンサー、現令和トラベル役員の大木優紀さんと2人でマーケティングトレンドや旅について(ほぼ)毎週30分~40分のコンテンツをお届け。
最新回では「ネーミングをつける価値/外す価値」についてトーク。焼肉の部位って結構細かく名前がついてますよね。こうやって名前を細分化されると価値があるように見えてくる。一方で逆に名前や肩書をあえてつけないことで価値化する手法も。ネーミングの話を深掘りした回となっています!
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源泉かけ流し!今週のマーケティング関連トピックス(今週は16個ご紹介!)
ベルギー代表 歴代アウェイユニフォーム
ベルギーのアウェイユニフォーム、試合見ててなんか独特だな~と思って調べたら、アウェイは「国の文化のショーケース」にする伝統みたい。
日本人が見ると桜色ぽいけど、今回のアウェイユニフォームは、ベルギーの画家、ルネ・マグリットへのオマージュ。ベルギーシュールレアリスムへのリスペクト。
2016EUROの時は自転車文化をイメージ。
2022年のW杯の時はベルギー発の音楽フェスTomorrowlandコラボ。
2024年EUROの時はベルギーの国民的マンガをイメージ。
世界的な大会に対して「ベルギーらしさ」を色んな見せ方で広告塔にする考え方なんだね。
喪服レンタルの喪服レスキュー、年内40店舗へ倍増 5億円調達
喪服をレンタルする無人店の「喪服レスキュー」
好調で年内40店舗に倍増。
働き方の多様化や服装の変化など「喪服に使える服」がない家が増えているからなのか、需要はどんどん増えていそう。
なんと店舗は無人。決済時のスマートキーで入店し、サイズを選択するスタイル。
パレスホテル東京の新プランは「散歩」
パレスホテル東京の新プランは部屋じゃなくて「散歩」。
名前は「Tokyo Fashion Chronicles」。
2泊3日でファッション研究者の中野香織さんが同行し、表参道・銀座・代官山のどれかを4時間一緒に歩いてくれる。
着物、時計、プレタポルテ。街をファッション史の教材にして歩くツアー。
1室2名で64万6,000円から。1日1室限定。
このプラン、アクティビティはほぼ全部ホテルの外。
ツアーは街を歩く仕組み。
夕食は館内で「高田賢三が生前通って、必ず食べた献立」の再現。
ホテルが文化のハブになっていて、場所としての価値より編集者的な価値の仕事をしている。
考えてみれば、この価格帯の高級ホテルはもう部屋では差がつきにくい。どこもいいベッドで、いいアメニティで、サービスも良い。だから競争は設備よりも編集力へ移り始めているのだろうか。
ホテルに泊まりに行くんじゃなくて、詳しい人に会いに行く。「東京めちゃくちゃ詳しい人いるから紹介するよ」って言われるあれの最上級版。64万円でこれを買う人、日本でもインバウンドでも確実にいると思う。
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