名付けて終わるか、実装までやるか。

今週は17,008字。書籍レビューは林凌『新・消費論』。「◯◯消費」と名付けた瞬間の「分かった感」を疑う一冊です。W杯2026の「連邦型ブランド」を作った日本人、スーパードライ3.0の「冷え」の実装、プロテイン高騰の構造と、言葉の先にある仕組みを考える3本。海外レポートはバレンシアの芸術科学都市で「1990年の未来」を歩き、今週の1曲は韓国でヒット中のLET ME KNOW。15個のニュース。
南坊泰司 2026.08.25
読者限定

忙しいあなたのためのマーケティング情報サプリメント。週に一度、厳選されたトレンドと洞察をまとめていきます。これを読めば「主要なトレンドをキャッチできる」、そういった想いで届けてまいります。まずはご登録をお願いいたします。

本編の前に、ひとつだけお願いです!

TheLetterも1年続き、読んでくれる人が2,000人を超えました。いつも購読いただき本当にありがとうございます。そろそろ名前や見た目、伝え方を少しだけ整えようと思っています。ただ、こちらで全部決める前に「いま何を面白がって読んでもらえているのか」、「何を残してほしいのか」を聞いてみたい。3分ほどで終わるフォームを作りました。一言だけでも匿名でも大丈夫です。いただいた声の一部は掲載OKを選んでもらったものだけ、後日リニューアルをお知らせするnoteのお知らせでも紹介させてください。

マーケティングトレンドインプット 今週のクイック解説3選

W杯2026のブランドデザイン 日本人が中心で作った、3カ国16都市の展開にも耐える「連邦型ブランド」

実は、今年のワールドカップのロゴとブランドアイデンティティに中心的に関わったのが日本人のかたなんだそうです。Public Address Tokyoのクリエイティブディレクター、西田享将。Bruce Mau Design時代にASICSのグローバルリブランディング(店舗空間からパッケージ、ロゴ規定、Webまで)を手がけ、Netflixではグローバル展開の運用に最適化したブランドツールキットを作ってきた人。

前提から。今回のW杯はアメリカ・カナダ・メキシコの3カ国共催で、開催都市は16、出場は48チーム。単一の開催国の文化・伝統・地理・カラーをロゴに詰め込む、従来の大会ブランディングの作り方が最初から成立しない大会なんですよね。で、僕が伝えたいのは、このデザインが「ロゴとして優れている」以上に、デジタル・オフラインを横断して運用できる大規模ブランドデザインシステムとして素晴らしい、ということ。

一般的なブランディングと、順序が逆

一般的な大会ブランディングの流れは象徴的なロゴを作る→色と書体を決める→使用禁止例を並べたマニュアルを作る→各国・各代理店がその都度なんとか展開するってな感じ。

今回は順序が逆で、まず「どの部分を固定し、どの部分を動かしてよく、誰がどこまで編集でき、媒体が変わったら何に差し替えるか」を先に設計している。その結果としてロゴや書体や都市ブランドがある。一つの完成形を世界中に強いるのではなく、色んな所である程度自由に使う前提の上でつくったルールを配る。ASICSやNetflixで「ロゴの周囲で何年も発生する運用」を設計してきた西田の系譜が、そのまま史上最大規模のスポーツイベントに持ち込まれた形。

固定と可変の切り分けが、連邦型ブランドになっている

このシステムで一番優れているのは、何を固定して何を可変にするかの切り分け。

固定されるのは、世界中で認識されるトロフィー、開催年の「26」、基本の幾何学デザイン。中心は、あえて場所性の薄い共通インフラ。3カ国16都市をまたぐ以上、特定の文化を中心に置くこと自体が難しいからですよね。

その代わり、文化的な具体性は都市側でのデザインに託した。16の開催都市それぞれに、固有の色、パターン、人物、場所を使った独立のブランドが作られていて、FIFA自身が「史上初めて開催都市ごとの固有アイデンティティを展開した」と言っている。さらに公式ポスターは、16都市それぞれ別の現地作家が、その街のランドマークや自然やサッカー文化を自由に描いています。

つまりこれ、中央集権型のブランドではなく「連邦型ブランド」なんですよね。一般的にはブランドは中央集権的に強く管理する方が強固にはなりやすい(例えば楽天やDMMのように)。ただ3か国の開催ではそれは難しい。なので設計として中央は強いが文化的主張を意図的に薄くし、各都市は文化的に濃く、視覚的にばらつくことを許容する。ただし共通の形と書体と親子関係で、同じ大会であることは一目で分かる。この絶妙なラインの設計の凄さが今回のデザインの素晴らしさなんです。縛りが弱めに設計されているから、現地の作家性がちゃんと生きる。同じ大会に見せながら、同じものには見せない。

あのトロフィーは、精緻な3Dデジタルデータ

ロゴの中心にトロフィーを据えたのが今回の特徴ですが、実はあのトロフィー、本物をスキャンし直した精緻なデジタルデータらしい。写真取り込みとかではないんですよね。リアルなトロフィーを色味や光沢の反射まで完璧にコントロールできる3Dアセットとして再構築されていて、ロゴの画像はその3Dマスターから生成された一つのビュー。だから巨大掲出用、画面用、刺繍用の線画、刻印用と、媒体ごとの正規バージョンが最初から用意されている。

これが効くのが、過去最高にデジタル空間での露出が多い今大会の特性。W杯の象徴である、世界に一つしかないフィジカルなトロフィーを、放送でもSNSでもゲームでも自在に動かせるデータにした。たとえば回転させたり、上から見てみたり、つまり、誰もがデジタル空間で「手に取れる」モノにしたわけです。象徴の民主化と言ってもいい。

もうひとつ、あの「26」のロゴは正方形と四分円の組み合わせでできていて、この2つの単位がロゴの外にも展開されます。パターンにも、写真を入れる窓にも、テキストの容器にも、映像のブリッジにもなる。装飾ではなく文法として設計されているから、世界中の制作チームが毎回ゼロから世界観を考えずに、同じ文法で違う文章を書くように制作できる。こうなると自由度を保ちながらでも「26年W杯っぽいよね」の雰囲気を統一することに成功している。都市名の長さの違い(MiamiからSan Francisco Bay Areaまで)を吸収する可変フォントまで、専用に共同開発するこだわりっぷり。

学ぶべきは「運用モデルから作る」という発注

ここから学ぶべきことはブランドの接点がデジタルとリアルに広がり続けて、現地・現場・パートナーに委ねる自由度がどんどん求められる時代に、最初に発注すべきは一枚の完成形ではなく、ブランドの運用モデルとそれを支えるデザインシステムの方かもね、ということ。ちなみに次のW杯も2030年大会は3大陸6カ国開催予定なので、この連邦型の構造は次回さらに試されるのかもしれないです。

スーパードライ3.0の「冷え」戦略 最強ブランドが作るカテゴリーエントリーポイントの二段設計

アサヒがスーパードライを刷新中。名付けて「スーパードライ3.0」という計画。テーマは「新 辛口×冷え」で、8月から製品自体の中身も切り替わっている(麦芽比率を高めて飲みごたえを強化、ホップ配合を見直してキレを強化)。1987年から「辛口」由来の資産を持つ最強ビールブランドが、次に取りにいったのが「冷え」なんです。

「冷え」という概念、グローバルに通用して、誰でもフィジカルに実感できる機能性をownしにいっている。実際アサヒ側の調査でも、生ビールへの期待は「冷え」が58.1%で圧倒的1位。日本のビール文化はまさにアサヒが切り開いたピルスナー文化が基礎にあるので、冷やして飲むのが基本。しかも猛暑が常態化して、「冷たい」の価値は年々相対的に上がっている。

「冷え」と「辛口・キレ」の二段設計

「辛口・キレ」は飲んだときに得られる商品ベネフィット。つまり、ビールを飲もう!と選択肢に入れた後に効く言葉。一方「冷え」はその手前、ビールを思い出す前の身体状態に対してアプローチする概念。マーケティング用語でいえばカテゴリーエントリーポイント(CEP)、特定のカテゴリーを思い出すきっかけになる生活場面と結びついている。

辛口の方がより商品につながりやすいからそれで良くないか、と感じるかもしれませんが、「今日はキレのあるビールが飲みたい」は、ある程度ビールを知っている人の感覚。対して「暑いからキンキンに冷えたものを飲みたい」「風呂上がりに身体を切り替えたい」などの冷え系のエントリーポイントは、ビールの知識がゼロでも生まれる欲求。冷えの方が圧倒的に間口が広い。ビール自体長期的に引用量が減少しているモノなので、老舗ブランドといえど常に新規の開拓に迫られるわけで、間口の広いCEPは重要です。

そして「冷え」は単独の場面というより、複数のCEPを束ねる上位テーマでもある。汗だくで帰宅した瞬間、風呂上がり、仕事終わり、焼肉や辛い料理、最初の乾杯。色んなシーンで出せる。長期化する夏にも強い、バラバラの生活場面を「キンキンに冷えたスーパードライ」というひとつの回答へ収束させる。冷えが入口で、辛口・キレがその先で約束を果たす。これが二段設計です。

強いのは「冷え」という言葉ではなく、実装

ただ、「冷え」は誰でも言える。スーパードライ3.0プロジェクトの実装が強いのは、単なる言葉の先の実装まで一貫してやっていること。

第一に、商品の中身を冷えに合わせて調整した。低温では味が薄く感じられやすいので、麦芽比率を上げて冷えた状態でも飲みごたえとキレが立つようにしてある。第二に「仕上げに3分冷凍庫DRY」という家庭における行動を作った。冷蔵庫のビールを飲む直前に3分だけ冷凍庫へ、というのを促す運動。本来NGとも言われていた冷凍庫活用をあえて指導する。第三に4℃未満で青く色が変わる示温タンブラーで、「冷えの完成」を目に見えるようにした。さらに新しいデザインの缶自体も冷やすとラベルが青く変わる。第四に、飲食店側もキンキン体験拠点が全国3万店を突破していて、2027年には10万店を目指すという。

アサヒの冷えに対する挑戦自体は昔からある。2009年のエクストラコールド、2021年の生ジョッキ缶と、温度と提供方法の実験を15年やってきた。冷え系のプロモもよくやっている。ただこれを本格的にパーセプション≒知覚を取りに行くアクションへつなげている。

自己強化ループと、酒税改正への一手

この設計が回り出すと、強力な循環になることが予想されます。暑い→「キンキン」が頭に浮かぶ→スーパードライを思い出す→買う→3分冷凍庫に入れる→青くなって完成を確認する→最初の一口で冷えとキレを体感する→次の「キンキン」とスーパードライの結びつきがさらに強まる。記憶と体験の自己強化ループです。

そしてタイミングの話。この10月にビール系飲料の酒税が一本化されて、ビールは減税になります。新ジャンルからの移行組で棚は混み、どの銘柄も「コク」「素材」など色んな説明を並べ、選ぶ側の負荷は上がる。その複雑化する棚に対して「キンキンに冷えたビールならスーパードライ」という一撃で脳内で処理できる記憶の経路をつくる。味のポジショニング競争から「どんな状態で飲むか」という別の軸でも競争できる一手を、市場が混迷するちょうどその局面で行う。王者として実に素晴らしい一手ですよね。

プロテイン高騰の構造 足りないのは牛乳ではなく、ホエイを高濃度化する設備

プロテインが高騰中。僕も筋トレに勤しんでいるので、日々悩みが深いです。個人的にはALLMAXかoptimum nutritionが、タンパク質の純度・溶けやすさ・味の3点のバランスよくおススメ(高いですけど)。日本でも明治がザバスなど粉末プロテイン17品とバー4品を6月出荷分から約6〜28%値上げ。理由は「たんぱく原料価格の急激な上昇」。原料の国際相場を見ると、主力原料のWPC80(たんぱく質約80%のホエイ濃縮物)は2025年に約6割と強烈に上がり、今年6月までにさらに7割超上がって、1トン約1万ドルだったものが約2.9万ドルになっている。これは確かに高騰でしょう。

高いのはプロテイン全般ではなく、「高濃度ホエイ」

ただ、全てのプロテインが値上がりしているわけじゃない。まず、牛乳が足りないわけではない。ホエイはチーズを作るときに出る副産物で、低濃度のドライホエイは1ポンド0.7ドル前後と安いまま。高騰しているのは、そこからたんぱく質を80%まで濃縮したWPC80と、90%超まで精製したWPI。同じ「ホエイ」だけど実はここの価格は20倍近く違う。(なのでプロテインをガチる場合はちゃんとタンパク質の由来を見るべきなんですが)

足りないのは原料ではなく、ホエイを高濃度たんぱくへ変換する加工設備らしい。膜分離して、濃縮して、乾燥させる。この設備が急拡大した需要に追いついていない。工場は利益の出る高濃度品を優先し、その割を低濃度品が食う玉突きも起きている。そしてWPC80は、価格・栄養・味・使いやすさのバランスがいい「業務用の標準機」で、パウダーもバーも高たんぱくヨーグルトもRTDも、みんなここに集中した。だから争奪戦の主戦場がWPC80になったんですよね。

なぜ需要がこれほど増えたのか

需要側は筋トレ人口が増えたよ、ってだけの話をとっくに超えています。分解すると4つ。

第一に、プロテインが「筋肉をつけるもの」から「健康的な食品のシンボル」になった。高たんぱくヨーグルト、バー、シリアル、コンビニのRTD。海外のスーパーを見るとパスタとかにもプロテイン強化されてたりする。米国では、たんぱく質を積極的に摂ろうとする人が2022年の59%から2025年には71%まで増え、高たんぱく食は3年連続で最も実践される食事パターンになってる。

第二に、ブランドの実売も伸びている。前述の僕の愛用するOptimum Nutritionは2026年上期に売上25.2%増。値上げで増えただけでなく、親会社の発表では販売量自体が増えている。

第三に、GLP-1(マンジャロなどの減量薬)が拍車をかける。米国では成人の12%が現在使用中、18%が使用経験あり。この薬は食欲を抑えるし健康改善を図る人は食事計画も見直す。その中で少ない食事量で必要なたんぱく質を確保するとなると、プロテインを飲むのが明らかに効率的になる。減量中の筋肉の減少を防ぎたいというまったく新しい需要層が数千万人規模で生まれている。

第四に、高齢化。サルコペニア予防や、食が細くなった人の栄養として、少量で高濃度に摂れるたんぱく質の価値が上がっている。

これはブームというより需要構造の質的変化だからこの高騰はバブルではないはず。

代替は何になるか、市場はどう分かれるか

では今後の代替は何か。現実的な受け皿は、まず乳たんぱくのMPC・MPI(既存の供給網があり一番速い)、そして大豆と植物性ブレンド。最近では動物性と植物性を混ぜたハイブリッドプロテインなんかも出てきている。

大豆は「ホエイより劣る」という印象を持たれがちだったんですが、実は研究レビューでは大豆と乳たんぱくを比較した17の試験で筋肉量への効果に有意差が出ていないという最新研究も出ている。エンドウ豆や米を組み合わせて必須アミノ酸を設計したブレンドも、量を確保すればホエイに近い反応を示すという研究が出てきている。栄養面のビハインドは、思われているより小さい。

その結果、プロテイン市場はこう分化していくとみます。①プレミアムWPI、②主流のWPC・乳たんぱくブレンド、③大豆・植物性の価格訴求、④RTDやバーなど小容量の利便性商品。

そして特に伸びる可能性があるのは、③を「安い偽物」として売るブランドではなく、大豆や植物ブレンドを独立した機能価値で再評価するブランドだと思う。ホエイの代用品と見せた瞬間に下位互換の勝負になる。そうではなく、腹持ち、日常摂取のしやすさ、食事との相性、環境負荷、そして価格の安定性。植物性ならではの優れているところは色々あるので、ホエイとは別の価値として立てた方が強い。高騰は、植物性プロテインにとって「安いから」ではない再デビューのチャンスでもあるわけです。

***

前週のマーケティングジャーニー!

実は私、Podcastもやってます!元テレビ朝日アナウンサー、現令和トラベル役員の大木優紀さんと2人でマーケティングトレンドや旅について(ほぼ)毎週30分~40分のコンテンツをお届け。

最新回では話題沸騰なHYROXを皮切りに、ピックルボールなど最近盛り上がるニュースポーツがなぜ流行ってるのか?を深掘りして考えてみました!

***

源泉かけ流し!今週のマーケティング関連トピックス(今週は15個ご紹介!)

バスタオル、キャンセル派が3割 部屋の狭さ・物価高から小さめ台頭

いろんな「キャンセル界隈」がありますが、バスタオルキャンセルもいるらしい。
なんと約3割の家庭が家でバスタオルを使ってない。
・洗濯が面倒
・スペースが狭い
など、フェイスタオルで風呂上りは十分って人がいると。
これ、タオル自体の機能向上なんかも背景にありそう

創業108年の神戸屋が40年ぶりにコーポレートロゴ刷新、新ステートメント「Be Playful」を掲げたリブランディングを発表

パン屋の神戸屋がリブランディング。
創業108周年の超老舗のリブランドは調整の塩梅が難しいですよね。
ロゴにしてもユニフォームにしても、伝統と歴史を感じさせながら現代的に落とし込む表現を模索しているなと感じます。

この記事は無料で続きを読めます

続きは、9592文字あります。
  • 海外現地調査レポート:バレンシア芸術科学都市 現地レポ 「1990年の未来」に圧倒され、巨大プロジェクトの迷走を歩く
  • 明日から効く!人生の糧になる書籍レビュー
  • 今週の1曲
  • 最後に!

すでに登録された方はこちら

読者限定
名前が、認識を先回りする。呼び方が、選ばれ方を決める。
読者限定
習慣は自動更新されない。選ばれるものには、意味がある。
読者限定
長く続けるための休みかた、戻りかた。
読者限定
引き算が生み出す濃度。減らした分だけ、濃くなる。
読者限定
壊れた、奪われた、崩した。ざらつきが生み出す波紋。
読者限定
正しさは説かない。実感だけが動かす。
読者限定
声は作れない。語りたくなる体験だけが残る。
読者限定
整いすぎは疑われる。雑な手触りこそが価値になる。