壊れた、奪われた、崩した。ざらつきが生み出す波紋。

今週は15個のニュースをご紹介。今週は17,298字でお届け。オリーセは画質を壊し、Four Tetは名前を崩し、KYROは領土を奪わせる。きれいに整えるより、ざらつきのほうが人を動かした週。ほかにSHIFTの採用転換、韓国の新SNS「Setlog」、Z世代のカフェイン需要。今週の1曲はフジロック直前、Four Tetです(Four Tetはでないよ)。
南坊泰司 2026.07.22
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マーケティングトレンドインプット 今週のクイック解説3選

オリーセのインスタ全消しからの低解像度投稿のナゾ/W杯を「あの日、テレビで見た記憶」に変換するプロジェクト

W杯、終わりましたね。個人的にはスペインを応援していたので嬉しかったです。決勝は朝4時からでしたが起きた甲斐のある白熱したいい試合でした。開催の意義が問題になりつつも打ち合いになった3位決定戦のオープンさと、決勝のスペインの現代的な組織のコントラストも良かった。寂しいな~また4年後か。
で、今回は大会の総括ではなくて、惜しくもベスト4だったフランスの中心選手のひとり、ミカエル・オリーセがW杯期間中に密かにやっていたプロジェクトの話をしたい。

そもそもオリーセって、結構変わった選手なんですよ。
トップクラスの選手なのに個人の用具スポンサーを持たず、廃番になったスパイクを自分で探してきて、ユニフォームに合わせて色を選ぶ。バイエルンのコンパニ監督が「細部に執着するタイプ」と評するこだわりの人で、それでいて取材はほとんど受けず、自分を説明しない。プレーだけでなく振る舞いまで含めて、変な選手。

そんな彼がW杯期間中、Instagramの過去投稿を全部消した。で、新たな投稿を始めた。

代わりに並び始めたのが、この写真群。なんだこれ?ってなりますよね。オリーセ級の選手のインスタは普通、「美しい」写真で埋まっている。公式カメラマンの決定的瞬間、完璧なライティングのスポンサー案件。それとは真逆の、ブレて、にじんで、走査線の入った画像。テレビ画面を撮ってるの?と思うはず。実際、そうなんです。

ブラウン管越しのW杯

これはドイツ人写真家のルーカス・コルシャンとの企画で、彼はW杯の現地に行っていない。
ブラウン管テレビでフランス戦の中継を見ながら、その画面をカメラで本当に撮り直している。狙いは、コルシャン自身が9歳のときに家族のテレビで見た1998年フランスW杯の、あの粒子感と感情の再現。(ちなみにさらに元ネタがあり、1972年のミュンヘン五輪中継をテレビ画面越しに撮ったハリー・グリュイエールの《TV Shots》という写真史上の古典へのオマージュらしい)

今のW杯は、4Kの中継と超望遠と専属コンテンツチームによって、完璧な画像が毎試合何万枚も生成される大会になっている。どの選手のフィードにもメディアにも商業的に美しいものが並ぶ。
その環境では高画質の仕上がった画像にはもう個性がない。完璧な画像が無限にある壊れた画像のほうがユニークに見える。さらにTV越しの映像はそのぶん見る側の記憶が入り込む余白が生まれる。オリーセが求めるリアルは、あのとき夢中になってサッカーをテレビで見ていたあの時の感覚。

投稿を全消ししているのでアカウント全体が同じ質感の画像だけで統一され、フィードそのものが大会期間限定の展示会場になっている。フランス対イラク戦の一枚は500万いいねを超えた。大袈裟な説明もなく始まったこの企画、なかなか異様だけど超クールだよね。スポーツのプリミティブな魅力をこういう形で扱える選手はなかなかいない。

控えめさが生んだ、もうひとつの物語

ただ、この控えめなクリエイティブが逆に作用した皮肉な事件も起きていた。

インスタの全消しって、普通は不祥事や移籍騒動の前兆として読まれる行動。サッカー選手なら例えば移籍とか。そこに文脈の説明が一切ない異様な低画質画像が並んだので憶測が湧いた。隠していたわけじゃないけど大々的に始まったプロジェクトではないので、あまり検索しない人からすれば色々考える。
そして生まれたのが「ビザが下りず帯同できなかった長年の専属カメラマンのために、オリーセは他の写真家を使わず、彼女が撮ったテレビ越しの写真を投稿し続けている」という(偽の)美談。

そう聞くといい話なんですが、深層は先に書いた通り。つまりこれ作り話。名指しされた写真家本人が「私は専属ではないし、ビザを拒否されてもいない。撮影者はルーカス・コルシャン」と明確に否定。実は今大会、アメリカの厳しい撮影認証が下りなかった写真家がテレビ画面を撮って作品にする動きが同時多発していて、彼女もその一人だっただけ。別々の事実が三つ接着されて、完成度の高い美談に加工されたわけ。

面白いのは、このデマが「オリーセならやりそう」という人格の信頼の上で信じられたこと。それだけオリーセの独自のスタイル自体は認知されている。企画の意図は乗っ取られたが、説明しない人間の周りには神話が生まれるという意味では、これほどオリーセらしい結末もないかもね。

↓デマ投稿の1つ。

酒より軽い「ドラッグ」としてZ世代に親しまれているのはカフェイン

酒を飲まないZ世代が選んだ新しいドラッグは、カフェインらしい。

カフェインといえばコーヒーかエナドリだけど、いま様々なカタチに変化して消費されている。
水に溶かすパウダー、肌に貼るパッチ、歯茎と唇の間に挟むスヌース型のパウチ、「健康的」なエナジードリンク。英国ではTikTok発のカフェインパウチブランドがいくつも出てきていて、集中力やフィットネスを高めるウェルネス用品という訴求。英国のコーヒー消費自体も1日7,000万杯(2008年)から9,800万杯(2026年)まで増えてカフェインの摂取総量と摂取経路が同時に拡張している。

同時に広がっているのが「コーヒーレイブ」。酒ではなくコーヒーを片手に、昼間からクラブミュージックで踊るイベント。参加者の約半数がZ世代。ちなみに前号で紹介したサンパウロの「走るレイヴ」PACETRONIKも同じ潮流の上にあって、ナイトカルチャーが酒を抜いてウェルネス側に移動する動きは、世界のあちこちで同時多発している。

刺激を求めなくなったわけではない

面白いのは若者は依然として刺激を求めている。

Z世代の酒離れ、ソバーキュリアスはもう何年も言われている話だけど、それは欲望の消滅とイコールではない。酒を減らしても少し高揚したい。人と集まるための儀式が欲しい。そんな欲望は普遍的であって、酒とともに廃れることではない。カフェインがこのポジションに収まったのは、刺激の強度がちょうどいいからだと思う。酒やマジもんのドラッグほど自分を手放さず、でも確実に、さくっとキマる(実感値もそこそこある)。しかもどこの国でも合法で、安くて、翌日に二日酔いを残さない。

そして売り方の発明がある。酒が「自分を失うための刺激」として認識されている一方で、カフェインはもとからしゃっきりさせる方向としても価値が認識されていた。なのでウェルネスの文脈で「自分を最適化するための刺激」としても設定できる。同じ「キマる」でも、片方は堕落の象徴になるが、もう片方は健康と生産性の物語になり得る。パッチもパウチも、やっていることはニコチン製品が開拓したフォーマットの流用なのに罪悪感ない感じで売れているんだよね。

ソバーキュリアスは禁欲ではなく、刺激の再編集

つまりZ世代のソバーキュリアスは、禁欲というより刺激の再編集なのだと思う。夜の不良性を取り除き、昼のウェルネスに着替えさせると、高揚感の罪悪感も薄まる。お酒業界がノンアル・微アルで価値の置き換え・組み換えをやっている間に、カフェインは攻めて酒が持っていた社交と高揚の場面ごと取りにきている感じ。

日本はもともと、眠気覚ましドリンクからエナドリまでカフェイン製品の層が厚い国だけど、位置づけはまだ「仕事と勉強のドーピング」に近い。社交と遊びの文脈のカフェイン、つまり昼のレイブ的な市場はほぼ手つかずでここらへんはホワイスペースな感じがしますね。一方でエナドリ市場には、あえてカフェインフリーを打ち出す逆流も出始めているので、刺激の再編集はまだまだ続く傾向。ちなみに僕もコーヒー飲み過ぎマンです。

KYRO/「奪われた」ちょっとした口惜しさが今日走る理由を生み出すゲーミフィケーション

韓国発のランニングアプリ「KYRO」が日本で伸びている。走ったり歩いたりした経路で地図上を囲むと、その内側が自分の「領土」になる。領土は色つきで共有地図に表示され、他の利用者が後から奪うこともできる。韓国発アプリで6月時点の利用者は世界約10万人。うち3万人超が日本で、4月に紹介ショート動画が拡散して一気に増えたらしい。友人のランナーもハマっていると言ってました。

世界6位は日本にいるランナーらしいのだが、霞ヶ浦一周100kmを17時間かけて走って名を上げたそう。日本1位の人は琵琶湖一周を達成済みで次は約200kmの遠征で京都・大阪・奈良の一部をまとめて狙うとか。

続ける理由を外側に作る仕掛け

僕が音素いろいと思ってるのはこのアプリの継続モチベーションの設計。

運動系アプリの最大の敵は、飽きて開かなくなること。普通のランニングアプリは、走り終えた時点で記録が完成する。距離もタイムも過去の成果で、それを変えるのは自分だけ。次に走るかどうかは、健康になりたい、自己ベストを更新したい、という本人の意志にかかっている。続くかどうかは内発的な動機の強さで決まる。
KYROは走り終えても記録が終わらない。自分の領土は共有地図の一部になり、アプリを閉じている間にもリアルタイムで他人に奪われ、塗り替えられていく。奪われれば通知が来て取り返すには自分の身体でもう一度そこまで走るしかない。これは何とも強力な設計だ。

今日は気分が乗らない、という日でも「昨日の領土が奪われた」「近所のライバルが広げてきた」という出来事が外からやってくる。そうなると走るきっかけは、自分の中から生まれるのではなく、外部要素として生み出される。他人の行動で勝手に更新されるということ。構造としてはフォローし合うSNSより同じ世界を大勢で書き換え続けるオンラインゲームに近い。顔も知らない近所のランナーが、次に走る理由になる。こうした設計はいわゆる位置情報系アプリ、古くはイングレスなどが作っていたものを活用してるよね。

陣取りランニング自体には豪州発の先行アプリがあるのでこのアプリ発ではない。ちなみに発想の原点は友人の住む「ソウルの高いアパートが全部私の領地になるならうれしい」という一言だそうで、不動産に手が届かない世代が走って地図を疑似的に所有する、というなんとも皮肉な、韓国の住宅高騰が背景になっているというハナシも。

韓国は走り、日本は歩く

面白いのが日韓の使われ方の違いで日本の利用者は韓国に比べて長時間の「歩行」が多いらしい。日本では「伊能忠敬界隈」なんて言葉もあるけれど、長距離散歩するのが楽しい人にもこのアプリは親しまれている。走力ではなく歩いた面積で競えるから、ランナーと散歩勢が同じ地図で戦ってるのは不思議な構造。

もうひとつ思うのは、これ、いつもの近所だけじゃなく旅行でハマるかもね、ということ。

領土は地理そのものだから、旅先で歩けば旅の記録がそのまま地図上の領土として残る。観光地は意外と誰も囲っていないから取り放題で、「あの街は自分の色」という形で旅が可視化される。琵琶湖一周遠征のように上位勢の領土拡大はすでに旅行と一体化している。逆に言えば、地方や観光地の側から見ると、来て歩いてもらう理由を作れるアプリとも言えるかも。韓国ではすでにスポーツブランドやホテルと連携したイベントで収益化を始めているらしい。「この街を囲みに来る」を観光コンテンツにする自治体、そのうち出てくるかも。

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お仕事紹介

女性向けキャリアスクール「SHElikes(シーライクス)」のマーケティング戦略パートナーとして伴走し、戦略検討からCM制作まで弊社manage4で行いました。このショート時代にあえてフル尺10分のCM。
「短尺最適化の逆張りで長尺をやろう」と発想したわけではなく、伝えるべきものを突き詰めたら、必要な尺が10分だっただけ。腹落ちに必要な長さは、時代のフォーマットではなく、伝える中身が決めると思うんです。

これまでSHEさんはテレビCMもデジタル広告もやってきて、認知はしっかり上がった。でも次の課題が見えてきた。サービスを知ってもらえたのに、最後の一歩、申し込みが動かない。SHEさんと数年お付き合いさせていただく中で見聞きする受講生の生の声。そこで語られるのは「デザインが学べた」「収入が上がった」だけじゃない。「自分を好きになれた」「人生の選択肢が増えた」。誇張ではなく本当に人生が変わっている人が大量に生まれている。
ならばその埋蔵されたファクトを活用したコミュニケーションを行えばよいのでは?が出発点。
弊社manage4は上流戦略を主たる仕事としていますが、そこで検討したことを制作までCDと連動して作ることもやってます。TVCM・タクシーCMからWEBCM/動画まで。
お悩みの方はお気軽にメッセージくださいませ。初回のディスカッションは無料です~

各種SNSのDMでも全然OK

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前週のマーケティングジャーニー!

Podcastもやってます!元テレビ朝日アナウンサー大木優紀さんと2人でマーケティングトレンドや旅について(ほぼ)毎週30分~40分のコンテンツをお届け。

最新回では「承認の民主化」について。劇場型カラオケVISING、最高来場者を記録する文学フリマ、記録型ランニングアプリ、setlogなどの事例を横断しながら「誰もが(小さな)主役になる」時代を解説してます!

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源泉かけ流し!今週のマーケティング関連トピックス(今週は15個ご紹介!)

ポップなニキビパッチでZ世代に絶大な人気を誇る「Starface(スターフェイス)」

ニキビの上に、わざわざ黄色い星を貼る。
STARFACEが発明したのは、ニキビパッチ…のその先。ハイドロコロイドのパッチは以前からあり、肌色や透明にして、できるだけ患部を目立たなくするのが普通。
STARFACEはニキビがある場所へ黄色やピンクの星を貼り、隠すための治療用品を、顔に着けるカワイイアクセサリーへ変えた。
ブランディングによって一枚のパッチが、ケア用品、ファッション、ブランドロゴ、SNSに投稿したくなる被写体を同時に兼ねていく
デザインも、いわゆる洗練されたビューティーブランドとはかなり違う。ネオンイエロー、黒い太字、小文字やネットスラング、玩具やステッカーのようなパッケージ。少しヘタウマで、2000年代の子ども向けウェブサイト的な。
この若くて粗い感じが効いてる。
落書きやシールに近い見た目だから、顔に貼る行為が治療ではなく遊びになる。ニキビの辛さが和らいでいく。
STARFACEの発明は、ニキビを肯定するメッセージではなく、ニキビのある顔をそのまま完成形にしてしまう使い方なのかもね。

メルカリ、プロが品質を保証するリユースサービス「m department」を提供開始

メルカリが「第三の選択肢」としての新ECを開始。
CtoCで高額商品や電子機器を買うのは心配が付きまとう。
なので真贋鑑定や修理をした上での販売で、高額商品を買いやすくする試み。
名称はあえてメルカリを押さない「エムデパ」。これもメルカリとの購買層の違いを意識?

トヨタのサブスク「KINTO」黒字継続 利用者の4割が若者、終活需要も

TOYOTAのサブスクで車が持てるサービスKINTOは順調に成長中。
もともと若年層ターゲットだが、実はシニアの「最後のクルマ需要」でもニーズがあるらしい。面白い!
免許返納による解約の場合は解約金フリー
体調や運転の不安があるシニアこそいつでも返せるプランが便利。

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続きは、10484文字あります。
  • 海外現地調査レポート:Setlog/「SNSにのっかるSNS」は、SNSそのものになれるか
  • 偏愛!なんでもインプットコラム
  • 今週の1曲
  • 最後に!

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