全部変えなくても意味は変わる

今週は19,158字。同じ映像でもNetflixに置けば映画になり、同じ曲でも沖縄で作り直せば別の歴史を生きる。Nikeが削ったのは売上ではなく接点、酒を減らす人が変えたのは次の一杯。ウジュピスの憲法と『世界のつくりかた』も含む、全部変えなくても意味は変わる号。23個のニュース。アンケートへのご回答もありがとうございました!ご意見を踏まえ、10月に若干リニューアル予定です!
南坊泰司 2026.09.08
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マーケティングトレンドインプット 今週のクイック解説3選

NikeがS&P 100から外れる D2Cと成果型広告で「測れる」偏重した結果の衰退分析

9月21日の指数入れ替えで、NikeがS&P 100から外れる。数十年ぶりのことらしい。Nikeの弱体化が資本市場でも象徴的な形で見えた、くらいの位置づけのニュース。ただNikeは、指数から消えるより前に、生活者が靴を選ぶ場所から少しずつ消えていた。今回はそっちの話。

卸を減らしたのも成果型広告に寄せたのも、測れる効率へ向けた最適化

10年ほど前、Nikeはデジタル世界の雄であった。直販シフトは当時かなり合理的ともてはやされ、2017年には直販を2倍にする方針を掲げる長期戦略を打ち立てる。2020年にCEOになったJohn Donahoeがコロナ期にこれをさらに加速。数字も実際その時は良かった。2021年度のNike Direct部門の売上は164億ドルで前年比32%増、デジタルは64%増と目覚ましい数字。卸ならFoot Lockerのような小売にマージンを渡さなければならない。直販なら粗利率が高く、顧客データが取れて、価格も体験も自分で管理できる。Nikeはデジタルエージェンシーやデータ分析の会社も自前で買収してこうした動きを加速していた。

同じ時期に、マーケティングでも似た移動が起きている。Nikeはスターを起用した型破りだったり、派手な広告で知られていたが、ブランド広告は売上への寄与が測りにくく効果が出るのも遅い。成果型の広告ならCACもROASも見える。だから需要を作る投資から、Nike Digitalで既に需要のある人を刈り取る投資へ大きく舵を切った。

流通では卸から直販へ、マーケティングでは需要創造から需要の刈り取りへ。別々の話に見えて、やっていることは同じで「自社で管理できて、短期の数字で評価できて、経営として説明しやすいもの」への資源移動。「説明可能な効率」への最適化である。これはNike自身が後から認めていて、2024年に復帰したCEO、Elliott Hillはその年末の決算説明で、需要を作る投資から既存需要を捕まえる成果型へ移してしまったと説明し、CFOも、Nikeのデジタル直販が「需要を作る場所」ではなく「卸のパートナーと需要を奪い合う場所」になっていたと述べている。

削られたのは売上ではなくブランドを生活者の選択肢に残す「有効接触面積」

この最適化から抜け落ちたものを、ここでは「有効接触面積」と呼ぼう。単なる顧客接点の数ではなく、生活者の頭の中にブランドを選択肢として作り、維持することに実際に寄与している接点の全て、くらいの意味で捉えてほしい。見る、思い出す、比較する、試す、店員に薦められる、スポーツの文脈で触れる、新商品を見つける。こうしたものの集合体でブランドとの体験は作られる。

たとえばFoot Lockerの棚はただの物流経路ではない(日本で言えばABCマートとか)。Nikeがそこにあることで、Nike目当てではない客にも見られ、OnやHOKAと比較され、試着され、店員から薦められる。Foot Lockerの仕入れに占めるNikeの比率は2020年の75%から2021年に68%へ下がり、Foot Lockerは2022年に単一ベンダー比率を6割以下にする方針を出した。世界中にあるお店から「NIKEを見る機会」が多く減った=発見される面積が減った、ということでもある。店頭で手に取りやすいという面でも、頭の中の選択肢という面でも、有効接触面積が縮んだわけ。Foot Lockerの棚が認知と比較と試着と推薦を何億ドル分生んでいたかは分からない。でも結果から見れば、棚があることは大きな価値があった。

ここに商品の問題が重なる。当時のCEOは2024年12月に、スポーツへの執着を失っていた、少数のスポーツウェアのシルエットに依存していた、と認めている。接点を減らしたから売れなくなった、ではなく、商品の革新が弱くなった時期に、その弱さを補ったり、次の新商品を見つけてもらったりするための有効接触面積まで縮めてしまった。

棚は戻り始めたのに売れ行きがまだ戻らない理由

有効接触面積は、削った後にまた増やせば元通りにはならないのも特徴だ。空いた棚にはOnやHOKAが置かれ、そこで初回の認知、試着、店員の商品理解、推薦、リピート、次のシーズンの仕入が集積する。

Nike自身がこの戻しにくさを認めている。Hillは2024年末、一部のパートナーはNikeが自分たちに背を向けたと感じていると述べ、卸の仕入予算を1ドルずつ稼ぎ直さなければならないと言った。CFOは卸向けの値引きを厚くして棚を取り返すと明言した。普通に考えれば棚の¾を占めていたNikeは上顧客であり、Foot Lockerなど卸に対して強い交渉力があっただろう。しかし一回引き上げてしまえば、同じように交渉はできない。加えて勢いはadidas、Asics、on、HOKAの方が強烈なのだから。

2026年3月の決算をみると、卸の受注は増え棚も取り返しつつあるが、店頭での売れ行きはまだ望む水準にない、と説明している。物理的な面の回復と、意識と需要の回復は同時には起きない。失った面だけでなく、その先の生活者の意識にも回復は時間がかかる。

中国では逆に接点を減らしている/Nikeが目指すのは単純な露出の最大化ではない

ただ、この話の結論を、卸を減らしたのが失敗だったからとにかく露出を増やせにしたいわけではない。接点の数ではなく「有効接触面積」で考える意味はここにあって、値引きしか起きないチャネルやブランドの物語が伝わらない店を増やしても、面は広がらない。

Nikeが2026年7月に中国で発表した改革がこれを示している。中国ではオンライン上のNikeの存在が「断片化しすぎた」として、2027年1月からTmall、JD.com、Douyinの公式旗艦店とNike.comとNike Appに集約し、パートナーが運営するオンライン店舗の多くでは販売を終える。つまり中国では激しく値引きされる様々な店でめちゃくちゃなやり方で売られるのは、結果的にブランド毀損が生まれているというNikeの判断。

広告においては、成果型広告からブランド広告へ投資を戻すと明言。ブランド経営では、計測可能な効率化だけを最適化すると、計測しにくい価値を削ることがある。Nikeの場合、それが卸とブランドマーケの2つの領域で同時に起こり、それが生活者の中でNikeが占める有効接触面積を大幅に縮小させ、そしてそれが競合企業の進出を許した。さらにこうした退潮が明るみにでることにより、ブランドとしてのモメンタムを失った、と言えるだろう。
Nikeはセールスと直販をまとめてみるChief Commercial Officerとして、ウォルマート出身のエグゼクティブの就任を発表。Nikeが復活に向けて目指すのは単純な露出最大化やD2C以前への回帰ではなく、直販、卸、マーケ、プロダクトを通じ、ブランドとして機能する面をもう一度広げることなのだろう。

『GTA6』の27分映像が6時間だけNetflixに 置く場所でそのコンテンツの価値が変わる 

ゲーム業界の今年最大のトピック、GTA6。前作のGTA Vは13年前の2013年に出て、いまも累計2億本以上売れているらしいウルトラスーパーお化けタイトルで、その続編が11月19日にPS5とXboxで発売される。その発売を前に30分近い長尺の特別映像が出たんですが、これがなんとNetflixで6時間だけ独占公開された。Netflixではゲームは遊べないのにね。なんで?

公開されたのは『Grand Theft Auto VI: An Extended Look』という約27分の映像。PS5上の実機映像だけで構成されていて、主人公のジェイソンとルシアがひと仕事をしくじってレオニダ州の犯罪の裏側に落ちていく、という筋を、新しいカットシーンとプレイ場面で見せる。舞台は新しいバイスシティ(マイアミをもとにした街)。8月27日(日本時間28日の早朝4時)に世界のNetflix会員向けに公開され、6時間後にRockstarのYouTubeとGTA VI公式でも無料公開。限定公開はわずか6時間。

結果、Netflixの映画部門で視聴数首位に。公開から日曜までの4日間で全世界3,110万回再生、集計対象の93か国のうち87か国で週間1位。もちろんトレンド入りレベルの話題に。ちなみに無料になった後のYouTube版は9月2日時点で1,759万回なので、有料会員しか見られないNetflixのほうが無料のYouTubeの2倍近く見られていることになる。(ちなみに日本では2位。日本では独占の6時間が朝の4時から10時にあたるので、独占の恩恵をいちばん受けにくい時間帯だった、でも2位もスゴイけど)

ゲームが遊べないNetflixで、6時間だけ独占した狙い

この6時間だけ、というのがおもしろい。
たった6時間だけど、GTAぐらいのお化けコンテンツのトレイラーは一瞬で話題になる。2023年12月の最初のトレイラーはYouTubeで24時間に9,300万回、2025年5月の2本目は各プラットフォーム合計で24時間に4億7,500万回再生されたらしいので、公開直後の数時間に注目が集中することはRockstarも分かっている。だから発表の初速だけでもいいから、と独占する。6時間後には誰でも無料で見られるので、会員にとっての独占の価値は先に見たという一点だけ。それで十分だった。狙いは当たってるよね。

Netflix側から見ると、自分では作れない種類の「お祭り」を手に入れた話でもある。Netflixはここ数年、ライブのボクシングやNFLのクリスマス試合やWWEのように、その瞬間にそこで見るしかない番組に投資している。日本ではWBCが独占されたのは記憶に新しい。世界中が同時に見たがるものがここにある、Netflixこそが全てのエンタメのど真ん中なのだ、という強烈なメッセージを発している。GTA6の映像はゲームなのでNetflixでは遊べないけれど、世界中が同時に見たがるという点では、そういうイベントの一種として使える。6時間の独占はその最小単位で、企画はRockstar側から持ちかけたものだそう。

Netflixの棚に置くと、GTA6はゲームではなく映画と同列に見える

Rockstar側には、Netflixの棚に置く意味もある。専用の作品ページがつき、字幕があり、ダウンロードでき、Netflix上では映画ジャンルに分類される。トップ10の週間ランキングにも映画として載る。だから今回の3,110万回という数字も、ゲームのトレイラーの再生数ではなく、Netflixの「映画」の視聴数として世界に報じられた。

YouTubeならゲームの新情報だが、Netflixでは映画やドラマと同列のエンタメとして見える。GTA6をゲーマー向けの新作ではなく、世界的なプレミアエンタメとして位置づけられる。「ゲームを映画っぽく宣伝した」というより、発売前のゲームを先に「Netflix作品」にした。配信先は届け方だけでなく、そのコンテンツが何に見えるかまで変えるってこと。

ちなみに僕はGTA6を心待ちにしているのでトレーラー、実際見たんですけれど、作り自体がよくできていて本当に短編映画を見ているような面白さもあり、普通に楽しめるコンテンツでした。確かにYouTubeで見るより一本の作品として見たほうが合っている映像に仕上がっている。発売は11月19日予定。世界ではこの日に有給をとる!なんてムーブメントも話題になってるぐらいの一大イベントです。

ゼブラ飲みから処方薬まで 酒離れの内側で起きているのは飲まないことではなく飲み方と集まり方の多様化

英国で「ゼブラ飲み」という言葉が定着しつつある。同じ飲みの席で、アルコールとノンアルコールを縞模様のように交互に飲むこと。調査会社KAMがノンアルビールのLucky Saintと2024年に出した調査では、英国の成人の4人に1人がパブやバーでこの交互飲みをしていて、交互とまではいかなくても一晩の中で酒とノンアルを組み合わせる人まで含めると3人に2人、18〜24歳では78%に上る。

酒の消費量が減っていること自体は本当で、日本の酒類の消費数量は2024年度で10年前より約7%少なく、米国でも飲酒すると答える成人はGallupの調査で2023年の62%から2025年に54%まで下がり、2026年も54%で横ばい。ただ、量が減っているというだけでは、人が何をしているかまでは分からない。減った状況で起きているのは、飲み方、酔い方、集まり方の多様化という方が正確。

飲む単位が人から日へ、日から一杯へ細かくなった

ゼブラ飲みという現象が面白いのは、交互に飲むという手順より、飲酒との関係を決める単位が細かくなっていること。私は飲む人です、飲まない人です、という人物単位の分類から、今日は飲む、今日は飲まない、という日単位へ(こっちはソバーキュリアス)。さらにゼブラ飲みでは、この一杯は飲む、次の一杯はノンアルにする、という一晩の中の選択になる。お酒をやめますと宣言しなくても、次の一杯だけを変えられる。日本ではスマドリって言い方されたりしてますよね。

だからノンアルは、飲み会から距離を置くための飲み物ではなく、自分のペースを保ちながら飲み会に居続けるための飲み物にもなる。米国の分析では、ノンアルのビールやワインやスピリッツを買う人の93%が酒も買う。日本でも、サントリーの2025年の調査で、月に1日以上ノンアルを飲む人の69%が、飲み物を選ぶときにノンアルを積極的に選ぶことがある、と答えている。ノンアル市場は酒を飲まない人の市場、ではない。飲む人が、その日の楽しみ方を調整する選択肢になっている。

酒にまとめて任せていたことを分けて選び直している

お酒を飲みたいという言葉の中には、いくつも違う欲求が入っている。
味や香り、食事との組み合わせ。一日の終わりの切り替え。普段と違う気分の高揚。ビールの味は好きだけれど今夜は酔いたくない人と、酒の味に興味はないけれど緊張せずに人と話したい人では、アルコールをやめた後にかわりとして探すものがまったく違う。前者にはおいしいノンアルビールが答えになるけれど、後者には味を再現しただけの飲み物では意味がない。

実はこの後者の場合は、ノンアルではない選択肢が浮上している。例えば英国。北イングランドの22歳の倉庫作業員が、以前は吐くまで飲んでいたアルコールをやめ、いまはプレガバリンとβ遮断薬をパーティーやデートの前に飲む形に変えたと語っている。この2つ、どっちもサプリではなく処方薬。(つまり自分で並行輸入するなどの望ましくない手段で入手していることになる)若者は健康意識が高いから酒を飲まない、と言われがちでその側面はありつつも、実はそんな簡単なハナシではないんですよね。目的をアルコールを摂ることではなく、緊張を和らげて人と過ごしやすくすることだと捉えると、ノンアルは代替品にはならないわけです。

酒に似た雰囲気を残してアルコールを抜く方向と、アルコール以外で気分の変化を得る方向。どちらも酒を減らすということは同じでも、動機が違うってこと。もちろん処方薬を自己判断で使うのは、安全性も法的な位置づけもノンアルとは別物。ただ、酒離れが健康志向だけでは説明できないことは、この事例がよく示している。

飲み物の成分ではなく集まり方のほうを変える動きもある

もう一つの方向は、気分や社交の問題を飲み物の成分で解決しないやり方。カナダ発のThe Coffee Partyは、コーヒーと焼き菓子とハウスミュージックで昼間に開くパーティーで、ブランチ文化とクラブを混ぜて酒を抜いた、と自分たちで説明している。日本でもコーヒーを飲みながら朝にレイヴをするコーヒーレイヴが流行っていたり。酒がコーヒーに置き換わる、というより集まりの場所の時間帯と媒介を変えている感じ。
ゼブラ飲みは、いまある飲み会を残したまま各自の飲み方を変える。コーヒーレイヴは、飲み物だけでなく集まる時間と楽しみ方まで変える。どちらも、飲酒量をそろえなくても一緒に過ごせる形を増やしている。

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前週のマーケティングジャーニー!

実は私、Podcastもやってます!元テレビ朝日アナウンサー、現令和トラベル役員の大木優紀さんと2人でマーケティングトレンドや旅について(ほぼ)毎週30分~40分のコンテンツをお届け。

最新回では「代用品のマーケティング」についてトーク。培養肉、ハイブリッドプロテイン、人工ダイヤモンド、ホンモノそっくりの代用品が最近増えてますが、ただ代用するだけでは価値になりにくい。ではどうやって価値を生み出すのか?を考えています。

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源泉かけ流し!今週のマーケティング関連トピックス(今週は23個ご紹介!)

Tinderが渋谷に「恋愛薬局」をオープン 20万通り以上の診断パターンから恋愛カルテを“処方”

Tinderが昨日まで渋谷に開いていた「恋愛薬局」
もともと三千里薬品があった跡地。
恋愛の悩みを症状に見立て、恋愛あるあるから自分に当てはまるものを選べば、自分だけの恋愛カルテが出る。
さらに診断に応じたドリンクも。
人気の展示会もそうだが「あるある」をフックにする施策が増加してるね

誰でも使える「未来のヒットアイデア」集 レンタル企画書

企画書をレンタルするという仕組みが面白い。
特に広告企画などは様々なアイデアが生まれるが、実際に実現するのはその中の一握り。
なので案件に対してアイデアを発想するのではなく、生まれたアイデアを「先に世の中に出す」
この企画をレンタルして誰かと実現したりつながりを作ったり。

Aesop | リブランディングの「なんか嫌」を言葉にしてみる

以前紹介したAesopのフレグランス、リブランディング。
特にAesopを好きなユーザーからは評判がよくない。
もちろん今後の顧客開拓に備えたアクションではあるが「分かりやすさ」を追求することと「語らない」ミニマルさが両立されていない判断に対する違和感の言語化を試みたnote、個人的には面白い。

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続きは、11152文字あります。
  • 海外現地調査レポート:ウジュピス共和国 ヴィリニュス現地レポ グラフィティも派手さもない静かなジョーク国家と意思のある“憲法”
  • 明日から効く!人生の糧になる書籍レビュー
  • 今週の1曲
  • 最後に!

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売れているのは、中身じゃない方
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名付けて終わるか、実装までやるか。
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