「いつものやつ」を少しだけ裏切る

今週は18,103字。カラオケの部屋の電話で香水が届いた、YSLの一夜。売らないのにプラットフォームを強くする、Qoo10のSAMPLE HOUSE。食べ慣れたものが新しい味の入口になる、ネスレの2027年予測。チリクラブがアイスになっても残る「食の核」、シンガポールの2軒。書籍は10月に亡くなった村上龍の『空港にて』。1曲はG PLANTS、一人になったGプラがめっちゃいい。16個のニュース。
南坊泰司 2026.10.27
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マーケティングトレンドインプット 今週のクイック解説3選

部屋の電話で「リブレ」が届く渋谷のカラオケ館 YSLの企画の構図が面白い

10月15日の一夜だけ、渋谷センター街のカラオケ館 渋谷本店が、YSL Beautyのイベント「BLOCK PARTY」の会場になった。外観にはフライヤーが貼られ、おなじみのメニューやセルフのドリンクサーバーまでイベント仕様に変わり、店内にはDJブースとフォトスポットが置かれた。カラオケルームの電話で注文すると、イベント仕様のドリンクと一緒に香水の「リブレ」が部屋まで届く。

「東京の象徴って(海外からみたら)カラオケなんだ」というのが最初の感想。ただ、中身を追っていくとこの企画は構図がとても面白い。世界の都市ごとに、地元の人がふだん集まる店に一夜だけ入り込み、その店の使い方ごと商品の体験に変えている。東京でその役を担ったのが「カラオケの部屋の電話」だった。

世界の街の「いつもの店」に入り込むBLOCK PARTY

BLOCK PARTYは、YSL Beautyが世界の都市を回って開いているシリーズ。
マドリードの老舗カフェから始まり、クアラルンプールでは1957年から続く地元の喫茶店、ロンドンではブリックレーンのレコードショップ、ニューヨークではSoHoのタコス店を会場にしてきた。フランスではベーカリーを、メキシコシティでは市場。ロンドンとニューヨークでは新作の香水、東京ではリブレと、主役の商品も街ごとに入れ替わる。日本での開催は今回が初めて。

共通しているのは、その街の人が日常的に集まって過ごしている店を使うこと。ニューヨークのタコス店では、元の内装を残したままブランドの要素を足す。高級ホテルのような、ブランドの格に合わせた会場はあえて使わない。街の気分に合わせる。

YSLは2018年にも、表参道ヒルズの地下会場をホテルに見立てた「YSL BEAUTY HOTEL」を東京で開いている。あのときはブランドがホテルという舞台を一から作った。今回のBLOCK PARTYは、すでにある店と、その店でのふるまいをそのまま借りる。店が持つ空気まで演出の一部にする。

グローバルブランドの企画としてちょうどいい横展開の仕方である。世界で揃えているのは「その街の社交の場に入り込む」という設計の方針だけ。店と商品は街ごとに替わる。街が変わるたびにその土地らしい中身を足せるし、シリーズとして横展開しやすい。「次はどの街のどんな店か」という期待も生まれる。

東京はカラオケの部屋の電話を使った

東京でカラオケが選ばれたのは、カラオケが日本発祥の文化であり、リブレの自由で自信に満ちた姿勢を音楽と結びつけられるからだそうだ。2019年に日本で発売されたリブレは、当初からデュア・リパを起用し、ザ・ローリング・ストーンズの「I’m Free」のカバーを広告に使ってきた。「自由と音楽」は、もともとこの香水が持っている文脈。

いまやカラオケは、世界でもそのまま通じる日本語だ。欧米の街を歩いていてもkaraokeの文字は普通に繁華街で見かける。つまり海外の人がSNSで見ても、何をしている場所かがひと目で分かる。カラオケ館自体も、渋谷に限らず街のあちこちにあるおなじみのチェーン店。そのいつもの店が一夜だけYSLに変わる落差ももちろん強い。

いちばんよくできているのは、部屋の電話の使い方。個室で受話器を取り、何かを頼み、部屋まで届けてもらう。やることは手慣れたいつものやつ。でも、いつもならポテトや飲み物を頼むための電話から今回は香水が届く。来場者に、商品に触れるための新しい作法を説明する必要がない。しかもカラオケの個室は友だち同士の閉じた空間だから、イベント会場にいながら、いつもの仲間内の時間の中で香水が手元にやってくる。

香水は、写真や動画だけでは香りそのものが伝わらない。発信はどうしてもボトルの見た目や世界観に寄りがちになる。そこに「電話をかける、香水が届く、ボトルを手に取って友だちと盛り上がる」という一連の動作が入ると、香りの届かないSNSの画面上でも、商品が動きのある役を持てる。しかも香りは人に共有するものであり、誰かと一緒にいるタイミングのネタとしてはちょうどいい。

カラオケ自体、曲を選び、自分の声で歌い、その場の自分を出す遊びだ。香水をつける行為も「今日はこういう自分でいたい」という小さな演出に近い。店はもともとあり、客は遊び方を知っている。ブランドが足したのは、店に重ねた演出と、受話器の先にある香水だけ。誰もが知っている手順の中に、商品が出てくる場面を一つ足すというのは色々活用できそう。

Qoo10の「SAMPLE HOUSE」 売らない店がプラットフォームを強くする

10月1日、渋谷・神南にQoo10の「SAMPLE HOUSE」がオープン。商品は売らない店になっていて、来場者は全商品のテスターで香りや質感を確かめてから、サンプルの引き換えカードを選び、受付でサンプルを受け取って持ち帰る。入店できるのはQoo10の会員のみで、無料の事前予約制。 

1階には人気ブランドを中心に約20、2階にはこれから伸びそうなブランドを中心に約80が並び、1階で5品、2階で2品まで選べる。ブランドは3か月ごとに入れ替わり、同じシーズンに入れるのは1人1回まで。持ち帰ったサンプルには、受取から30日以内にレビューを書く条件がつく。月に約2万人の来場を見込んでおり、オープン直後の時期には2週間先までの予約枠が埋まる盛況。

一応押さえておきたいのは、ここが今後別で開くQoo10のリアル店舗のティザーだということ。11月20日には原宿のキャットストリートに常設のポップアップ拠点を、2027年には原宿駅前に商品を売る大型の旗艦店を開く予定がある前提でのこの場所。。

3つの拠点は役割が分かれていて、渋谷で試し、キャットストリートでブランドの体験を見せ、原宿駅前で買えるようにする。この渋谷エリアで3つの店舗にそれぞれ違う役割を持たせているのが面白いですよね。SAMPLE HOUSEは、その中でいちばん先に開いた「いちばん売らない店」。

売らない店単体でのパワーは弱い

売らない店自体は、これまでにもあった。店内の体験と、カメラなどで集めた来店者のデータをまとめてブランドに売っていた「b8ta」や、ニューヨークで新興ブランドの商品を入れ替えて見せた「Showfields」がそうだ。あるいは渋谷の西武にもショールーミング店舗があった。しかしb8taは2022年2月に米国の20以上の店舗をすべて閉め、日本でも2025年9月末で全店閉店。Showfieldsも2023年に破産を申請。実際、僕はここで挙げた全てには行ったことがあるが、「売らない前提の店」というのはどうしても小売店としてのパワーが落ちる傾向にある。体験や店員、全体を含めて「店の力」みたいなものが弱い。 

ビジネス的に見れば、売らない店では、店そのものがブランドに売る商品になる。ブランド側は出店料に見合う成果を求めるが、実際の買い物は別の売り場で起きるため、店の効果を数字で示しにくい。店単体で採算をとるしかない構図が、売らない店としてのパワーを弱くしている。

来場者の体験が、店に来ない人にも影響する

ただ、SAMPLE HOUSEはQoo10というECプラットフォームと直結していることに意味がある。新しいブランドの商品は、買われないとレビューが集まらず、レビューがないと次の人も買わない。この店は、買う前に使う人をつくり、その使用感をレビューとしてQoo10の商品ページに残す。

レビューはシーズンが終わってからまとめて商品ページに載る。渋谷の一軒で生まれた体験が、全国から見られる商品ページの判断材料になる。店の狙いも、レビュー数を増やすことと、会員との接点をつくることにある。来場者本人が気に入って買う道と、そのレビューを読んだ別の人が買う道の二つができ、どちらの買い物もQoo10の中で起きる。来場者の体験が、店に来ない人にも効く仕組み。

店の価値がそのままWEBの売り場に返ってくるため、店舗単体で採算をとる必要がない。ブランドは出展のために広告費を払っていて、店の運営もその中で回る。Qoo10から見れば、ブランドの出展料も、商品ページのレビューも、会員の再訪も、すべて店の外の取引につながっていく。この聖地がワークするほど、プラットフォーム自体が強くなる。リッチな体験によるPF(プラットフォーム)強化であり、店はそのための投資と見ればいい。このパッケージが大規模横展開することもないだろう。増えて都市部に数件程度じゃないか。あくまで美容感度の高い人の聖地で問題ないのだ。

シーズン1回という制限が「聖地」をつくる

1シーズンにつき1回という制限もよくできている。同じ人が何度も持ち帰れないから、サンプルがより多くの人に行き渡る。合計7種類までしか選べないため、来場者はテスターで比べて本当に試したいものを厳選する。選ぶあいだに、知らなかったブランドとも出会う。1階の人気ブランドを目当てに来た人も、2階で2品を選ぶときには、まだ知らないブランドのテスターに手を伸ばすことになる。ちょっとしたゲーミフィケーション的な面白さもあるし、そうなるとSNSでの情報交換も加速するよね。

3か月ごとの入れ替えは、ブランドには出展の区切りになり、来場者には次のシーズンにまた来る理由になる。季節ごとに一度だけ訪ねる場所になれば、そこはもう聖地だ。来場者は無料でサンプルを持ち帰る代わりに、来店の時間とレビューを差し出す。レビューを書き忘れるとしばらく予約ができなくなるため、次も来たい人ほどきちんとレビューを書く。

来年、原宿に「売る店」が開くころには、この売らない店で集まったレビューがWEBの売り場の足腰になっているはずだ。渋谷で試したブランドを、原宿で手に取って買う流れもできる。売らない店の価値を、店の外の売り場で回収する。Qoo10のSAMPLE HOUSEには、売らない店が強く機能するための条件がそろっている。

ネスレの2027年フード予測 「食べ慣れたもの」が新しい味や栄養の入口になる

ネスレUSAが10月15日、2027年に向けた米国の食品・飲料のトレンド予測を出した。消費者調査、検索の動き、飲食店のメニュー、小売の販売データを組み合わせて、5つの方向にまとめている。

5つを並べると、どれも「食べ慣れたもの」を残したまま、味や栄養、由来、仕上げのどこかを変えている。これが2027年の食の大きな流れになるといえる。食べ慣れた定番が、新しい味や栄養を試すきっかけになっていく。

5つのトレンドをそれぞれ解説

1つ目は酸味と香り。辛さの強さを追う流れから、明るく鋭い酸味へ関心が移っている。挙がっているのは柚子胡椒、カラマンシー、中東の酸っぱいスパイスであるスマック、ディルなど。

2つ目はたんぱく質+α。たんぱく質がとれるのはもう当たり前で、これに加えて機能として腸の調子や年齢への備え、美容といったプラスワンの価値まで期待されている。例えば「たんぱく質と食物繊維」の検索は前年より150%増加。例えば1枚でたんぱく質33gをとれる冷凍のチーズピザがある。見た目はいつものピザのまま、中身の栄養素が超強化されたり。

3つ目は果物の香りのコーヒー。ブルーベリーラテや、韓国のカフェ風の柚子アメリカーノのように、果物の風味をコーヒーに足していく。抹茶ラテなんかにも足されている例をよく見る。朝の一杯という習慣は崩さず、風味だけを果物やお菓子化する感じ。なお、関連して抹茶の市場も2030年には73億ドルになるという予測がある。

4つ目は地域の具体化。「イタリア料理」から「シチリアのレシピ」へ、国の名前から地方と作り方の名前へと選ぶ単位が細かくなる。Z世代とミレニアル世代の4人に3人は、海外の料理を自分のコンフォートフード(ほっとする定番の食べ物)と認識しているらしい。海外の料理そのものがすでに日常の定番になったからこそ、次は「どの地方のどんな作り方か」が新しさになる。

5つ目は最初から入ったひと工夫。見た目や強い風味、食感といった仕上げを、あらかじめ商品に組み込んでおくアプローチだ。薪窯で焼いたような生地の冷凍ピザ、焦がしバター風味のクッキー生地、チリクリスプを混ぜたマヨネーズ。4人に3人近くが、こうしたひと工夫があると値段に見合うと感じているらしい。

マクロ的に見ると「新しさの単位」が小さくなる

5つのトレンドの背景には、米国の食卓の大きな変化がある。食品を買うときに何を重視するかを米国の消費者に聞いた2026年の結果では、味が88%、価格が78%、利便性が61%、健康性が56%だった。利便性が健康性を上回ったのは、この調査の21年間で初めてだそうだ。健康のためであっても、いつもの手軽さは手放せない。結果として、栄養は食べ慣れた手軽なものに入って欲しい、となるわけ。

オゼンピックやマンジャロなどのGLP-1受容体作動薬の広がりも大きい。2035年には5,500万人の米国人が使うという推計もあるぐらいの拡大ぶり。食べる量自体が減れば、一口ごとの栄養密度は問われるわけで、それでも好きなピザを食べたい人には、栄養を組み直したピザが売れるってこと。 

一方で、新しいものへの関心自体は強い。米国の消費者の47%が、普段から新しい食べ物や味を探しているという。ただ、まったく知らない料理に手を出すのはお金も手間もかかり、外れたときの後悔も大きい。食べ慣れたものを土台にすれば、その負担を最小限に抑えたまま新しさを試せる。

こうして新しさの単位が、料理やカテゴリー丸ごとから、味や栄養の「要素」へと小さくなっていく。ソース、生地の焼き方、配合された栄養。土台は変えずに要素だけを入れ替えるから、新しい味は速く広がり、口に合わなければすぐ元に戻れる。目新しさのレベル感が調整された、いつものやつのアレンジがあらゆるところで深まっていくって感じなのかな。

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前週のマーケティングジャーニー!

実は私、Podcastもやってます!元テレビ朝日アナウンサー、現令和トラベル役員の大木優紀さんと2人でマーケティングトレンドや旅について(ほぼ)毎週30分~40分のコンテンツをお届け。

最新回では熱狂する顧客と新規顧客、その間を橋渡しする設計について、F1や相撲、ボタニカルレゴを事例として解説しながら考えてマス!

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源泉かけ流し!今週のマーケティング関連トピックス(今週は16個ご紹介!)

新興SNS「setlog」が4ヶ月で279万人獲得しBeReal.超えに ヴァリューズ調査

setlog、BeReal超えしてるの凄いですね。
スピード感考えると爆速。
地味にsetlogやってますが、DMの欄にそのままそれぞれがUPした動画(のサムネ)が出るのが良いですよね。日常を共有しつつレス、会話してる感が出る。
やはりDAU上げるのはコミュニケーションを入れ込む必要がある。

熊本発「竹箸」のヤマチク、韓国市場を開拓 1時間で14万膳完売

韓国と言えばステンレスの箸だけど、日本製の竹箸が大ヒット
14万善を40分で売る爆売れ
あれが重くて持ちにくいとようやく気付いたのか!?
韓国の方が多い福岡でも箸は売れ筋らしい
(ちなみになぜステンレスかというと、もともと毒を見破るために銀製箸が使われてたから)

コーヒー1杯420円で「何時間いてもOK」の《無人カフェ》がZ世代に人気…店員もフードもないのに全国75店舗に急拡大の訳

コーヒー1杯で何時間いてもOKな無人カフェ。
日本の都心において「ただそこに留まる」のは、場所の枯渇やファミレスなどの高騰によってどんどん難しくなっている。
安心して家庭外で留まれる場所のニーズをシンプルに捉えているって感じがするね。

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続きは、11116文字あります。
  • 海外現地調査レポート:何を残せばその料理であり続けるのか シンガポールのファインダイニングで見た「食の核」
  • 明日から効く!人生の糧になる書籍レビュー
  • 今週の1曲
  • 最後に!

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