静かな空間と、静かな諦め
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マーケティングトレンドインプット 今週のクイック解説3選
setlogと初期メルカリに共通する、他人を通して自分の日常の価値に気づく仕組み

setlogの創業者Devin Dotyのロングインタビュー、面白すぎました。
setlogは友達同士で横長・2秒の短い動画を一日中投げ合うSNSアプリ。
Snapchatに8年半在籍したデザイナー兼エンジニアが2024年夏に開発し、2025年12月にローンチ。火付け場所は韓国だが、大きなブームが去って少し落ち着いた韓国を超えて、いまや日本が世界でいちばん使われている国になっているという。日本のユーザーは1日平均11〜12本も投稿し、90日後リテンションも6割を超えているらしい。
インタビューを読み進めるうちに、自分が実際にsetlogを使っていて感じた面白さと、かつてCtoCアプリであるメルカリのコンシューマーマーケティングに関わっていた頃の僕の実感値に重なるものがあったので、toC向けの新たなサービスが広がるための条件(のひとつ)について考えてみたい。
入口は「便利そう」より「自分もやってみたい」
本当に広く普及するtoCアプリには、小難しい理屈を理解する前に、ちょっと自分もやってみたいと直感させる身体的なフックがある。たとえばsetlogなら日常の一瞬を2秒の横動画にして友達にぶん投げること、メルカリなら自分の持ち物に自分で値段をつけて誰かに売ってみること。
どちらも、最初の1アクションが極めて具体的にイメージできる。setlog創業者のDevinも、開発初期にあったアバターの表情変化やAIによる自動生成メッセージといったアイデアを、面白いけれど本質的な価値がないギミックとしてあえて削ぎ落としている。ユーザーに何をさせたいアプリなのか、そのコアの行動自体にどんな快感があるのかを最優先したわけである。
実際にsetlogを使ってみるとその心地よさは、2秒・横長・相手を選べる・返信が前提じゃない、という絶妙な組み合わせから生まれている。
横長の2秒動画には、TikTokやInstagramのような、こう撮るのが正解という型がまだ存在しない。だから、インフルエンサーのつくる“正解”を真似る以外の自由な参加の余白がある。
2秒しかないから、映えるように作り込む必要もない。格好つけることもできなくはないが、格好つけない日常のままでも十分に成立する。工夫が参加の前提条件になっていないからこそ、義務でなく自発的な遊びに変わるのだ。
さらに、送る相手をクローズドに選べて、返信の義務もない。Devinは写真を1枚送るだけでも、受け取った側は送り手がその写真にどれだけ手間をかけたかを知っているから返信のプレッシャーを抱えてしまう、と語っていたが、setlogは独自のルーム設計によってその心理的コストを綺麗に取り除いている。(例えば4人でルームを作っているならば、自分がそのルームにとある忙しい日全然投稿できなかったとてそれほど罪悪感を覚えるほどではなかったり)
そして手元に残るのは、遠く離れた場所で過ごす友人とゆるやか&疑似的につながる感覚と、自分の時間が並走している雰囲気。
メルカリが生み出したのは「買う便利さ」より「自分で売る面白さ」
メルカリが爆発的に伸びたのも、欲しいものが安く買える便利さよりも、自分が売る側になる面白さにあったと僕は思っている。何を売るかを選び、写真を撮り、自分で値段をつけ、説明文を考える。その結果として、見知らぬ誰かが実際に買ってくれる(ことがある)。
いわば「お店屋さんごっこ」なのだが、子供のころの遊びと決定的に違うのはその売れた結果実際にリアルな金銭が自分にもたらされること。それは「儲かる」というよりも、自分の行動に対してのフィードバックがリアルだということにある。
もし初めからメルカリを「不要品を手間なく換金できる合理的なツール」と位置付けていたら、儲けたい人だけが集まる場所になっていただろう。仮に同じ不用品が同じ金額で処分できるとしても、買取業者にすべて丸投げして現金を受け取るのと、自分で値付けや見せ方を試行錯誤して売るのとでは、ユーザーの心に残る体験の質は大きく違う。
メルカリをやらない人、やめてしまった人のやめる原因の大部分はもちろん出品に伴う手間だけれど、メルカリが広がった理由も能動的に参加する面白さにあったと自分は考えている(あくまで初期の拡大期の話です)。
setlogもメルカリも、入口の行動は結構シンプル。でもユーザーが受け取る感覚は複雑性がある。実利、遊び、自己決定、他者との遭遇、予想外の結果。入り口はシンプル、プロセスと結果は複雑なことが大切。
もう1つ大切な点が、体験の先にスクリーンの向こう側に生身の人間がいるってこと。自分が投げた動画を見る友人、自分が出品したモノを欲しがる買い手。自分のささやかな行為の先にリアルな人間がいる。その息遣いを感じれるからこそ、次はもうちょっと工夫してみよう、また参加したい、という内発的な動機が生まれる。
setlogはよく知っている友人の知らなかった日常の一コマに触れる。メルカリはまったく知らない他人に自分のものがわたる。両者に共通しているのは、自分が差し出したものが、確実に誰かの生活の中に届いているという確かな手応えなんじゃないか。
他人が介在することで、自分にとって当たり前の日常の価値が変わる
ここが、両サービスに共通するもっとも本質的なポイントだと思う。
僕の友人に毎朝納豆とキムチとめかぶかなんかを混ぜた健康朝食を毎朝のように食べてる人がいる。その人にとっては、毎朝繰り返すルーティンで、日常の風景にすぎない。けれど、それを朝setlogの通知が来て、朝他に撮るものがないからそれを撮ってルームにおくる。そうして誰かの視点に触れる前提で受け止めると、あ、この組み合わせって他の人から見たら意外と珍しいのかもしれない、という別の情景になる。食べ物は1ミリも変わっていないけれど、他者の目線がそこに介在することで、自分のありふれた日常をわざわざ切り取る意味が生まれる。
メルカリもまったく同じ構造だ。自分にとってはもう価値がないと思っていたものが、誰かにとってはずっと探していた欲しいものとして評価される。自分にとって不要であることと、そのモノ自体に価値がないことは、同義ではないと気付く。そしたら家にあるモノが別の意味を伴って浮かび上がる。
setlogもメルカリも、自分が他人より優れていることを誇示するSNS的世界観ではない。自分のありふれた生活の中に、自分では気づいていなかった、他者にとっての意味が眠っていた、と再発見するプロセスなんじゃないか。
だからこそ、特別なスキルも、キラキラした生活も必要ない。今そこにある朝食の納豆や、クローゼットに眠る持ち物から、誰でもすぐに始められるハードルの低さがある。
Setlogのインタビューの中で紹介されていた韓国のユーザーの言葉が、まさにそれを伝えている。「きれいな空や花を見ると、友達に見せたくて立ち止まって撮るようになった」そうだ。空がきれいだから撮る、のではなく誰かに見せたいから2秒立ち止まる。

setlogと初期のメルカリに共通するのは、直感的に参加したくなるアクションを通じて他の誰かとの生きた接点を生み出し、その接点を通じて、自分の日常をとらえなおす点なんじゃないかと思うわけです。
金融ニヒリズムと日本の「静かな諦め」 普通の未来が遠くても一発逆転には惹かれる心理
米国で最近、「破滅的消費(doom spending)」と「金融ニヒリズム(financial nihilism)」という言葉を見かける。

前者は、先行きへの不安やストレスに対処するために、規律のとれないレベルで衝動的にお金を使ってしまう行動。後者は、真面目に働き、長期で計画を立てて努力すれば報われる、という経済の前提への信頼が弱まり、ミームコインやスポーツ賭博などの投機的な題材へ若者が投資する現象を指している。
米国のある調査では、暗号資産や予測市場、賭博に手を出す人の7割強が、自分は経済的に遅れていて、これは追いつくための手段だ、と回答したという。
将来のために今を犠牲にし続けたくないから、現在の消費に使う。普通に貯金していても届かないなら一発当てるしかないと賭ける。どちらも共通するのは「普通に努力を積み上げれば望む生活に近づける」という希望が失われているのだ。
マイホームのために貯金しているのに、住宅価格のほうが速いスピードで高騰する。働いて昇給しても、インフレと生活費に吸収されて手元に残る余裕は増えない。信じて積み重ねればいまより少しはイイ感じの未来が約束されていたことが、走り続けてもプラスが見込めないように。日々の積み上げが自分の望む生活に繋がっているという実感が薄れてしまっている。
日本で起きているのは、派手な浪費ではなく静かな諦め
日本でも米国ほど極端ではないが似た状況になりつつある。未来が見えないわけじゃないないが、今の延長線上で生活がじわじわ苦しくなる未来は具体的に想像できる。足元がそうなんだから。そうなると、未来に希望を抱いて楽しみを増やしていくよりも、最初から期待値を下げ、現実と向き合う。それが心(と生活)を守るアクションになる。
海外旅行の数字が象徴的。日本人の海外出国者数は、2019年の約2,008万人に対して、2025年は約1,473万人。前年比で13%増えてはいるものの、コロナ前の水準には戻っていない。今年は旅費が高いから見送ろう、がやがて、しばらく行けないだろう、になり、結果的に恒久的に海外旅行という選択肢が失われていく人が出てきている。
諦めているのは「大金持ちになること」ではなく、大金持ちにはなれなくても普通に働いていればたまには海外に行ける、歳を重ねて真面目に頑張れば暮らしに少しずつ余裕ができる、という、かつての当たり前。浪費も投機もせず、真面目に生活を回す人の内側にこそ、この「静かな諦め」が積み重なっているように思える。
諦めているのは欲しい人生ではなく、そこに至る普通の道順
この諦めと、実は同居しているのが「一発逆転への希望」である。
日々の地道な積み上げで理想の生活に届くとは思えなくなっても、プラスの未来を望む気持ちそのものは消えない。だからこそ、日常では期待値を下げて身を守りながら、例外的な大逆転の物語に希望をかける、そんな行動があるんじゃないか
いま日本で強い求心力を持つコンテンツはその証左なんじゃないか。BreakingDownは一夜にして新たなスターが生まれる可能性を掲げ、YouTubeのキャバ嬢オーディション番組「LAST CALL」は人生を変えたい女性の挑戦を前面に出して、開始4か月で関連動画を含めて累計10億回再生を突破した。エロ系インフルエンサーるるたんと鈴木おさむの共著『欲望のKPI』も、手取り60分8,000円から月収1億円へ、という劇的な数字を掲げてヒットしている書籍。いずれもわかりやすい金銭が訴求の中心にある。

Xやスレッズでは情報商材屋が爆増。AIを活用して不労所得、X自動運用で月利〇万円(情報商材屋がよく使う月利ってマジで独特の言葉ですよね)。オンラインカジノ、闇ポーカー、草コインにFX。
これらに共通するのは、学校、就職、勤続年数、昇進といった既存のレールの外側に、一撃で逆転できるような別の扉が開いているように見えること。
これらのコンテンツで強調されるのは、少しずつ生活が良くなっていくプロセスではない。Before→afterで人生が非連続にパチンと切り替わる瞬間を必ず見せる。こうしたコンテンツに出る人はだいたい「昔はこれだけつらい立場にいた」と語る。日々の努力で前進している実感が得にくい時代だからこそ、この人生が反転する瞬間には引力があるのだろう。
一発逆転を求める心理は、未来を考えていない現実逃避とは違う。望む未来を心の底で諦めきれないからこそ、通常のルートを飛び越える可能性に惹きつけられる。努力を続ければ少しずつ近づける、という割とまっとうな希望が困難な現在を受けて変質したのだと考えている(もちろんこうした逆転劇が実にプラットフォームアルゴリズムと親和性が高いことも間違いないけれど)
Miu Miuが香水と送ったミニマイク 開封動画のプロセスすべてを覆うPR
Miu Miuが香水のPRでクリエイターに送ったのは、ブランドロゴ入りの小さなマイクだった。

Miu Miuのフレグランスライン「Miutine(ミュウティーン)」のPRキットの中身は、香水、ミニマイク、そして質問カード。暗証番号付きの箱を開ける仕掛けもある。去年8月に発売された、Miu MiuがL'Oréalとのライセンス契約で作った最初の1本。
このキットが9月にクリエイターの手元に届き始めると、開封の様子がThreadsやLinkedInで回った。届いた人が箱からマイクを取り出し、香水をレビューする。マイクを同梱した狙いの一つは、クリエイターが普段の投稿でも使える道具を渡すことにある。どのジャンルにせよ、開封動画における定番は、手に身にマイクを持ち、カメラを覗き込みながら商品を開け、レビューしていく流れ。この流れに沿って必ず登場するモノがマイクであり、Miu Miuはマイクを提供するだけでなく、自社のロゴ入りをプレゼントすることで、自然なロゴ露出に成功した。もちろん今回の開封動画で使うだけでなく、その後も日常の動画で使われ続ければ、画面の中にMiu Miuのロゴが映り込む機会が続く。
このキットはこうしたマイクの仕掛けだけでなく、開封動画の到着から撮影、そのすべてを理解してキットを構成していることにある。
届いた瞬間から、撮る順番ごとモノが揃ってる
箱を開け、中身を見せ、カードの質問を選び、マイクを握って答える。何から撮り始めて、どんな順序で話し、どう締めくくるか。クリエイターが開封動画を1本仕上げるための導線が、キットの中に最初から組み込まれているのだ。
商品を受け取ったあと、クリエイター側には本来たくさんの宿題がある。「自分のフォロワーが見たい話題にどう落とし込むか」「普段の投稿トーンとどう馴染ませるか」「単なる退屈な商品説明にならずにどう語るか」。いまはオーディエンスもインフルエンサーには目線が厳しい。フツーの紹介ではかえってクリエイターの評判は下がる。
このキットはその企画と構成を丸ごと先回りしている。暗証番号の箱はオープニングのつかみになり、香水ボトルは商品を見せるきっかけになり、マイクは語りのスイッチを入れる小道具になり、カードは何を喋るかのテーマになる。
自分の話をすると、香水の世界観も伝わる

マイクだけでなく面白いのが質問カード。香水の香りや使い心地を聞くカードというより、自分がこれまでにルールを破ったときのエピソードを語らせるという内容になっている。「この香水の魅力を3つ教えてください」なんて書かれてはいなくて、「最近、周囲の期待より自分のルールを優先したのはいつ?」という質問が入っている。これならクリエイターごとに別の仕上がりになるし、お題に応えるだけだから負担も少ない。ただ商品のスペックを並べて金太郎飴のように同じコメントが並ぶよりよほどよいだろう。
ちなみにこの質問自体がフレグランスブランドのコンセプトともマッチしている。クリエイターが語る内容は自分自身のエピソードなのに、話せば話すほど、Miutineの世界観が拡張する、ブランド施策としてもよくできている。
見る側にとっても、香水の結構なオタクでなければ「ムスクか柑橘か」以上のレベルの細かい話をされても理解しにくい。ボトルや香料のスペック説明以上に見る側にとっては香りを想像する手がかりが増える。
もらって嬉しいPRから、使って撮りたくなるPRへ。さらに一歩進んで、クリエイターが自分の話をすることが、そのままブランドの文脈を語ることになるPRへ 。
前週のマーケティングジャーニー!
実は私、Podcastもやってます!元テレビ朝日アナウンサー、現令和トラベル役員の大木優紀さんと2人でマーケティングトレンドや旅について(ほぼ)毎週30分~40分のコンテンツをお届け。
最新回はたまにやってる「旅」の回です!最近世界的に増えている凝った仕掛けの私設美術館を追いかけながら、どうやって美術館を楽しむか?誰もが楽しめる南坊流をご紹介しています~
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源泉かけ流し!今週のマーケティング関連トピックス(今週は11個ご紹介!)
そもそも富裕層って? とにかくお会いしてひもといた「富裕層のいまの価値観や思考」
博報堂は定量調査でしたが、電通は定性調査。
具体的な生声面白いんですが、ガチ富裕層過ぎてなかなかハイコンテクスト。
面白いのは買い物も、判断も、富裕層だから財布のひもが緩かったり判断が豪快ってことはなくて、むしろ富裕層だからこそよりシビアに様々な情報を踏まえて購買・行動している感じがします。
働き過ぎをSNSで誇示する新たな風潮「グラインドスロップ」とは?
働きすぎをSNSでアピールする投稿が、「グラインドスロップ」と呼ばれているそうだ。
シリコンバレーでは、朝9時から夜9時まで週6日働く「996」などのハードワークを自分たちの本気度と結びつけて発信する人がいる。そこへの批判から広がった言葉らしい。
投資家や他の創業者に、自分たちの覚悟を見せる。働く姿が会社の宣伝にもなると、忙しさや睡眠不足まで発信する理由ができる。
SNSで誰かが見せる働き方が、自分の会社の勤務基準にまで入り込んでくる。本人の気合いのアピールが、周りの人にも守るべき基準として伝わってしまうのは、結構しんどい話ですわな、、
エルキャタートンがHYROXを買収交渉
LVMHが支援する投資会社L Cattertonが、日本でもバズりまくってるフィットネス競技「HYROX」に出資。
L Cattertonは、新しい競技形式の周りに世界的なコミュニティが生まれた点を評価。
更にすでに運動へお金と時間を使っていた人たちの、次の目標をつくった強さも見ていると思う。
「ジムに通っている人」が「次の大会に出る人」になると、同じトレーニングや買い物にも違う意味が生まれる。LTVも計算しやすい。
HYROXの成長はそうした人を増やしながら、練習・道具・旅行まで一緒に広げていけるところにありそう。
実際、世界各地のHYROXの大会を回ることにハマる人も海外では多い。
この祭りとなる「本番」のイベントを起点に、その前の数カ月や次の休暇まで予定が決まっていく。
ちなみに、PUMAもHYROXに関わる存在。
HYROXとの提携を2030年まで延長、レース用のシューズに加えて、2026年にはHYROXの練習専用モデルも発表した。
HYROXを中心とした経済圏はどんどん広がりそう。
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- 海外現地調査レポート:アメリカ/サンフランシスコ Claudeが経営する雑貨店 Andon market
- 偏愛!なんでもインプットコラム
- 今週の1曲
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