AI生まれのフェイクバンドがホンモノになった!?&パリのSHEIN実店舗がなんだかちぐはぐ

今週は9個のニュース、書籍1本、フランス・パリの百貨店をご紹介。今週は15,949字でお届け。
南坊泰司 2026.03.24
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マーケティングトレンドインプット 今週のクイック解説3選

NEON ONI——AIで作ったフェイクバンドが「ホンモノ」になるまで

生成AIで作った音楽であることを隠してリスナーを集めたバンドが、バレた後に実際のメンバーを集めて「本物」になっていく。そんな小説のような物語が現実に進行中。

NEON ONIはメタルバンド。BABYMETALの系譜にある「カワイイメタル」の影響下で、東京を拠点に活動するバンドという「設定」で昨年9月から楽曲の投稿を開始した。Spotifyのリスナー数は8万人に到達し、グッズ販売も好調。ただこのバンド、話題になってしばらくたち、AIを使っているのでは?という疑いが絶えなかった。そしてリスナーの分析により、楽曲がAI生成ツールのSunoで制作されていたこと、拠点も東京ではなく欧州であることが特定された。

普通であればここで炎上してプロジェクトは終了する。現在、クリエーティブの世界においてAI活用は非常にセンシティブである。AI音楽の詐欺事例はすでにいくつもあり、AIで膨大な偽楽曲を生成してボットでストリーミングを水増しし、7年間ロイヤリティを不正搾取してFBIに摘発されたケース。DrakeとThe Weekndの声をディープフェイクした曲がバイラルになり、レーベルから侵害コンテンツとして非難されたケース。AIバンドとして発覚した後「これは元々アートプロジェクトだった」とレトロニムで正当化を試みたケース。

しかしNEON ONIはここでは終わらなかった。

フェイクから逃げずに、現実化を選んだ

制作者は、実在するバンドから7人のミュージシャンを集め、昨年末に新宿で「初ライブ」を実施。さらに現在ではこのメンバーでメタルフェスのコンペを勝ち抜いている。AIが作った曲を、人間が演奏し、人間の観客の前で披露し、実力でフェスの審査を通過しているのだ。

制作者自身は「AIが皆の仕事を奪う時代に、これは実際に仕事を作り出した。全く逆のことをやった」と述べている。弁明として正直都合がよくないか?とは思ってしまうが、事実としては確かにそうなっている。AIで集めた8万人のオーディエンスがあるからこそ、実際のミュージシャンを集める交渉が成立し、ライブが実現し、コンペも通過できている。

ゼロからバンドを始めても、最初の数百人のリスナーを集めるのは途方もなく大変だ。でもAIで楽曲を量産し、コンセプトを練り、SNSで拡散すれば、実力を証明する前にオーディエンスを獲得できる。そのオーディエンスが「実体化する価値がある」という判断材料になり、実際のミュージシャンが集まる。順番が逆転している構造。

批判的に見れば、騙されたリスナーへのリスペクトの問題は残る。フィクションが現実になれば全てOKかというと、それは「詐欺が成功すれば許される」論理に近い部分もある。発覚時に離れたリスナーにとっては、後から本物になったところで全く同じスタンスで応援できるか?と言えば微妙だろう。

それでもこの「出口戦略」は面白い

ただ、AI音楽の詐欺や欺瞞が発覚したケースを並べてみると、NEON ONIの対応は相当変わっている。逃げるか、言い訳するか、潰されるか。大半はそのどれか。
NEON ONIは「実体化する」を選んだ。もちろん実体化に伴っては欧州拠点でのWEB制作、といった環境とは比較にもならない運営コストが発生する。その覚悟があったということだ。確かに始まりはフェイクだしその来歴がなくなることもないが、発覚後の選択肢としては誠実な方と言える。いや、誠実というと語弊があるかもしれないが、少なくとも「嘘を現実で上書きしようとした」という意味では、言葉で正当化するより遥かにまっとうだ。

生成AIが出発点でも、そのフェイクが現実になれば、そこに熱狂は生まれる。新宿のステージで7人のミュージシャンが実際に演奏し、観客が実際に盛り上がっている。その事実は消えない。これも一つのストーリーの形だと思う。一方で二匹目のどじょうが許される内容ではない気もする。AIである意味コンセプト検証をするようにアーティストを投げかけて、あとで実態するようなPDCAは果たして許されるのか?なんて思ってしまうわけで。

NetflixのWBC独占。150億円の放映権は投資対効果に見合っていたのか?

2026年のWBCは初めてテレビでは見られずNetflixにお金の有料会員だけが見られるコンテンツになった。地上波もBS・CSも一切なし。映像で試合を見るにはNetflixに加入するしかない。日本テレビが配信映像の中継制作を受託しているが、地上波では関連特番やハイライトが流れるだけ。唯一の無料手段はニッポン放送のラジオ実況(余談だがこのラジオ実況は「Netflixの副音声」に徹していて非常に面白かったらしい、しかもNetflixよりも少し中継速度が速かった)。

放映権料は150億円とされている。前回大会の約5倍。日本のテレビ局はこの金額に手が出ずNetflixに権利が渡った。

数字に出ている「特需」

日経新聞がセンサータワーの協力を得て分析したデータによると、Netflixの日本でのスマホアプリ新規ダウンロード数は3月2〜8日に前年同期比4.8倍、利用者数は2.3倍。ヴァリューズの調査では2月の利用者数が前年同月比36%増の1,200万人で、約300万人増加。
Netflixは初月半額キャンペーンも打っていて、広告付きスタンダードなら498円でWBC全試合が見られる。

仮に増加した300万人が平均月額1,000円を支払うとすれば単純計算で月30億円の増収。この300万人の多くは解約していくと思われるが、残った会員が月々払い続けると考えれば150億円の放映権料と中継・配信・広告関連コストを合わせてWBC単体での投資回収は微妙なラインかもしれない。

Netflixにとってスポーツは「入口」

ただ、Netflixの狙いはWBC単体の収支ではないにとどまらない、それ以上の効果を得たと私は考えている。

東洋経済のインタビューでNetflixのスポーツ・ノンフィクション部門の責任者が下記のように答えていた。Netflixのライブ配信戦略の中心は「世界規模で会話を生み出し、リアルタイムで人々をつなぐこと」で、基本方針は二本柱。第一が大規模で話題化する「イベント化(eventization)」、第二が継続的にファンダムを育てる「継続型のLiveエンタメ」。

「ライブ配信は全体の視聴時間に占める割合からすると大きくないものの、イベントとしての訴求力が非常に強く、Netflixでの視聴体験全体の価値を大きく引き上げている」と述べている。

つまりスポーツのライブ配信は、Netflixにとってコンテンツそのものの収益というより、プラットフォームへの入口として機能している。そもそも考えてみてほしい。グローバルに盛り上がるスポーツコンテンツはどれほど数があるだろうか?W杯、夏季冬季の五輪…あとはレギュラーのメジャーやNBAなどか。なぜNetflixがWBC?と感じた人も多いと思うが、限られた「グローバルスポーツビッグコンテンツ」という大きなイベントにできるものは非常にパイが限られている。これを獲得できたことが何より大きい。実際、仮にWBCに興味を持っていない人もWBCとともにNetflixの名前を何度も見聞きしたはずだ。この「数少ない大イベントを占有し、認知を知らしめたこと」が非常に大きい。

Netflixにとってのユーザー層拡大効果

加えて大きいのが高年齢層にアプローチできたことだろう。このニュースレターの読者層であれば多くの人がNetflixを知っているだろうし、入っている人も多いだろうが、まだまだサブスク型動画サービスが一般的ではない高年齢層に対しての認知や商材の理解は低めになっているはずである。

一方で野球は全年齢に強いコンテンツなだけでなく、特に高い年齢層の男性に強い。こうした層はオリジナルドラマや韓国ドラマ、アニメではややカバーしにくいことを考えると、この層に対しての認知を大きく高められるWBCというコンテンツはNetflixのマーケティング上においてうってつけだったと考えてもいいのではないか。またこの層はデジタルマーケティングがやや若年層に比べて聞きにくく顧客獲得単価も高くなりやすい、一方で所得は高めであることを考えると非常に有望顧客である。

この層を1名獲得するのと、例えば30代女性を獲得することの難易度は等価ではない、ということ。この点が非常に大きいと考えている。

WBC後が本当の勝負

Netflixにとっての最大の課題は、WBC閉幕後の解約をどこまで抑えられるか。WBCだけ見て解約する「一過性の加入者」が大量に出れば、もちろん150億円の投資回収は厳しくなる。

ここがWBCを「入口」として使うNetflixの戦略が試される場面だ。この点はややNetflixは不安なところかもしれない。現実的に野球親和層が楽しめるコンテンツが多いか?と言えば微妙なところ。

スポーツの視聴環境は確実に変わりつつある。サッカーW杯もDAZNが全試合配信、F1もDAZN、MLBはAbemaTVでも見られる。地上波で無料で見られるメガスポーツイベントは年々減っている。Netflixの150億円は、その流れの中でも最も大胆な一手だ。日本の野球ファン3,000万人をどこまで取り込み、どこまで定着させられるか。WBC後の数字に注目。

アットコスメが「成分検索」を導入——美容の世界で「ブランド名」より「成分」で選ぶ時代が本格化

97%が「成分は購入に影響する」と回答

ナリス化粧品の調査(20〜59歳女性2,181人)によると、97%の女性が「成分はスキンケア商品の選択に影響する」と回答。スキンケア化粧品を購入する際に確認するものが、全年代で1位「価格」、2位「成分表示」、「ブランド名」はその下。つまり、ブランドより成分で選ぶ消費者がすでに多数派に。「成分買い」がトレンドになっているのだ。

影響として大きいのはK-Beauty。韓国コスメはもともと成分を前面に出すマーケティングが主流で、「CICA(シカ)」「ビタミンC」「ナイアシンアミド」「レチノール」といった成分名がそのままブランドのフックになっている。韓国コスメがバズりまくる中で、日本の消費者も成分名で商品を語る習慣がついた。

次にSNSとインフルエンサーの存在。美容系YouTuberやインスタグラマー自体における「解説コンテンツ」の需要が高まり、成分の効果やメカニズムを解説するコンテンツを大量に出すように。結果、消費者側のリテラシーが急速に上がった。これまでは専門家しか読まなかった全成分表示を、一般消費者が日常的にチェックするように。

そして薬機法の構造的な要因もある。日本の化粧品は法律上、製品の効果を直接的に訴求することはかなり厳しい。その代わりにメーカーは成分に関する研究内容や技術力をプレスリリースや発表会で発信する。結果として、消費者が受け取る情報は「この商品はこう効く」ではなく「この成分にはこういうエビデンスがある」という形になりやすい。それが商品の価値として変換されるわけだ。成分起点の購買行動は日本の規制環境と親和性が高い。

成分だけでなく「処方技術」まで見る消費者が出てきた

面白いのは、成分買いがさらに一段深化していること。

単に「ビタミンC配合」というだけでは差別化にならなくなり、同じビタミンCでも、リポソーム化(成分を脂質の膜で包んで浸透性を高める技術)されているかどうか、安定型なのか純粋型なのか、濃度はどうか。成分そのものだけでなく、処方技術や配合設計にまで注目が拡大。

食品において原材料をみんなが見るようになったことと近いかもしれない。食品で無添加、オーガニック、グルテンフリーを確認する習慣が定着したように、化粧品でも「〇〇フリー」「〇〇配合」のラベルチェックが日常化。@cosmeの成分除外検索機能は、まさにこの「避けたい成分がある」消費者のニーズにも応えている。

化粧品ブランドにとって何が変わるか

従来、化粧品の購買導線は「ブランド認知→商品認知→購入」だった。ブランドの世界観やイメージで消費者の関心を引き、その中から商品を選んでもらう。だから広告投資の多くはブランドイメージの構築を重視していた(前提として先述のように効果がうたいにくかった問題もある)。

成分買いの時代では導線が変化する。「悩みがある→成分を調べる→その成分が入った商品を探す→結果としてブランドに出会う」。ブランド名が入口ではなく、成分が入口になる。

これはブランドにとっては機会でもありリスクでもある。成分で検索されるということは、無名のブランドでも成分と処方で勝負すれば発見される可能性が上がる。事実、韓国化粧品は次々と新しいブランドが成分とともにバズる。一方で、大手ブランドがイメージと広告で築いてきた参入障壁は低くなる。同じ成分を同じ濃度で配合した商品が並んだとき、ブランド名だけでは選ばれにくくなる。

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前週のマーケティングジャーニー!

実は私、Podcastもやってます!元テレビ朝日アナウンサー、現令和トラベル役員の大木優紀さんと2人でマーケティングトレンドや旅について(ほぼ)毎週30分~40分のコンテンツをお届け。

最新回では「顧客の本音を見抜くマーケティングアプローチ」についてトーク。あなたのブランドの「真の競合」ってなんですか?見せかけの競合に惑わされず、顧客インサイトを理解した戦い方をしていくアドバイスです!

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源泉かけ流し!今週のマーケティング関連トピックス(今週は9個ご紹介!)

千葉雄喜のメジャー契約は何を変えるのか? ワーナーミュージックに聞く、日本のヒップホップを世界に届けるための挑戦

ワーナーミュージックと千葉雄喜がメジャー契約を結び本格的に世界進出をサポート。
千葉雄喜はいまやシーンでは特異な存在ですよね。
KOHHから千葉雄喜になり、mamushiや最近では「アニョハセヨ」などヒット出しまくり。
彼が面白いのは日本のrapを英語側にアジャストするのではなく、簡単な日本語をパッケージして世界に届けること。
日本人から見たらヘンではあるけど、グッチやヴェトモンがカタカナをあしらったアイテムを出していたりするように、日本の文化がクール、な文脈で言葉や文字にも注目がある。
この大きな流れ×シンプルなグローバルに受けるビートで「滑り知らず」な千葉雄喜。グラミーに近づけるか。

NISA普及における地域間較差の要因分析

NISAの普及率調査。
NISAを始める最大のトリガーとは何か?
NISAの普及率が一番高いのは東京都。
一番低い青森県と約2倍の開きがある。
この事実、東京が平均年収が高いからか?と感じるが年収による普及率の差はデータを見ると意外と小さい。
実は口座解説の最強のトリガーは「30代」であること。30代である年齢要素はNISA開設のトリガーとして年収の7倍近い影響力。
つまりNISAを解説するモチベーションは、結婚や子育て、転職などのライフステージ変化で「お金」という問題への意識が急激に高まること、の要因が大きいのだ。
更に職種の差も大きい。一次産業や運輸に比べて、ITや金融系は低い。
情報格差が金融リテラシーの壁につながっている。

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続きは、9166文字あります。
  • 海外現地調査レポート:パリの百貨店に入ったSHEIN 老舗百貨店BHVの迷走と、SHEINの「らしくなさ」が同居する奇妙な6階
  • 偏愛!なんでもインプットコラム
  • 明日から効く!人生の糧になる書籍レビュー
  • 今週の1曲
  • 最後に!

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