新しいAIは存在しても、若いAIは存在しない&コンビニがなぜ聖地化するのか?

今週は15,538字。野田秀樹が東大生に「新しいAIは存在するが、若いAIは存在しない」と言った。身体があるから有限で、有限だから心がある。国立競技場でTWICEのライブに泣き、マーラータンの春雨を啜って「ヘルシーな気分」になるのも身体の揺らぎ。一方で、買い物の入口はAIへの相談に移りつつ、津田沼のセブンは日本酒の「聖地」に。書籍は『神々の山嶺』、エベレストに取り憑かれた男の話。ニュースは12本。
南坊泰司 2026.04.28
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マーケティングトレンドインプット 今週のクイック解説3選

「AICAS」というフレームはさておき、AI時代の購買行動で本当に変わること

日経クロストレンドがAI時代の消費者購買行動モデル「AICAS」を提唱した。AIDMA→AISASの次、という位置づけ。

正直に言うと、この手の「新しいアルファベットのフレームワーク」自体にはあまり興味がない。AIDMAもAISASも、後付けで行動を整理するには便利だけど、実務で「今の消費者はAISASのSの段階にいるから…」みたいな使い方をしている人は少ないだろう。ただ、このフレームを作るための調査の中身自体はかなり面白いデータが入っていてAI時代の購買行動について考える材料にはなる。

「何を買うか決まっていない状態」からAIに聞く

AISASとの違いで一番大きいのは、起点がAttention(注目)からAsk(相談)に変わっていること。
AISASの世界では、まず広告やSNSで商品を知る(Attention)。そこから興味を持ち(Interest)、検索し(Search)、買い(Action)、共有する(Share)。つまり起点は「何かを見て知る」だった。
AICAISの世界では、何を買うか決まっていない状態で「おすすめ教えて」とAIに聞くところから始まる。商品を知る前に、相談が先に来る。確かに既にAIを使いこなしている人は「とりあえず迷っている状態でもAIを“走らせて”おいたほうがいい」と知っているだろう。
これ、地味だけど構造としてはかなり大きい変化だと思う。これまでの購買行動は「認知→検討→購入」の流れ。広告を打つ、SNSで話題を作る、検索結果の上位に出る。全部「見つけてもらう」ための施策。

AIに相談する世界では、消費者が「何がいいかな」と聞いた時にAIの回答候補に入っているかどうかが最初の関門になる(かもしれない)。マクロミルの調査で生成AI利用者の62.5%が商品選びにAIを活用していて、44.6%がAIの提案通りに購入したと答えている。AIが推薦する3〜4つの候補に入れるかどうかで、検討のテーブルに乗るか乗らないかが決まる。つまりLLMOやGEOと呼ばれる生成AI向けのSEOが求められるようになる。

検討のハードルが下がって高速回転する

もう一つ変わるのは、Ask→Interest→Confirmのサイクルが高速で回ること。このモデル上では一直線になっているが、現状消費者が持っているのは対話型AIであり、一問一答形式ではない。つまり、そこでの会話の積み重ねは、相談→興味→確認→相談…と続いていくのが対話型AIの体験だろう。
従来は「検索して比較して口コミを読んで」という検討プロセスにそれなりの時間と労力がかかった。自分で一生懸命何度も探さなければいけない。必然的に検討も何度も何度も行えない。一方でAIに聞けば、候補の提示、比較、絞り込みまでが一回の対話で終わる。「この3つの中でコスパがいいのは?」「アレルギー成分入ってないのはどれ?」と追加質問すれば、さらに絞り込まれる。

なので、このサイクルはぐるぐる回る。一度候補を見て、気になるものを深掘りして、別の条件で聞き直して、また候補が出てくる。プロセスというより、検討のハードルがめちゃくちゃ下がって回転速度が上がっている状態。「Ask→Interest→Confirm」を直線的に進むのではなく、この3つを行ったり来たりしながら収束していくのがリアルな状態じゃないかと考える。

フレームワークとして5段階のプロセスに整理すると綺麗に見えるけど、実態はもっと雑多で、AIとの対話の中で「相談」「興味」「確認」が混ざりながら進んでいくイメージのほうが近いと僕は思う。

確認行動が変わる——「追認」のチャネルとしてのAI

調査で面白いのは、AIの提案を受けた後に他の媒体でも調べた人が約9割いること。検索エンジン57%、比較・口コミサイト33%、SNS 30%。消費者はAIの推薦を鵜呑みにしてはいない。この一定レベルの「AIを信じ切らない」という感情が既に人間に醸成されているのは面白い。

従来の検索行動は「情報を集めて自分で判断する」だった。今の確認行動は「AIが出した答えが正しいかどうかを追認する」に近づいている。もう候補は絞られている。自分で一から探すのではなく、AIが出した結論を裏取りするための作業。確認のハードルも、AI自身に「この商品の評判教えて」「デメリットは?」と聞けば数秒で終わる。

つまり確認行動の主戦場も、人間の口コミやレビューサイトだけではなく、AI経由になっていく。AIに相談し、AIの候補から選び、AIに確認する。人間のレビューはその中の一つのソースにすぎなくなる。

マーケティング従事者は何を考えたらいいか

調査では「普段自分では選ばないような商品も選択肢に上がるようになった」が24.7%。4人に1人が、AIを通じて予想外の商品に出会っている。これは機会でもありリスクでもある。

機会としては、認知度が低いブランドでもAIの推薦候補に入れば検討のテーブルに乗れる。完全な認知度勝負でなくなる可能性がある(但し基本的には認知度が高いブランドは多くの情報源と信頼性を持っており、有利なことは何も変わらない)
リスクとしては、既存の認知や広告投資がAIの推薦ロジックの前では相対化される。先週書いたブランド認知の神経科学の話——知られているブランドは脳の処理コストを下げる——は、人間が棚の前で選ぶときには効く。でもAIが候補を絞る段階では、人間の脳の処理コストは関係ない。AIにとっての「処理しやすさ」は、商品情報の構造化や口コミの量と質になる。

とあるコンビニに聖地巡礼!?コンビニの個店化が始まっている

「静岡から、聖地巡礼に来ました」。千葉県習志野市のセブンイレブン津田沼店を訪れた男性はそう話したらしい。奥さんの目的地は浦安のテーマパーク、旦那さんの目的地はなんと…とあるセブンイレブン。何かのアニメに使われたのか?ってわけではなく、このセブンが日本酒好きが知る人ぞ知る聖地になっているんです。

取り扱う日本酒は約100蔵、350〜400種類。こだわりの酒屋ですら敵わない圧倒的な品ぞろえ。日本酒だけでなく焼酎35蔵、泡盛47蔵、日本ワイン25社。コンビニの棚にこの数が並んでいる光景は、確かに「狂気」と言っていいかもしれない。

この店、もともと酒販店だった会社がセブンイレブンに業態転換。ただ、だから酒が多いのか、ではなく実は日本酒ラインナップが増えたのは最近。六代目の三橋氏が蔵元を一軒ずつ訪ねて直接取引を広げていった結果。

2016年頃、来店した日本酒好きが店内の様子を「狂気を感じるラインアップ」とSNSに投稿してバズり、一気に知名度が上昇。メディアからの取材が増え、知名度が上がったことで蔵元との取引もさらに進みやすくなるという好循環が生まれている。

他にもある、狂気のコンビニ

この「狂気のセブンイレブン」はビール版もある。横浜のハンマーヘッド内にあるセブンイレブンは、海外と国内のクラフトビールが大量に並ぶ日本トップクラスの品揃え。この店はクラウトビールが結構好きな僕も実際に訪れたことがあるのだが、あたり一面が国内外のクラフトビールという衝撃的な光景だった。多分数では日本一なのでは!?
この店、Instagramアカウントがあって、フォロワーは5,000人を超えている。ハンマーヘッド自体がインバウンド客も多い観光エリアなので、立地との相乗効果も効いている。

津田沼の日本酒セブンも横浜のクラフトビールセブンも、やっていることは同じ。チェーンのフォーマットという器の中に、個店としての専門性を詰め込んでいる。

コンビニが個店化する意味

コンビニは本来、均質性がビジネスモデルの核だ。チェーンストアモデルのまさにお手本であり、どこの店に行っても同じ商品、同じサービス、同じ体験。それが信頼の源泉であり、効率の根拠。均質だからこそ、どの店に入っても期待を裏切られない。それこそがコンビニが原理的に持つ価値である。
でもその均質性は、裏を返せばどの店にも「わざわざ行く理由」がないということでもある。最寄りのコンビニが選ばれるのは立地であって、店の個性ではない。津田沼のセブンイレブンは「わざわざ行く理由」がある店だ。静岡から来る人がいる。週末は駐車場が満車になる。地方から車で来る日本酒愛好家がいる。コンビニが「目的地」になっている。
これがコンビニの個店化だ。チェーンの看板と24時間営業というインフラは維持しながら、その中に専門店の深さを作る。均質性を壊すのではなく、均質性の上に個性を積むというのが特徴。均質性はある種の安心感にもなっている。そこでさらに個性を作っていくというイメージ。

敷居が低く、奥行きが深い

コンビニの個店化が面白いのは、入口の低さと奥行きの深さが両立すること。

地酒専門店は、日本酒に興味がある人しか入らない。敷居が高い。でもコンビニなら、日本酒をほとんど飲んだことがない人も普通に来店する。物見遊山できてピンとこなかったらアイスでも買って買えればいい。専門店は専門的になればなるほどハードルが高くなる傾向にある。しかし「個店コンビニ」は見かけはいつものあのセブンなんだから安心安全。これは結構デカい。

しかも24時間営業だから、飲食店の店主が閉店後に仕入れに来たり、大晦日に正月の酒を求めて人が集まったりする。酒販店では実現しにくい接点が、コンビニだから生まれる。

SNS時代だからこそ個店が見つかる

こういう店が「聖地」になれるのはもちろんSNSの力が大きい。この店もバズ投稿一発で知名度が変わった。コンビニは昔からあるけれど20年前にはこうした聖地は生まれにくかっただろう。個店としての魅力を発信するコストがほぼゼロになっている。

今後、こうした「名物コンビニ」が増える可能性はあると思う。酒に限らず、地元の食材に特化した店、インバウンド向けに振り切った店、スイーツの品揃えが狂っている店。チェーンの枠組みの中で、オーナーの偏愛や土地の特性を活かした個店が点在していく。全店舗でやる必要はない。一部の店が「目的地」になるだけで、チェーン全体のイメージにも厚みが出るから、チェーンもブランドアクションの一環で奨励するかもね。

野田秀樹の東大入学式祝辞から学ぶ。「新しいAI」は存在するが「若いAI」は存在しない

ことしの東大の入学式で述べた祝辞が面白いのでご紹介。読んだのは野田秀樹。劇作家・演出家・役者。東大文一に入学し演劇の沼にハマって6年かけて結局中退した人。「そんな中退者にお祝いの言葉を述べさせる大学側の大英断」と自分でネタにしていたけれど、この祝辞の中身はかなり面白い。

野田さんは舞台の人だ。演劇は身体芸術の最たるもので、俳優の身体がそこにあることが全てのスタート地点になる。声の震え、汗、呼吸、間合い。同じ台本を同じ演出で上演しても、毎晩違うものが立ち上がる。身体があるからブレがある。ブレがあるからこそ、その日だけの芝居になる。映像と違って録画して再生できない、その場限りの消えもの。舞台を愛する人は同じ舞台を何度も身に行ったりするよね。

3,000人×20年=6万年の記憶

野田さんは入学式の会場にいる約3,000人の新入生が、一人20年として合計6万年分の記憶を持っていると計算する。ひとかたまりにして6万年前と数えればホモサピエンスがアフリカを出て世界に広がった頃。なかなかの迫力だと指摘する。でもこの6万年分の記憶の中身は、ノーベル賞に直結しないものばかりだと笑う。小学生時代の道端の虫、拾った木の枝、汚いものを持ち帰って怒られた記憶。そんな「道端の記憶」で、記憶の化け物であるAIとバトルできるのかと。
できる、と野田さんは言い切る。AIの最大の弱点は「身体がないこと」だから。

「新しい」と「若い」は違う

祝辞の中で最も切れ味が鋭いと感じたのは、この一節だ。
新しいAIは存在する。でも若いAIは存在しない。AIには肉体がないから、老いることがない。古くはなるけれど、年老いることはない。新しくなることはあっても、若くなることはない。「新しい」と「若い」は違う。
これはかなり鋭い区別だと思う。「若さ」は身体の属性で、有限性が前提。生物特有のものだ。老いがあるから若さに意味がある。(あるいはその先に「死」もある)期限があるから「今」に重みが出る。AIはバージョンアップして新しくなるが、有限ではないから「若さ」という概念が成立しない。
身体があるから有限で、有限だから若く、若い身体からしか生まれない心があるということ。

「道端の記憶」が力を持つ理由

AIは記憶の化け物で、地上のあらゆる情報を食い尽くし、迅速に正確な答えを出す。効率、速度、正確さ。この土俵で戦えば人間は確実に負ける。

でも野田さんは、道端で虫を拾って怒られた記憶のような、一見役に立たない個人的な体験の中にこそ、AIに対抗する力があると言う。なぜか。人間の記憶には「心」が伴っているからだ。木の枝を拾った時の好奇心、怒られた時の居心地の悪さ、それでもまた拾ってしまう衝動。情報としては価値がないが、体験としてはその人の一部になっている。

AIの記憶は情報だ。人間の記憶は体験だ。情報は検索できる。体験は検索できない。身体を通して蓄積された体験の総体が、効率一辺倒の判断に対して「いや、それは違う」と言える直感を作る。

これはAI時代のクリエイティブ全般に通じる話だ。AIは結果を瞬時に生成できる。でもプロセスがない。試行錯誤がない。失敗がない。効率的に正解に到達することと、苦しみながら正解を見つけることは、外から見れば同じアウトプットに見えるかもしれないが、その過程を経た人間には経験という資産が残る。

不確実なものとしての身体

ハイゼンベルクの不確定性原理が示したように世界は本質的に不確実だ。そしてその不確実なものこそが私たちの身体であり、身体に根差す心だと。そして「若さ」はその不確実性を加速させる。身体性とそれに伴う心の揺らぎ。その中にある一見意味のないような経験の積み重なり。そこに人間の固有資産があるのかな。

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前週のマーケティングジャーニー!

私、Podcastもやってます!元テレビ朝日アナウンサー、現令和トラベル役員の大木優紀さんと2人でマーケティングトレンドや旅について(ほぼ)毎週30分~40分のコンテンツをお届け。

最新回では「超効率的な世界一周航空券の使いかた」についてトーク。インフレ加速し、原油価格も高騰しどんどん航空券は高くなる中で、うまく使えばコスパ抜群、でも使いかたがとても難しい「世界一周航空券」についてマニアのなんぼーが解説!

***

源泉かけ流し!今週のマーケティング関連トピックス(今週は12個ご紹介!)

次のフードブームに欠かせないのは?「ソーシャルメディア映えする美貌」を手に入れること。

抹茶ブームは完全に世界的なものになっているが、次に来るのは「ウベ」かも?
ウベも抹茶同様の強さを持っている。
コクのある甘みやナッツのような風味も強いが、その鮮やかな紫こそがヒットの秘訣。
紫の食品はなかなかない。
もちろん映える。
加えてアジア起源なことも(ウベは主にフィリピン)

【総広告費40億】きぬた歯科院長が「Xで他社の看板を添削」?つい伝えたくなった持論とは

日本の屋外広告活用におけるパイオニア(?)きぬた歯科院長の持論。
明言が多い。
>人はみな自分の人生を生きているので、広告なんて見ない
当たり前のように感じるが、この原則を忘れてしまう人が多い。
きぬた歯科が面白いのはこの原則の上で「場所の配置で衝撃を与える」ことの発明ですね。

「キャンセル料」の概念が消える? 東急不動産HDの“宿泊権リセールサービス”がホテルの業界課題を打破する

ホテルにとっても利用者にとっても悩ましいホテルのキャンセル料。
キャンセルできる高額プランか、キャンセルできない定額プランか…に
第三の選択肢として
「割安で宿を押さえ、行けない場合は売る」
プランが登場。
行けなくなった場合公式リセールサイトでリセールが可能。
そして希望する電子マネーかポイントで受け取れる。実際は裏側にNFTが動いているが、それを感じさせず、大きく打ち出すこともなく、ユーザーには第三の選択肢として提供する。
NFTのイイ感じの使いかたですね。

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  • 偏愛!なんでもインプット&ワールドコラム
  • 明日から効く!人生の糧になる書籍レビュー
  • 今週の1曲
  • 最後に!

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