大阪の下町商店街と融合するホテル&パフォーマンスとしての読書が世界に広がる

今週は19個のニュース、書籍1本、今週は海外!ではなく国内現地調査レポート!ということで大阪布施のSEKAI HOTELをご紹介。今週は16,687字でお届け。
南坊泰司 2026.03.17
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マーケティングトレンドインプット 今週のクイック解説3選

「パフォーマティブ・リーディング」——本が自己演出の道具になるのは良いこと?悪いこと?

僕自身の意見は、とっても良いことだと思っています。

カフェで難解な哲学書を読みながら、周囲を見回す人。TikTokやInstagramに小説を持ったポートレートを公開する、こうした「気取った読書家」を演出として使う人が増え、そうした人たちを揶揄する動画も増えている。2冊同時に読んでいたり、本を逆さに持っていたり。要はパフォーマンスとしての読書、ってどうなのって話。

インフルエンサーやセレブの中には休暇中の写真に映り込ませる本を選ぶためにブックスタイリストを雇ったりする人もいるそうだ。本が知識を得る道具ではなく、自分の美意識や価値観をアピールする小道具になっている。

AIが本の「情報としての価値」を結果的に高めている

この現象が今起きているのは、AIの拡大と無関係ではないだろう。

ChatGPTに聞けば1分もかからず知識がポンと出力される時代に、わざわざ紙の本を手に取り、数時間から数日かけて一冊を読み通すという行為自体が「不便益」に該当するアクションになっている。本の情報的な価値はAIで代替できる、そう感じる人が多いのも無理はない。確かに「サピエンス全史」の上下巻を読むのが面倒であれば、主要な論点やあらすじはあらかた出力される。だからこそ、「時間をかけて原典に向き合う」という行為に希少性が生まれはじめている。読書人口が減れば減るほど、読書している姿はレアになる。レアであればあるほど、アピールとしての価値も高まっていく。皮肉な構造と言えるかも。

「偽物か本物か」は問いとしてあまり生産的ではないかもしれない

ネタ元として記載しているWIREDの記事では、パフォーマティブ・リーディングはかなり批判的に扱われている。本を読んでいる姿を見せることが「自分を商品化したマーケティング」になっている、と。
ただ、僕はこの「本物か偽物か」という議論は正直どっちでもいいと思っている。

そもそも読書は昔からパフォーマティブな側面を持っている。書斎に偉大なる著者の全集を並べるのは知識人の定番なわけだし、いつだって本を読むのは大変で、知的なイメージを有している。SNS以前からそうであることは変わっていなくて、SNSがやったのは広がりやすくしただけ。

仮に動機が「誰かに見せたい」から始まったとしても、実際に読み始めれば読書の体験は発生する。仮に最初の数十ページで放り出してもだ。カフェで映える写真を撮るために買った本を、結局面白くて最後まで読んだ人もいるはずだし、入口がパフォーマンスでも、出口が知的体験になることも普通にある。

この時代に本が生き残るために

本が「持っていること自体がアイデンティティの表明になる」ステータスを獲得しつつあるなら、それは本にとって悪い話ではない。

レコードが音質ではなくライフスタイルの一部として復権したのと似ている(レコードの売上高はこの数年右肩上がりだ)。機能的にはサブスクで十分だけれど、レコードを買い、ジャケットを飾り、針を落とす行為自体が価値。情報を指示して引き出すならAIでもいい。ただ血肉にすること、あるいは物体としての存在感、それを手に取る時間の贅沢さ、読んでいる自分。それらが価値でもいいでしょう。パフォーマティブであれ何であれ、本に触れる人が増えること自体は入口として意味がある。

この情報が瞬時に手に入る時代に、本が生き残っていくことはどんな形であってもいいことだと思う。読む動機が「見せたい」でも「知りたい」でも「暇だから」でも、ページを開いた瞬間に読書はなんだかんだ始まるものだから。

ケンタッキーの挑戦。「買って帰る特別な日」から「日常的に食べに行く場所」への転換は成功するか

ケンタッキーがブランドの大規模リニューアルを発表。新タグラインは「しあわせに、ガブッ。」。2030年までに店舗数を現在の1,339から1,700へ拡大し、テイクアウトやクリスマスなどの「ハレの日需要」中心のイメージから、日常的に利用されるブランドへの転換を図る、とのこと。

ケンタッキーと聞いて多くの人が思い浮かべるのは、クリスマスのバーレルか、何かの記念日にみんなで食べるために買って帰るチキンだろう。このイメージは強力なブランド資産であると同時に、ケンタッキーが更なる成長を目指すなら限界にもなっている。「特別な日に買って帰る」ブランドは、普通の日にはいかない。だって特別なんだから。

マクドナルドやスターバックスのように「週に何度か行く場所」にはなれていない。更なる成長を目指すなら、利用頻度の向上を目指すしかない、のはシンプルな数字の話だ。

店舗設計で「行動」を変える試み

今回のリニューアルで注目すべきは、メニューの話よりも店舗の話。

次世代モデル店舗が4月にオープンするらしい。外観・内装をモダンに刷新し、1人利用から家族連れまで対応できる客席設計で既存店舗の売上2倍を目指すという野心的な挑戦。

そもそもケンタッキーはハレの日のイメージだけでなく、テイクアウトのイメージでもある。店舗があんまり稼働していないのが現状ということ。テイクアウト前提で作られた店舗も多い。そうなると、そもそも「ここで食べよう」と思わせる空間でもなければ、使いやすい空間でもない。なのでイートインを増やすやめに「ハコ」から変えていくアプローチをとっている。

モーニングやスナックなど時間帯に合わせたメニュー展開も検討し、バーガーラインアップも秋に大規模リニューアル、バーガーの売上構成比を現在の1.5倍以上にする目算。「チキンを買って帰る店」から「一日のいろいろな場面で使えるファストフード」へ変換するというなかなかハードな挑戦がスタートするわけだ。これは注目。

「ハレの日ブランド」を脱ぐことのリスク

ケンタッキーの「特別な日に食べるもの」というイメージは、長年かけて蓄積された強力なブランド資産。クリスマスにケンタッキーを買うのは実は日本固有の文化らしく海外の方に言うと驚かれる。確かに海外のKFCは日常使いの場所だったりする。

ただ「特別な日の場所」と「日常使い」はかなり対極に位置するイメージ。それを空間設計・ブランド・商品の三位一体で少しでも変化させられるのか。かなり難しい挑戦にはなるだろう。

既存のブランド資産を変える判断は「変えることで得るもの」と「変えることで失うもの」の両方を見なければならない。「しあわせに、ガブッ。」というタグラインは日常感を出しつつも「しあわせ」というワーディングを見ると、(日本の)ケンタッキーの持つ食べる喜び的な感情を残すという思いを感じる。

社長は今回のリブランディングを「第2創業」と表現している。確かにそれぐらいのチャレンジになるだろう。クリスマスのバーレルという無二の資産を持ちながら、日常のスナックでも選ばれるブランドになれるか。

動画広告1兆円突破、検索連動型のシェア低下——2025年日本のインターネット広告費によせて

電通デジタルが発表した「2025年 日本の広告費 インターネット広告媒体費 詳細分析」。

全体像をみると2025年の日本の総広告費は8兆623億円で5年連続成長、4年連続の過去最高更新。インターネット広告費は4兆459億円で、総広告費に占める構成比が初めて50%を超えた。ネット広告が伸びている、という話はずっとされていたが日本の広告市場の過半数を占める時代に正式に突入。(もちろんそのまま伸びていくだろう)そして注目するべきはその中身。

インターネット広告媒体費3兆3,093億円の内訳で、動画広告が前年比121.8%の1兆275億円に達し、集計開始以降初めて1兆円を突破した。一方で検索連動型広告は構成比38.7%で最大カテゴリではあるものの、動画広告に猛烈に追い上げられている(動画広告は30%)。検索から動画へ、という構図がはっきりしはじめている。

「検索する」という行為自体が後退しているのか

デジタルマーケティングの王道は長らく検索連動型広告だった。ユーザーが自分の欲求を検索エンジンに打ち込む。その瞬間を狙い撃ちする。ニーズが顕在化しているから効率よく刈り取れる。数字で貢献が出る。ああなんて成果がわかりやすい。こうしてオンラインの「測れる広告」は広告業界に革命を起こした。

いま、この前提が崩れつつある。

消費者は検索することに疲弊している。何かを調べても、SEO対策されたアフィリエイト記事が並び、WEBにアクセスすればブラウザバックをハックして広告が誘導される。大画面にどこで消せばいいのかわからない広告が覆い尽くし、スマホでは誤タップを狙う。まともに「ネットサーフィン」することが難しく、本当に信頼できる情報に辿り着くには膨大な労力がかかるようになった。

代わりに人は何に時間を使っているか?それはSNSに流れる動画のタイムラインだ。画面をスワイプし、アルゴリズムがレコメンドしてくる動画を受動的に浴びる。文字を入力する手間はない。変な情報も多いけれど、少なくとも大量生産されたSEO対策記事よりは中身があるように感じる。そしてそのまま流れてきた15秒の動画で魅力的な商品に出会い、そのまま決済を終えている。以前取り上げたマーケティングファネルの圧縮とも通じる話である。

マーケターとして何を考えるべきか

検索連動型広告は「終わった」わけではない。構成比38.7%は依然として最大のカテゴリだし、BtoBや高関与商材では検索の重要性は変わらない。ただし、検索だけで戦っている企業は確実にリーチできる市場が縮小していくのは事実だろう。日用消費財やアパレル、飲食では、検索以前の接触機会、つまりタイムライン上での出会いの設計までがマーケティング戦略上重要になっている。

動画広告の伸び自体はSNS上の縦型ショート動画が牽引している。TikTok、Instagram Reels、YouTube Shortsといったプラットフォームが広告の主戦場のひとつになっている。短尺で心を動かせないクリエイティブが重要になる。

この構造変化の中でブランドをどう守るかも厄介な命題だろう。アルゴリズムに最適化された運用型広告で15秒の衝動のトリガーを引きながら、ブランドのマインドシェアを高めるアクションも並行する必要がある。

データが突きつけているのは、マーケティングの主戦場が「顕在化したニーズの刈り取り」から「無意識の領域への直接的なアプローチ」の掛け算へ移行しているということ。複雑化は進行する一方だろう。

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前週のマーケティングジャーニー!

実は私、Podcastもやってます!元テレビ朝日アナウンサー、現令和トラベル役員の大木優紀さんと2人でマーケティングトレンドや旅について(ほぼ)毎週30分~40分のコンテンツをお届け。

最新回では久々に旅の話題!事前準備で旅を何倍も楽しくするちょっとした裏ワザ。海外旅行も日本旅行でも使えるTipsをご紹介~。

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源泉かけ流し!今週のマーケティング関連トピックス(今週は19個ご紹介!)

WBC中継にオードリー出演CM 検索爆増の知られざる専門商社とは?

NetflixでWBCを見ているとスポンサー以外にめっちゃ流れるCM、渡辺パイプ。
オードリーが替え歌を歌いながら社名を連呼する内容。
実は創業以来初のCMを2月末からスタートしていて、その流れでNetflixのCM枠も流している。
BtoB企業の認知向上は難しいがポイントを絞って集中投下するのは賢い手法。

キューサイが「顧客の声」でマーケ大改革 AIで広告制作まで一気通貫

青汁のキューサイ。
大手通販商品会社として大量の顧客の声(VoC)を持っている。
これをAIでテキストマイニング。
例えば「アウトドアでキャンプをした日の朝、コーヒーの代わりに青汁を飲む」などのニッチ利用例を発見
→デジタルマーケに反映する
「声の大きい意見」に流されないアプローチ。

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続きは、11291文字あります。
  • 現地調査レポート:大阪・布施|SEKAI HOTEL——「観光地じゃない街」に人を泊める、商店街まるごとホテルの設計
  • 明日から効く!人生の糧になる書籍レビュー
  • 偏愛!なんでもインプットコラム
  • 今週の1曲
  • 最後に!

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