売れる食品の表現は食感の言語化&AI不使用と明記することが消費者的にポジティブに

今週は18,525字。なぜ「悪魔の」より「ふわとろ」が選ばれるのか。なぜ「AI不使用」が売り文句になるのか。なぜフラットにしたロゴが5年で元に戻るのか。抽象が退いて、手触りのある具体が戻ってきている。パリの美術館、SaaS開発。そのあたりを行ったり来たり。20個のニュース、書籍は福尾匠『置き配的』、1曲はIVE。京セラ2daysの余韻がまだ残っています。
南坊泰司 2026.04.21
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マーケティングトレンドインプット 今週のクイック解説3選

「ふわとろ」が「極上の」に圧勝する理由。食感の言語化が選ばれる時代

「ふわとろ」が「悪魔の」に圧勝する理由——食感の言語化が選ばれる時代

ホットペッパーグルメ外食総研の調査で、外食メニューを選ぶときに「惹かれる表現」のランキングが出ていた。
1位は「ふわとろ」と「極上の」が同率で33.3%。以下「とろける」29.6%、「もちもち」27.8%、「とろとろ」26.9%、「とろーり」26.7%、「もっちり」26.4%、「サクサク」26.1%と続く。
上位をほぼ食感表現が独占!
一方で「悪魔の」は23位の8.9%、「天使の」は27位の5.2%、「気まぐれ」は30位の4.1%、「恋する」は31位の3.0%。かつてSNSで一世を風靡した抽象的なネーミングは軒並み下位に沈んでいる。

抽象から具体へ、の必然

「悪魔のおにぎり」がローソンで大ヒットしたのは2018年。あの頃は抽象的で大げさなネーミングが新鮮だった。「悪魔的なおいしさ」という言い方は、具体的な味の説明を飛ばして「とにかくヤバい」という感情だけを伝える。SNSで共有するときにもキャッチーで、話題にしやすかった。

でもあれから8年経って、消費者の反応は変わっている。「悪魔の」と言われても「で、何味なの?」が先に来るようになった。具体性が求められる。

背景にあるのは、物価高による「失敗したくない」意識だろう。外食の単価が上がっている中で、メニューを選ぶ行為自体がリスク判断になっている。1,500円のランチで「気まぐれサラダ」を頼んで想像と違うものが来たら、その1,500円は取り返せない。「ふわとろオムライス」なら、少なくとも口に入れたときの感触が想像できる。期待と現実のギャップが小さくなる。

タイパ意識も効いている。メニュー表を眺める時間は長くない。「悪魔的なおいしさ」は読んでも具体的な情報がゼロで、理解するのに一瞬の脳内変換が必要になる。「サクサクのチキン」は変換不要。食べたときの感覚がそのまま立ち上がる。情報伝達の効率が全く違う。

食感表現は「脳内試食」を起動する

ここが面白いところで、「ふわとろ」「もちもち」「サクサク」のようなオノマトペは、読んだ瞬間に身体的なシミュレーションを引き起こす。口の中の感覚、噛んだときの抵抗感、舌の上での溶け方。言葉を見ただけで、脳が勝手に食べる体験を再生し始める。

「極上の」「至極の」のような最上級表現も上位には入っているが、これらは品質の保証であって体験の再生ではない。「極上のプリン」と言われたとき、脳は「良いプリンなんだろう」と判断はするが、食感は想像しない。「スプーンからこぼれるとろけるプリン」なら、口に入れる前の瞬間まで想像が進む。

つまり食感表現は、言葉が「情報」ではなく「体験のプレビュー」として機能していると言えるだろう。これは先週書いたブランド認知の神経科学の話とも通じる。知っているブランドは脳の処理コストを下げるという研究があったが、食感表現も同じ方向に働く。「もちもち」と書かれた瞬間、消費者は「これがどういう体験か」を考えるコストをほぼゼロにできる。身体が勝手に理解してくれる。なんなら想像して幸せな気持ちにもなる。

なぜ「触感」なのか

視覚的な訴求(写真、盛り付け)や味覚的な訴求(辛い、甘い、濃厚)ではなく、触感が上位を独占しているのは、たぶん偶然ではない。

味は食べてみないと分からない。見た目は写真で伝わるが、実物との差がある。でも食感は、言葉だけでかなり正確に伝わる。「サクサク」と書かれていてグニャグニャだったら明確に裏切りだが、「絶品」と書かれていて普通だった場合の裏切りは曖昧になる。食感表現は「商品としての約束」の精度が高い。

しかもオノマトペは文化的なコードが共有されている。日本語は食感のオノマトペが異常に豊富な言語で、「もちもち」と「もっちり」の微妙な差を感覚的に理解できる人が多い。この言語的な資産が、食感マーケティングの土壌になっている。海外でも食感系は人気になっているが、日本のこの広がりは唯一無二だろう。

外食に限らず、コンビニの商品名、スーパーの総菜POP、冷凍食品のパッケージ。食感の言語化は、消費者が「これは自分が求めている体験かどうか」を判断するための最短ルートになっている。「雰囲気ネーミング」で興味を引く時代から、「体験の事前再生」で納得させる時代へ。棚の前の数秒間で何を伝えるかを考えるなら、抽象的な形容詞よりオノマトペのほうが強い、というのがこのランキングの結論だと思う。

「AIを使っていません」が売り文句になる時代——スロップへの嫌悪が生んだ逆転現象

アメリカン・イーグル傘下の下着ブランドAerieが「私たちは約束します。AIで生成された身体や人物は一切使用しません」と宣言したらしい。
広告では女優のパメラ・アンダーソンがチャットボットにモデルの生成を指示する場面が流れ、最後に「実は全員本物の人間でした」と種明かしされる。AIをネタにしつつ、自社がいかにリアルなのか、を説明する流れ。Aerieはもともと、2014年から広告写真のレタッチをしないことを公約していたブランドでボディポジティブの文脈をもともと持っている。CMOは「私たちのDNAはリアルさ。ストレッチマークを消したりしない」と語っていて、AI不使用の明言はその延長線上にある。

これはAerieだけの動きではなく、アーモンドブリーズはジョナス・ブラザーズを起用した広告で、AIが作ったダサい広告案を見せて笑いものにするキャンペーンを打っていてフィットネスブランドのEquinoxも同様に反AI的なクリエイティブを展開している。Apple TV+の一部番組ではエンドクレジットに「This show was made by humans」と表示されるようになった。

「AIを使っていない」ことを明言することが、ブランドのポジティブなシグナルとして機能し始めている。果たしてこの現象は今だけなのか、これからも続くのか。

消費者の嫌悪感は数字に出ている

ガートナーの調査によると消費者の68%が「目にしているコンテンツが本物かどうか」を日常的に疑っている。そして50%が「マーケティングに生成AIを使用していないブランドにお金を使いたい」と答えている。ソフトウェア企業Cintの調査でも、63%の消費者が「ブランドにはマーケティングでAIを使用した際の開示義務がある」と考えている。

Tracksuit社の6,000人超の米国消費者調査では、AI生成広告への感情は39%がネガティブ、36%がニュートラル、ポジティブは18%にとどまった。驚くべきことに「AIを使っている」ことが購入にも影響してしまうことだ。

この数字の背景にあるのは、SNSフィードに溢れる「スロップ」だろう。AIで粗製乱造されたコンテンツ——不自然な手指、ぎこちない表情、感情の通わない映像。毎日のようにそれを目にしている消費者が、ブランドの広告にも同じ匂いを嗅ぎ取ったとき、嫌悪感を抱くのは当然かもしれない。また、クリエーションに関してAIが入り込むことにも根強い嫌悪感がある。昨今ゲーム会社などは「どこでAIを活用しているのか」を明言しないと叩かれることがある。

Link in Bioニュースレターの著者Rachel Kartenが言っている指摘が鋭い。「実際にAIかどうかより怖いのは、本物のコンテンツまでAIだと疑われるようになっていること」。AI不使用をわざわざ宣言しなければ、本物であることすら信じてもらえない。Instagramのアダム・モッセリも「フェイクメディアより、リアルメディアにフィンガープリントを付けるほうが実用的になるだろう」と語っていて、真偽の証明責任が「偽物を見つける側」から「本物を証明する側」に移りつつある。

2025年のAI広告炎上が地ならしした

この流れには助走がある。2025年はAI生成広告の炎上が相次いだ年だった。マクドナルドのオランダ法人がAI生成のホリデー広告を出して批判を浴び撤回。コカ・コーラのAIトラック広告も視覚的な違和感を指摘された。MetaのAI広告プラットフォームは、広告主が選んだクリエイティブを勝手にAI生成コンテンツに差し替えて問題になった。H&MがモデルのAI「デジタルツイン」を使い、肖像権や雇用の倫理が問われた。ヴォーグのAIモデルキャンペーンは非現実的な美の基準を助長すると批判された。

業界メディアのDesignRushは、こうした炎上に3つのパターンを見出している。コスト削減のメリットが風評被害で帳消しになること。レガシーブランドほどAI実験への批判が厳しいこと。そしてラグジュアリー消費者がAIを最も即座に拒絶すること。
消費者はAI生成コンテンツの匂いを嗅ぎ分けるリテラシーを急速に身につけ、ブランド側もそれに対応し始めた。「AI臭さ」は笑いものになるレベルで消費者の中であたりまえになりつつある。

制作過程での使用と、アウトプットの使用は別の話

Aerieが宣言しているのは「AIで生成された身体や人物は使わない」であって、「制作過程で一切AIを使わない」ではない。ここの区別はかなり大事で、アイデア出し、コピーの叩き台、データ分析、ターゲティングの最適化といったバックエンドでAIを活用することと、最終的なアウトプットとして消費者の目に触れるコンテンツをAIで生成することはもちろん違う話。

消費者が嫌悪しているのは後者で、自分が見ている画像や映像が「人間が作ったもの」ではないと感じたときの不信感。前者については、そもそも消費者が認知する場面がない。

だから「No AI」宣言がマーケティング的に効くのは、消費者が直接目にするクリエイティブに限定されている。ブランドが裏側でAIを効率化ツールとして使うこと自体は、今後もなくならないし、なくす必要もないだろう。

「人間が作った」がプレミアムになる未来

オーガニック食品のラベルが「農薬を使っていません」と表示するのと同じ構造が、広告やコンテンツの世界に生まれつつあるってことなんじゃないだろうか。かつては全部が人間の手で作られていたから表示する必要がなかった。AIが普及したからこそ「人間が作った」がわざわざ明示すべき価値になった。

これはある意味で皮肉な状態。テクノロジーが進歩した結果として「テクノロジーを使っていないこと」が差別化要因になっている。消費者の反応を見ると、これは一過性のトレンドではなさそう。どう考えてもスロップコンテンツは増え続ける。そうなると「手作り」「人間が作った」「リアル」の希少価値は上がる。

カミナシの「インサイト駆動開発」→顧客の声をいったん"希釈"する発想

開発の現場で「顧客の声を聞け」は鉄則であり、その点に関して誰も異論はないだろう。

でも実際にやってみると、顧客の声をそのまま開発に反映するのはなかなかの難事になる。ある顧客が「この機能が欲しい」と言う。別の顧客は「こっちのほうが大事」と言う。声を集めれば集めるほど、どれを優先すべきか分からなくなる。結局、一番声の大きい顧客か、一番多く顧客に会っているPdMの判断で決まる。カミナシの設備保全チームは、この問題にかなり正面から向き合った開発スタイルを構築していて面白い。彼らが言うのは「インサイトがなければつくらない」。

n=1の声をどうサービス全体に適用するか

カミナシ自体は「現場ドリブン」を掲げていて、全社員が現場を訪問するカルチャーを持っている。設備保全チームだけで100回以上の現場訪問をしているらしい。普通に考えればこれだけ訪問していれば十分ユーザーを理解できそうだが、チームはそれだけでは足りないと考えた。

理由はシンプルで、各メンバーが触れられる顧客の数には限界がある。プロダクトが拡大するとユースケースも増える。すると、同じチーム内でも想像している顧客像がズレ始める。同じ話をしているつもりで、実は頭の中にいるサンプルが違う。お客様はひとりひとり違うのだから。

この状態が続くと「一番お客さまに多く触れている人 is King」になる。PdMが「これをつくる、なぜなら顧客はこうだから」と言えば、他のメンバーは「本当か?」と思いつつも「自分はそこまで顧客に会えていないし」と従う。PdMのお気持ち駆動になってしまう。n=1の声が、たまたまその人の記憶に残っているだけの理由で、サービス全体の方向が決まる恐れ。
これはSaaSに限った話ではない。マーケティングでも同じ構造がある。「ユーザーインタビューで○○という声がありました」が、そのまま施策に直結するケース。n=1の声が全体の代弁者として扱われてしまう危うさ。

「希釈」というプロセスが効いている

カミナシの設備保全チームがやっているのは、顧客の声をいったんインサイトに「希釈」すること。

具体的にはこう。
現場訪問で集めたユースケースを、議事録のままにせず、誰でも文脈がわかる一文のファクト情報に加工する。複数のファクトから共通項を抽出して、業務におけるインサイトを取り出す。それを業務フロー図にまとめて、チーム全員で眺める。
ここで大事なのは、PdMやデザイナーが「説明する」のではないこと。各人がインサイトを眺めながら、紐付いた生データを見て、自分の中で咀嚼していく。
つまり、個別の顧客の声をそのまま「この機能を作ろう」に変換するのではなく、複数の声を一度抽象化し、業務全体の中に位置づけ直してから、ソリューションの議論に入る。生の声を希釈して、構造として見えるようにする。

この「希釈」のプロセスがあるから、特定の顧客の声に引っ張られない。チーム全員が同じインサイトを共有しているから、PdMの個人的な確信に依存しない。結果として、過去2年間で手戻りはほぼゼロ、リリース後に機能を削除したことは一度もないという。

顧客の声を聞くな、という話ではない。聞いた声をそのまま反映するな、という話でもない。聞いた声を、一度インサイトとして希釈し、業務全体の文脈に置き直し、チーム全員が腹落ちしてから動く。この「希釈」のステップを飛ばしたときに一度だけ手戻りが発生した、というエピソードが逆説的に全体の説得力を高めている。

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前週のマーケティングジャーニー!

実は私、Podcastもやってます!元テレビ朝日アナウンサー、現令和トラベル役員の大木優紀さんと2人でマーケティングトレンドや旅について(ほぼ)毎週30分~40分のコンテンツをお届け。

最新回では「マーケティングヘッドライン」。

▼今週のキーワード

おすすめ欄の変な日本語/謎日本語/Grokの自動翻訳と世界的なバズ/佐世保の米軍基地とBBQのイラスト/SNSのガラパゴス状態の終焉/意図しない炎上のリスク/シリコンバレーの制服/オールバーズの時価総額99%減/HOKAやOnの圧倒的な機能/サステナビリティと差別化の限界?/パタゴニアのアウトドアでの信頼/スタバの敵は1リットルコーヒー/神谷町のマンモスコーヒー/約400円で940ミリリットル/夕方までのズルスル/極寒のソウルでもアイスアメリカーノ?/レッドオーシャンのど真ん中/アットコスメの成分検索/レチノールやリポソーム化/デパコスとドラッグストアの中身は同じ?/成分リテラシーの向上/難しいカタカナの安心感/旅行先の一足/無名ブランドの下剋上?/新しい信仰先

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源泉かけ流し!今週のマーケティング関連トピックス(今週は20個ご紹介!)

もっと多くの人に特茶を飲んでもらえるようにと、​デュオくんがポスターを作り替えてくださいました…​

duolingo×特茶のコラボ屋外広告、
二段階式のプロモーションになってる。
一段階はカワイイ純粋に内容を伝えるポスター。
しかしデュオくんの真骨頂は喜怒哀楽を素直に表現するエグみ。二段階目ではデュオくんがPUSH通知で迫ってくるキャラクターを物理的に再現。
めちゃくちゃいいナラティブ活用。

「ナイキ 新宿」ACGアイテムを常設、限定グッズ&Tシャツカスタマイズも

オープンしたナイキ新宿、階段の過去のナイキポスターがひたすら貼られているのが美術館のようでめちゃめちゃ良い。
そして「just do it」が「ジャストドゥーイット」になってるTシャツも。

年齢は単なる数字に過ぎない:4​​0歳以上の女性によるエレクトロニック・ダンス・ミュージックへの継続的な参加

博報堂の未来洞察に関するプロジェクト資料。
不確実性を取り込んだ未来の兆しを踏まえてアクションをデザインする発想法のプロセスを細かく公開している。
未来の兆しと事象を作成し
→そこから未来のアイデアを発想
→アイデアを統合してシナリオに昇華する
イメージ。

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続きは、11174文字あります。
  • 海外現地調査レポート:パリ|カルティエ現代美術財団——展示が街ににじみ出て、内部では混ざり合う美術館
  • 明日から効く!人生の糧になる書籍レビュー
  • 偏愛!なんでもインプットコラム
  • 今週の1曲
  • 最後に!

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