AIのAIっぽくない冴えた使いかた&MLBのアパレルが韓国で魔改造されてる
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マーケティングトレンドインプット 今週のクイック解説3選
AIのAIっぽくない冴えた使いかた 時間をさかのぼるラジオ

最近見かけた事例の中でかなり好きなAIの使いかたをしているデバイスを紹介したい。
ニチイ学館が介護施設への導入検証を始めた「RADIO TIME MACHINE」。TBWA HAKUHODOが開発したAIラジオ機器で、仕組みはめっちゃシンプル。1950年代ラジオをモチーフにした筐体にダイヤルがついていて、回すと1950年から2025年まで1年刻みで針が動く。聴きたい西暦に合わせると、その年の「今日」のニュースとヒット曲がラジオ番組風の音声コンテンツとして流れてくる。コンテンツはAIが毎日自動生成している。
たとえば3月5日に1950年を選ぶと、湘南電車の完成ニュースが語られ、音楽では高峰秀子の「銀座カンカン娘」が流れる。一瞬でラジオを通じて時間旅行ができてしまう。
介護施設の課題を解く一石二鳥のエンタメ機器
介護や医療の現場には「回想法」という手法があるらしい。
昔の音楽や写真、出来事に触れることで過去の記憶を刺激すると、精神の安定や認知機能の維持につながる。お年寄りは昔のことをよく覚えている。それをキーに脳を刺激することで活性化するということ。この効果自体は広く知られているが、現場で簡単に実現するのは難しい。利用者ごとに世代が違えば必要な素材も違うわけで、これまでは実現しようとおもったら素材を探して準備して、会話を引き出して、それを毎日やる、みたいなことをやる必要がある。なかなか人力で行うことは現実的ではない。
RADIO TIME MACHINEはコンテンツの生成と更新をAIに任せ、現場の準備コストをほぼゼロに。ダイヤルを回すだけだから利用者自身が操作できるので運用コストも非常に低い。UXが直感的だから説明もシンプルでよさそう。
事前実証でも結果が出ているみたい。使用前は自分の両親の名前や昔の勤務先を思い出せなかった利用者が、当時のニュースやヒット曲を聴いた後に同じ質問をされると即答した、という驚きの事例。表情解析では笑顔の値が平均8.7%上昇、身振り手振りが10%増加、1分あたりの発話量が10.8語増加。記憶が刺激されると、それを誰かに伝えたくなる。伝えようとすると身体も動くってことみたい。

アナログの皮を被ったデジタル
この事例がUXとしてもすばらしいのは、AI生成コンテンツを「ダイヤル式ラジオ」というインターフェースに収めていること。
介護施設の利用者にとって、タブレットやスマートスピーカーは馴染みが薄い。でもラジオのダイヤルを回す動作は年代的に身体に染みついている。操作の学習コストがほとんどゼロ。しかも「ダイヤルを回して周波数を合わせる」という行為自体が、利用者の若い頃の記憶とつながっている。デバイスに触れる行為自体が回想法につながっていると言えるかも。
技術的には生成AIを存分に活用していても利用者から見ればただのラジオ。このアナログとデジタルの接続がうまいんです。ていうか普通に高齢者じゃなくてもこのラジオ、ほしくないですか?
「AIっぽくない」AIの使い方
このプロジェクトがイイのは、AIを使っているところが利用者にとってはさりげないところ。
このUXであれば利用者は「AIが生成したコンテンツを聴いている」とは思わない。昔のラジオを聴いている感覚に近い。AIは裏方に徹していて、表に出てくるのは体験だけ。テクノロジーが見えないほうが体験としては強度が高いと思うんです。
生成AIの活用事例は山ほどあるが、「現場の課題解決」「使う人のリテラシーを問わないUX」「テクノロジーが裏方」の3つが揃っているものはそう多くない。
値がつかない本が、体験設計で「売り物」になる
銀座ソニーパークで2月に開催されたイベント「本の公園」が面白い。
仕掛けたのは古本のオンライン買取・販売大手バリューブックス。銀座ソニーパークの地下2階に約2万冊の古本を並べ、誰でも自由に入って好きなだけ古本に触れ、読める空間を作った。入場は無料。座って何時間読んでもいい。気に入った本があれば、1,800円のオリジナルトートバッグを買えば5冊まで持ち帰れる。
実はここに並んでいる本、本来なら値がつかなかったものなんです。バリューブックスには毎日約3万冊の本が全国から届くが、そのうち約半分には値がつかず古紙回収に回ってしまう。値がつかない理由は本の傷みや内容の良し悪しだけでなく、例えば有名な賞を取った作品は短期間に何万部も売れて、しばらくすると大量に古書として出回ってしまうので需給バランスが崩壊し、どうしても値が付かない、なんてことがある。
いずれにせよ「本の公園」に置かれていたのは、市場原理上は値が付かないと判定されてしまった本たち。
体験設計が「モノの価値」を高めている

結果はどうなったか。初日に用意した約2万冊があっという間になくなり補充が追いつかない事態に。もともと「トートバッグに何冊でも詰め放題」だったのが、4日目から5冊制限に変更。普通ならそこで客足が引くところか…と思いきや、入場者数は大きく減らず。SNSでの拡散が止まらず、開催期間中ずっと大盛況のイベントに。
冷静に考えてみると不思議な話で、同じような本はブックオフにも大量にあるし、値段はもっと安い場合もある。なのになぜこのイベントは大盛況なのか。
答えは体験設計の秀逸さ。
まず空間。銀座ソニーパークは普段アートやテクノロジー系のイベントをやっている場所であり、書店ではない。そこに大量の本があるという意外性。本棚が整然と並ぶ書店とは違い、雑然と置かれた本の山の無骨さはあれど、それも面白さにつながる。まさに公園のように自由に歩き回って掘り出し物を探す感覚。この「ディグる楽しさ」が体験の核。
ほとんどの古本が「1点~数点モノ」である希少性も体験を刺激している。2万冊は多いようで、人気のある本はすぐなくなる。少し目を離すと気になっていた本が消えている。通常の書店では起きない緊張感が生まれてるのが面白い。
5冊制限があることも希少性と相まってゲーム性を高めている。そもそも最初の詰め放題より、この制限後の方がイベントとしては面白くなっていたかもしれない。詰め放題だと考えなしに突っ込むが、5冊に絞るとなると真剣に選ぶ。数万冊の中から自分の5冊を選ぶという行為がゲーミフィケーションになっていて、選ぶプロセス自体が体験価値なのだ。
1,800円のトートバッグを買うと5冊持ち帰れる。1冊あたり360円と考えると古本としては実は高い値段な気もする。でも利用者はたぶん「1冊360円の古本を5冊買った」とは思っていないだろう。「このイベントの中で自分だけの5冊を見つける体験(とトートバッグ)」に1,800円払っているってこと。

実は銀座に書店がほぼなくなっている。街で本に触れる場所自体が激減しているからこそ、「本に囲まれて好きなだけ読める場所」に希少価値が生まれたのかもしれない。
サッポロ黒ラベル「20代6割増」の裏に何があるのか——コラボ戦略だけでは説明できない構造を考える
サッポロビールの黒ラベルが好調。直近10年で20代の購入者数が約6割増はかなりの質的変化が起きている。2025年の販売数量は過去10年で最高を記録。缶の出荷実績は2014年から11年で1.54倍。めっちゃ盛り上がってます。「若者のビール離れ」は不可逆の現象の中でスゴイの一言。
上記の日経クロストレンドの記事では、その成功要因としてミハラヤスヒロやヨウジ ヤマモトなど強いドメブラと本気で作ったコラボスニーカーや、大人エレベーターのCMシリーズ、銀座の体験型イベントなどが紹介されている。「一目置かれる大人が選ぶ」という世界観が若者に刺さった、というストーリー。
正直なところ、3万円のコラボスニーカーでビールの売上が6割も伸びるかというと、さすがにそれだけでは説明がつかないよな…ということでいろいろ調べて考察。

そもそもの業界の追い風について
前提として黒ラベルの好調期と酒税改正のタイムラインがかなり重なっている。
2020年10月に第1段階、2023年10月に第2段階の酒税改正があり、ビールの税額は350ml缶あたり77円から63.35円に段階的に低下。2026年10月にはさらに54.25円まで下がり、発泡酒・新ジャンルと税率が一本化される。逆に第三のビールは37.8円から46.99円に上がり最終的には54.25円、つまりビールと同じになる。
つまりビールは安くなり、新ジャンルは高くなっている。酒税回避のために生まれた新ジャンルが有名無実化する現象が起きており、ビール会社各社は通常ビールのライン強化をしたり、第三のビールをビール化するなどのアクションに追われている。安さが魅力の第三のビールが値上がりすれば当然ビールカテゴリには移行する。これ自体はビールカテゴリー全体への追い風であって、黒ラベル固有の話ではない。
もうひとつがコロナ禍の「家飲みシフト」。家飲み需要自体が定着する中で、価値観の多様化も相まって自分が飲みたいビールを選ぶケースが増えた。もともとビール好きの愛好が強かった黒ラベルは当然この中で需要が伸びる。
それでも黒ラベルが「選ばれた」理由はある
ということで、ビール全体に追い風は確かにある…がインテージのデータでは、競合ブランドが20代購入者を2〜3割減らす中で黒ラベルだけが6割増えている。ということはやはり黒ラベル自身の強さはある。
私が感じる黒ラベルの強さは、2008年頃から始まったブランドの再定義を一貫して現在に至るまで貫いていること。この継続性だ。当時のリブランディング時、サッポロはロイヤルユーザーからライトユーザーまで徹底的に調査した結果、黒ラベルを飲む人には「ビールをわかっている感」「一目置かれる存在」というセルフイメージがあることを発見した。味のみならず、飲む人のアイデンティティに紐づくブランドだった、という発見があった。3大ビール会社「ではない」ビールを選ぶことでのポジショニング。
ここからサッポロがやったのは、味の訴求をあえて封印すること。今では超定番の大人エレベーターのCMもこのころ、2010年に開始。妻夫木聡が各界の著名人に台本なしでインタビューする。ビールの味には一切触れない。三笘薫、King Gnu常田大希、松任谷由実。「こういう大人になりたい」という憧れを喚起する設計で、味ではなく世界観を作る中核に存在する(もちろん長期で流し続ける前提だし、棚をしっかり取れるからこそ効くCMであることは間違いない)。
これが若年層にじわじわハマったのではないか。そもそもビールの味の違いを言語化できる20代はほぼいない。それほどの飲酒経験はない。「どれも大体同じ」と思われている中で差別化のトリガーは味よりもスタイル。機能訴求ではなく情緒でポジションを取るという判断は、ビール市場の同質化が進む中では独自のポジションとなる。
ミハラヤスヒロのスニーカー3万1,900円、ヨウジ ヤマモトのコラボT、ゴルフバッグ16万5,000円。これらは明らかにビールの売上を直接伸ばすものではないし、サッポロ自身も「コラボ商品単独で収益拡大を狙う気はない」と明言している。
これらの役割はビールへの関心が低い層との接点を作ることと、既存ファンの世界観への没入度を深めること。やっていること自体が重要なのだ。ビールを売るためにビールから離れている。そしてこの施策は大人エレベーターの世界観とも整合している。
注目されるオフラインでのブランド拡張

もうひとつ注目なのが昨年銀座に開かれた常設店THE BAR。
THE BARの来店者データでは「ライトファン以下」層の年間飲用量が来店後に144%に増加したとのこと。体験が購買につながっている証拠である。ただ、体験型の施策はスケールしにくい。銀座のTHE BARは30人しか入れない立ち飲みスペースであり、この場所だけの体験というよりは、二次的にSNSで拡散されることでの聖地としての機能のほうが強そうだ。
前週のマーケティングジャーニー!
実は私、Podcastもやってます!元テレビ朝日アナウンサー、現令和トラベル役員の大木優紀さんと2人でマーケティングトレンドや旅について(ほぼ)毎週30分~40分のコンテンツをお届け。
最新回ではマーケティングでよく使われるペルソナはいまどうなっているのか?そして最近話題の「界隈」について解説します。固定的なペルソナとはまた異なる生活者が所属する「界隈」。界隈はどうやって生まれ、広がるのか。私たちはどうやって界隈にアクセスすればいいのか。現代の生活者との向き合い方を考えます。
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源泉かけ流し!今週のマーケティング関連トピックス(今週は11個ご紹介!)
飲食店の「仕込み代行」で売上高21.5億円 “倒産1000件時代”に急成長する企業とは?
弊社が支援していた「飲食店の仕込み代行サービス」シコメル。
急成長で売上高20億円突破!
飲食店の倒産が過去最多になる中で、人手不足・物価高騰のダブルパンチで効率化を求められている。
店でやるべきことと工場でやるべきことを分けて中小規模の飲食店を救うサービスなんです。
Mogg5
食べログの点数、AIのレコメンド。
そんな機械的な“おススメ”に着かれた人に、偏愛を届ける。
自分の好きなレストランを「5つだけ」登録して共有するMogg5というサービスが面白い。あえて制約を掛ける人力のレコメンド。
機能は超シンプルで、自分の好きなレストランを「5つだけ」登録してシェアする。それだけ。ランキングも点数もない。
食べログの点数や、AIのレコメンドで「正解っぽい店」はすぐ見つかる。そんな時代に情報の網羅性はほとんど意味をなしていない。
だからこのサービスは、情報を「誰がオススメしているか」という属人性に集約している。
どんな基準かも示されていない。とにかく「人におすすめしたい5つのお店」だけ。
「客観的な正解」よりも、「信頼するあの人の偏愛」が信用される。
NetflixがWBCに賭ける理由 動画配信はなぜスポーツに向かうのか
NetflixがWBCを独占配信する理由。
動画サービスの加入ピークの60%はライブイベントで創出され、その85%がスポーツ。
新作ドラマやバラエティも飽和し、「いまここで見る」独自性が最も作りやすいのがスポーツ。
そしてスポーツイベントの絶対数は限られている。
WBCにbetするのもよくわかる。
ドンキ、スーパーと融合した新業態「ロビン・フッド」
ドン・キホーテの姉妹ブランドとして「ロビン.フッド」が登場。
コンセプトは「スーパーみたいでスーパーじゃない」で、“食品強化型ドンキ”とのこと。
ロピアがより特化するようなイメージ?好調のドンキを彷彿とする名称もうまい。
日用品特化で顧客接点を増やすブランドエクステンション。
広告制作業に“倒産ラッシュ” 7割が販売不振、AI対応遅れが命取りに
広告制作行が「倒産ラッシュ」。
既にAI制作の流れが広告分野も侵食していますね。
ここでいう「制作」はチラシやポスターなどの販促領域の企業が多いとのこと。ここらへんはAIの発展が途上の現時点でも一定水準が作れてしまう。
行程をAIシフトできないと潰れていくことがリアルに見えている…
ドンキ、サイバー被害のアサヒビールを勝手に応援 都内でイベント
企業が企業を「勝手に応援する」イベント。
サイバー攻撃被害にあったアサヒビールを、ドン・キホーテが応援。
いまや流通店舗はプラットフォームでありコミュニティの起点でもある。小売×メーカーが、モノじゃなく体験で企業への愛を示す。
ドンキブランドとしてもこの振る舞いは好感度高いよね。
ボンボンドロップシールに見る、シールカルチャー最前線!
圧倒的人気が過熱し、混乱で販売中止も相次いでいるボンボンドロップシール。
その人気の秘密。
2024年3月発売だが、昨年後半からそのクオリティに子供の間で人気が爆発し品薄に。
カワイイデザインやサンリオなどのIPコラボなどランナップは幅広い。実は人気の中心は子供だが、そこから保護者世代にも愛好者が拡大。
そもそも近年「ぬい活」や「ジャラ付け」など、自分の持ち物をデコレーションしていくカスタマイズ文化が広がっている。
ただのシールではなく存在感のあるテクスチャで一発でチャームになるボンドロは手軽に自分らしさを磨くツールとしては最適。
加えてこのテクスチャーもアナログな文脈で受け入れられている。近年グミが人気であるように「カワイイ」の領域は触り心地、質感にも展開している。
ボンドロはそのど真ん中の商品なのだろう。
「みそきん」に「麻辣燙」も。カップ麺発の店舗が急増する納得の勝算
カップ麺のヒット商品からの実店舗展開が今後は増加?
ヒカキンの「みそきん」
そしてウルトラバズりしたカップ春雨、麻辣燙の実店舗も吉祥寺に登場。
知られやすい小売での接点からのブランド構築で「聖地」としての実店舗が生まれる逆パターン。
ちなみに麻辣燙、マジで美味いです。ビビります。
競争激化のロードラン市場にザ・ノース・フェイス、サロモンが本格参入 トレランカルチャーで差別化
ロードランのシューズ市場、完全にフェーズが変化し、トレランが存在感を持つように。
ナイキが起こした「厚底カーボン」のスペック競争が飽和し、どの靴もそれなりに速く走れるように進化。
そこにノースフェイスやサロモンがトレランのカルチャーを活用して殴り込み。
自然、遊び、自己表現。タイムや機能というよりも、トレランの文脈で生き方を包含するような商品に。
(トレランシューズを買っている人がみんなちゃんとトレランしているとは思えないが、象徴としてのトレランの“気分”がワークしているのだと思う)
NIKEはアウトドアカテゴリーであるNIKE ACGを刷新し、各接点で強力にプロモーションを掛けている。
ロードランとトレイルランの境界はあいまいになり、市場は拡大中。
ローファースニーカーが売れている 「きちんと×楽ちん」融合シューズの進化形
ローファー型のスニーカーが人気。
走りのニューバランス、続いて出たNIKEなどスニーカーブランドの商品は即日完売が続いており、合わせて各社からも登場。
ローテクスニーカーのトレンドと、スニーカーの革靴への浸食が合わさって結実。
そもそもファッションのトレンドがテイストミックス。
ベントレーの超富裕層マーケ 「究極の1to1接客」に6年連続黒字の秘密
1台3,000万円を超えるベントレー。
超富裕層向けのマーケティングは究極の1to1接客。
車両のカスタマイズは460億通り。
徹底的な担当によって体験を設計することで、実際に車両1台あたりの収益は増加。
体験と営業が一体となって、自然に収益が上がる仕組みが形成されている。
海外現地調査レポート:BBCが服になり、MLBキャップがトレンドに——韓国「ロゴ・ファッション」の奇妙な生態系
今年ソウルに行ったとき、やたらと目についたロゴがあった。BBC EARTH。
聖水(ソンス)や漢南(ハンナム)を歩いていると、BBC EARTHのロゴが入ったアウターやフーディを着ている人が普通にいる。しかも路面のなかなか目立つ場所に店舗までできている。

BBC、もちろんあのイギリスの公共放送局のBBCだ。報道機関がアパレルブランドになっているということ。調べてみるとBBC Studiosがブランドのライセンスを出し、韓国企業がデザインから生産・流通まで全部やっている完全なファッションブランド。百貨店9店舗、Musinsaでも展開し、2025年にはオフライン30店舗超を目標する韓国らしい急拡大。
よく考えたら、似た構造は他にもある。
National Geographicのアパレルは韓国に限らずアジア中で見かける。これも韓国の会社がライセンシーとして運営していて、韓国・香港・台湾・中国で277拠点、売上3.6億ドル超。2016年のローンチから急成長。Kodak Apparelも2020年に韓国で立ち上がり、初年度170億ウォン、翌年には目標600億ウォンで韓国で100店舗を超えている。レトロなデザインはかなりカッコいい。
報道機関、地理学の雑誌、フィルムメーカー。本業がアパレルと何の関係もないブランドのロゴが、なぜ韓国で服になって売れているのか。
「ロゴを借りる」ビジネスの構造
仕組み自体はシンプルで、商標ライセンスによるもの。元ブランドが商標・ロゴの使用権を与え、韓国企業が商品企画から生産・流通・販売まで全部やる。元ブランドはライセンス料を受け取る。
ライセンシー側のメリットは認知形成コストの圧縮。ゼロからブランドを作るより、世界的に知られたロゴを使えば初期の認知獲得が格段に早い。しかももともとのブランドの力を借りることができる。2024年2月時点で韓国にはこうしたライセンス・ファッションブランドが218存在すると言われているとのこと。ライセンス大国なのだ。
なぜナショジオやBBC EARTHが「服」として成立するのか
ロゴなら何でもいいわけではなく、成功しているブランドには共通点がある。元ブランドの持つ連想が、アパレルのカテゴリとしてうまく翻訳できていることだ。

例えばNational Geographicは「探検・自然・アウトドア」のイメージを持っている。この連想はアウトドアウェアやキャンプギアととても相性が良い。なんならプロフェッショナルすら感じる。消費者がナショジオのロゴ入りジャケットを着るとき「自然を愛し探検する人」というイメージが自然にうまれる。BBC Earthも同じ構造で、自然史ドキュメンタリーの連想を「環境に配慮した素材」と「アウトドア機能」に変換。Kodakはまた違うルートで写真・フィルム・懐古の連想を「レトロ」というファッション文脈に落としている。90年代風の色使いのデザインは秀逸で個人的にもおすすめ。
ロゴが持つ「物語」を活用して、衣料という別のメディアに翻訳できるかどうかが分かれ目に。
この流れの「走り」はMLB Korea
さて、この韓国のライセンス×ファッションで最も大きく、最も早く、最も上手くやっているのがMLB Koreaだ。

韓国のファッション企業F&Fが1997年にMLBのライセンスを取得して始めた。今では韓国で280店舗規模、中国では1,100店舗超。しかも中国での価格は韓国のほぼ2倍のプレミアムブランド。日本でもはやり始めている。
僕はMLBファンなので、アメリカでも観戦ついでに現地のチームストアに行く。ドジャースタジアムやペトコパークの公式ショップで売っているグッズは知っている。もちろん日本より幅広いし様々なコラボもある。それでもソウルの漢南にあるMLB Koreaのフラッグシップストアに入ってかなり驚いた。別物なのだ。
アメリカのチームストアにあるのは、チームカラーのTシャツ、レプリカジャージ、キャップ。当たり前ながらファン向けの商品で、デザインのレベルは高いが、基本的に「チームの色とロゴを身につける」ためのもの。一方、漢南のMLB Koreaは完全にファッションブランドの発想。例えば今どきの短丈シルエットに調整されたアウター、カラーバリエーション豊富なスニーカー、大人気のキャップ、ミニ財布など細かいアイテムも。ヤンキースのNYロゴやドジャースのLAロゴがブランドロゴの代わりに入っていて、デザインの文法は完全に韓国のストリートファッション。アメリカではありえない作り方。もはやライセンス商品を超えて、MLBのロゴ資産を使った別のファッションブランドになっている。
MLB Koreaが上手い3つのポイント
第一に、ロゴの選び方。ニューヨーク・ヤンキースのNYロゴは、野球ファンでなくても知っている。ヒップホップカルチャーとの結びつきはもともと「ファッション記号」として独立した意味がある。LAロゴも同様。野球のルールを知らなくても、チームに帰属意識がなくても成立する。(したがって残念ながらMLB koreaが扱うチームロゴは限られている。オリオールズとかは残念ながらない笑)
第二に、入口商品として帽子を中核に据えたこと。MLB Koreaはなんと年間300モデル以上のキャップを開発しているらしい。帽子は単価が低く、サイズの問題がなく、男女兼用で使え、ロゴの視認性が高い。購入ハードルが低いのに「持っている感」が強い入り口として最強のアイテム。ここで入口を作り、服・靴・バッグへ展開している。もちろん野球チーム自体がキャップとの相性が良いという文脈もある。
第三に、K-popとの組み合わせ。MLB KoreaのアンバサダーはaespaのKarinaが近年ずっと務めている。K-POP女性アイドルでもトップ人気のkarinaを早くから押さえているのは強く、結果的にkarina以外もステージ衣装やプライベート衣装で着るように。Musinsaで限定のkarinaキャップを売るなど展開も余念がない。

MLB Koreaが証明したのは「IPを素材に別のブランドを作る」というモデルの威力。元ブランドの物語を翻訳し、ローカルの嗜好に合わせて再設計。シグネチャーとなる入口商品で普及させ、アジア全域へ広げていく。ロゴを借りるだけではなく、ロゴの意味を作り直すチャレンジ。このプロデュース力がある限り、韓国のライセンス・ファッションはまだまだ続きそうだ。(最近はJeepとかも見かけるね)
明日から効く!人生の糧になる書籍レビュー
アート・オブ・スペンディングマネー モーガン・ハウセル

近年ヒットを飛ばしまくっている(『サイコロジー・オブ・マネー』『SAME as EVER』)モーガン・ハウセルの新作。著者は投資・掲載メディアに多くコラムを記載してきた金融ライターである。世界的ベストセラー『サイコロジー・オブ・マネー』では「稼ぐこと・増やすこと」に着目していたが、この本は「お金をどう使うか?」についての書籍である。意外と古今東西、ベストセラー作品を眺めてみても「お金の使いかた」についてリアルに掘り下げた本は少ない。たまに見かけても「どう節約するか?」に力点が置かれている場合が多い。
一方でこの本は節約術ではなく、人間の支出を「アート」であると表現する。万人向けの公式が存在しない。ならばそれは人によって異なる千差万別のアートなのだと。従って、アートに正解がないように、支出にも正解がないと著者は説く。あくまで「自分に合っているかどうか」でしかないのだと。確かに表計算シートやマネーフォワードで家計簿をつけたとして、そこに自分の感情は入り込まない。しかし支出は感情によって大きく左右されているわけで…と考えるとこの本の指摘は非常に芯を食っていると僕は感じるのだ。
この本が教えるのは家計術やライフハックではない。従ってそのアドバイスが抽象的に映る面もあるかもしれない。ただ、この本が支出の最も価値あるリターンを「心の平穏(peace of mind)」と表現していることに気づけば、自らの支出のコントロールは少しだけ楽になるのではないか、そう思う。「誰かのための支出、見せつけるための支出」は決して望ましいものではない。だいたい皆さんも勢いで見せつけるために買ったものの、後で後悔した例は多いはずだ。一方で自分の心の平穏につながるものなら、それは自分に合っている支出である。支出とは意思決定であり、糧になる決断を積み重ねていけるなら、支出はいつだって自分の力になる。
「意志ある支出」をどう積み重ねて人生を実りある、そして平穏なものにするか。そのヒントがこの本にはある。
今週の1曲
Thundercat - 'She Knows Too Much (feat. Mac Miller)'
Thundercatはベーシストであり歌手でもあるジャンルレスなアーティスト。ファンク、ジャズ、エレクトロポップなどジャンル横断的にソロプロジェクトで発信を続けてます。今回、6年ぶりの新作アルバムの先行曲として出たのがこの「She Knows Too Much」。弾むような曲調のファンクな曲で軽やかにリズムを刻む。切なさを残しつつも軽やかに音で遊ぶような音が気持ちいい曲なんですが、この曲の正式タイトルにはMac Millerの名前がある。
そう、8年前に亡くなったあのMac Miller。今でもアメリカの社会問題になっているフェンタニルなど複数の薬物の過剰摂取により26歳という若さで早逝した天才的なラッパーであるプロデューサー。(アリアナ・グランデと交際していた、という逸話も有名かな)
そんな彼の友人であったThundercatが亡くなる前にセッションした素材を改めて完成させたのがこの曲。2人の友情が8年の時を経て形になった曲でもある。実際、ミュージックビデオはアニメーションで2人の関係を表現していて、二人がめちゃくちゃな一日を過ごすさまを曲に合わせて楽しくカッコ良く描いている。亡くなった友人に贈る曲は必ずしも切なくある必要はない。2人が音楽で遊んだ日々をそのまま冷凍保存したかのような苦い楽しさが味わい深い曲になっている、聞いているとそんな気がします。
最後に!
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